マッテオ・マンクーゾが語る、ロックとジャズを繋ぐ新世代ギタリストの感性とルーツ

マッテオ・マンクーゾ(Matteo Mancuso)は、近年のギター界における最重要人物の一人だ。イタリア・シチリア出身、1996年生まれの彼は、ピックを使わない独特のフィンガースタイルを駆使した超絶プレイによって、動画サイトを中心に脚光を浴びてきた。ロックやクラシックからジャズ・フュージョンまでを自在に横断する音楽性と、高度なインタープレイが高く評価され、スティーヴ・ヴァイからコリー・ウォンにいたるまで、世界中の名手たちが絶賛。今やトップギタリストとして、世界中から引っ張りだこの存在となっている。

そんな彼がニューアルバム『Route 96』を発表した。スティーヴ・ヴァイや、フランスのマヌーシュ・ジャズ系ギタリスト、アントワーヌ・ボワイエをゲストに迎えていることからも、その音楽性がさらに幅を広げているのは一目瞭然。同時にギタリストとして、作曲家として大きく成長を遂げたことを物語る作品となっている。

まもなく5月にGREENROOM FESTIVAL、ビルボードライブ東京・大阪で初来日公演を開催するマッテオ。その直前に実現したインタビューで、僕(柳樂光隆)は改めて彼の影響源をしっかりと聞いてみたいと思った。それこそが『Route 96』を聴くためのヒントにもなると思ったからだ。

父から学んだフィンガーピッキング

—ピックを使わず、フィンガーピッキングでエレキギターを演奏するという、非常にユニークなスタイルをお持ちですよね。過去のインタビューでは「ギタリストである父親がそういう弾き方をしていたから、自分にとってはそれが自然だった」と語られていますが、その認識で間違いないでしょうか?

マッテオ:うん、その通り。ただ、僕の父はピックやフィンガーでも弾けるんだ。当時、父はクラシックギターをたくさん弾いていて、そのときはもちろん指で弾いていた。でも当時の僕は、「エレキはピック、クラシックは指」みたいな区別を知らなかった。ただ単純に、「ギターってこうやって弾くものなんだ」と思っていた。どんなギターでも好きなやり方で弾けばいいと思っていたんだ。それで後からピックの存在を知ったんだけど、もう一からやり直すのが面倒だったんだよね(笑)。だからそのまま指で弾き続けたって感じ。

出発点として父の影響はすごく大きい。おかげで、自分なりのフィンガースタイルを見つけたんだ。僕はいまだにピックではちゃんと弾けないんだよね。

―そのエピソードを聞いて思ったのは、変わった弾き方をしている子供がいたら、「いや、そうじゃなくてピックを使いなさい」って指摘する大人が周りにいそうなものですよね。

マッテオ:もちろん父はずっと近くにいたし、最初の先生でもあったけど、僕に「こうしろ」と強制することは一度もなかった。本当に自由だったんだ。自分が好きなものを好きなように学べたし、父自身が好きじゃないものですら自由にやらせてくれた。例えば、僕は一時期メタルにすごくハマっていたんだけど、父はあまり好きじゃなかった。でも父は「お前が楽しんでるなら、それでいい」と言ってくれた。「自分が好きなものを無理に押し付けたくないし、自分が”お前のためになる”と思っているものを強制したくない。ただ楽器を楽しみなさい」っていう考え方だった。

だから、クラシックを除けば、自分がやりたくないことを無理に勉強させられることはなかった。僕が楽器を楽しむことを最優先してくれたんだ。

―すごく恵まれた環境だったんですね。お父様に教わったことで、今の自分の音楽性にとって特に役立っていると思うことは?

マッテオ:すごく大きかったのは、一緒に演奏するときのルール。父がソロを弾いている時は僕がコンピングをする。逆に僕がソロを弾く時は父が伴奏する。そういうことをずっとやってきた。だから、誰かがソロを弾いている時にどう伴奏するかを学べたし、自分がソロを弾く時に、相手とどう一緒に演奏するかも学ぶことができた。それって、ただ一人で弾くのとは全然違う。一人で弾くだけなら、自分だけのタイミングで演奏できる。でも他の人と演奏するなら、リズム的に相手とちゃんとロックしなきゃいけない。それによって、すごくいい意味での内部的なタイム感が育ったと思う。

僕がクラシックギターであまり好きじゃないのは、基本的に譜面と一対一で演奏するところ。クラシックギターって、オーケストラの楽器ではないから、他の人と一緒に演奏する機会がそんなに多くない。でもエレキギターは逆。ドラマーやベーシストと常に一緒に演奏するし、他のギタリストと演奏することもある。そこがすごく魅力的だったんだよね。

父と演奏できたのは本当に大きかった。目の前に本物のギタリストがいて、一緒に演奏しながら、ある意味では競い合うこともできる。その中でタイミングやリスニング能力が育っていったんだ。知らないコードが出てきたら、僕はすぐ演奏を止めて、「そのコード教えて」って父に訊くんだ。フォームがわからなかったりするからね。演奏しながら学んだよ。その相手が常に家にいるってのも最高だよね。

Photo by Paolo Terlizzi

―その後、高校で学んだことについても教えてください。クラシックギターやクラシック音楽を勉強していたのでしょうか?

マッテオ:そこで学んだのはクラシックギターだけだね。だから最初の5年間はずっとクラシックギターを勉強していた。ジャズギターを勉強し始めたのは、その後、パレルモ音楽院に入ってから。

まず正直に言うと、僕はそんなに優秀なクラシックギターの生徒ではなかった(笑)。最初の数年間は、学校に対してもそこまで熱心じゃなかった。というのも、エレキギターに夢中だったからね。さっきも言ったように、僕にとってはクラシックよりエレキの方が圧倒的に魅力的だった。エレキなら他の人と一緒に演奏できるけど、クラシックではそれができない。だから僕にとっては、エレキの方がずっと実用的だったし、何より楽しかったんだ。

ただ、その認識は少しずつ変わっていった。特に最後の2年間くらいからは、かなり真剣にクラシックギターを勉強するようになった。それによって得たものはたくさんある。特に左手のテクニック。クラシックギターではポリフォニックなものをたくさん弾くので、左手の強さがかなり鍛えられる。一方でエレキでは、シングルノートラインを弾くことが多い。そこは全く違う。そういう意味で、クラシックギターを勉強したことは確実に役立っている。

それと、爪の伸ばし方もクラシックギターから学んだね。僕はエレキでも爪を使っているから。今も右手の爪を少し伸ばしてるし、「爪を育てる感覚」をエレキにも持ち込んだんだ。単純に、爪を使った方が自分の好きな音が出るからね。指の肉だけで弾くより、少し明るい音になる。そっちの音のほうがしっくりきたんだ。

パット・メセニーからカート・ローゼンウィンケルまで、ジャズギタリストの影響

ーその後、パレルモ音楽院に行ってジャズをやるようになったそうですが、大学ではどんなことを学びましたか?

マッテオ:一番大きかったのは、ステージ上で他の人とどう関わるかを学んだこと。特に強く印象に残っているのは、「最高のインプロバイザー(即興奏者)は、最高のリスナーでもある」ということだね。つまり、ステージ上で一緒に立っている人たちの演奏にどれだけ耳を傾けられるか。それによって即興演奏の質が変わってくる。インプロビゼーションはほとんどの場合、その瞬間に聴こえているものへのリアクションだから、他の人を聴かずに自分の音だけを聴いていたら、演奏のアイデアもあまり出てこない。僕自身、いつも周囲から聴こえてくる音からアイデアを得てきた。それは即興において本当に重要なことなんだ。

もちろん、今の自分のボキャブラリーも、その頃にかなり発展していった。ある時期、ひたすら採譜して分析していたから。いろんなジャズ系のソロをたくさん採譜したんだ。ジョー・パスのソロもそうだし、オスカー・ピーターソンみたいなピアニストのソロ、(管楽器奏者である)チャーリー・パーカーやジョン・コルトレーン、マイケル・ブレッカーのラインもかなり研究した。僕が欲しかったのはギター的なものだけではなく、もっとジャズ全体のボキャブラリーだったから。特にビバップとブルースは、僕が普段演奏しているものの土台にある。

マッテオ、ジョン・コルトレーン「Giant Steps」をギターで演奏

―とはいえ、ギタリストもかなり研究されたんじゃないかと思います。大学時代に特に研究したギタリストの話を伺いたいです。

マッテオ:最初に思い浮かぶのは、パット・メセニー、ジョージ・ベンソン、それからジョー・パス。ただ、そんなに大量にソロ全部を採譜していたわけではなくて、各プレイヤーにつき2〜3曲くらいのソロをやる感じだね。しかも全部を丸ごと覚えるというより、その中で特に好きなラインを覚えて、それをいろんなキーで弾けるようにしていった。僕がずっとやっていたのは、そういう「ソロからボキャブラリーを学ぶ」作業だった。他には、ウェス・モンゴメリーもかなり研究したよ。

マッテオ、ジョー・パス「Night and Day」のソロを採譜

―かなり王道というか、音大のジャズ科のギタリストが研究するであろう基本的な名前が挙がったように思いますが、まずはパット・メセニーからの影響について聞かせてください。

マッテオ:彼に惹かれる大きな理由は作曲センス。20世紀最高のコンポーザーの一人だと思う。特にパット・メセニー・グループでの作品、『Offramp』『Letter from Home』『Imaginary Day』は今でも大好きなアルバムだね。それに、キャリアを通してアルバムごとに全然違うことをやってきたところにも惹かれる。例えば『Bright Size Life』は、後期の作品とまったく違うよね。彼は一つのスタイルに留まらなかった。僕もアルバムごとに違うことをやっていきたいと思ってるから。

マッテオ、パット・メセニー・グループ「Have You Heard」(『Letter from Home』収録)を演奏

―あなたの世代だと、さっき名前を挙げてくれた人たちよりも、もっと後の90年代とか2000年代以降に活躍したギタリストたちもベーシックな研究対象になっていますよね。

マッテオ:そうだね。もっと現代寄りのギタリストで当時よく聴いていたのは、まずジョナサン・クライスバーグ。それからカート・ローゼンウィンケル。僕が音楽院に入った頃は、この二人が新世代ジャズギタリストとしてすごく人気だった。

他には例えば、ジョシュ・ミーダーというギタリスト。彼はほぼ僕と同世代で、純粋なテクニックという観点で見ると、僕が見てきた中でもトップクラスだと思う。彼はどちらかというとジャズ・フュージョン寄りのプレイヤーで、ロックギタリストという感じではないけど、本当にいろんなものを弾ける。特に、終わりのないラインを延々と展開していくような、ものすごいボキャブラリーを持っていて、かなり驚異的だね。

ブラジル出身のアンドレ・ニエリも好き。彼は、エレキギターで指弾きとピック弾きの両方をかなり高いレベルでやっている数少ないギタリストの一人。音楽的にはロック・フュージョンとか、かなりメタル寄りの方向性だけど、クラシックギターも弾けるし、クラシック的なものも演奏していて、実に興味深い存在だ。

ロシアのマックス・オスターもすごいね。僕が見てきた中でもトップクラスだと思う。こんなふうに、たくさんのギタリストをフォローしているよ。基本的には自分と同世代か、少し上くらいの世代が多いかな。

ジョシュ・ミーダー

アンドレ・ニエリ

―最初に名前が挙がったジョナサン・クライスバーグについて。どんなところに惹かれて、どんな研究をしたんですか?

マッテオ:彼のことはYouTubeで知って、それからSNSもフォローするようになった。ちょうどその頃、僕はジャズスタンダードを大量に覚えようとしていた時期だった。レパートリーを増やしたくてね。彼が演奏する「Autumn in New York」は、今でも僕にとって最高のバージョンで、魔法みたいな演奏なんだ。もちろん音も素晴らしい。彼はGibson ES-175を使い続けている数少ない一人で、僕からすると「古いジャズギターのサウンド」と「新しいジャズギターのサウンド」の理想的なバランスを感じさせる。長いディレイ、深いリヴァーブといった現代的な音響感覚も備わっているし、伝統的なジャズギターのボディ感とか低域感もしっかり残っている。ジャズ界の中でも特に好きな音の一つだね。

カート・ローゼンウィンケルも、コンポーザーとして本当に大好き。例えば最近の作品『Caipi』を聴くと、演奏だけじゃなくて作曲面でも学ぶことが多い。この二人はどちらも興味深い存在なんだ。

ジョナサン・クライスバーグ「Autumn in New York」

―あなたとカートは、例えばアラン・ホールズワースからの影響という点で繋がっているようにも感じます。カートから得たものについてもう少し聞かせてもらえますか?

マッテオ:カートは、サックスやピアノに影響されたラインを弾く人だと思う。「ギタリストを聴いている」というよりは「ギターを使って即興している音楽家」を聴いているような感覚で、自分の耳に従って即興している数少ない一人だと思う。使い回しのフレーズを弾いている感じがしなくて、常に新しいものを即興で作ろうとしている。

そのうえで彼には、強固なビバップのバックグラウンドがある。演奏を聴けば、チャーリー・パーカーや伝統的なビバップを大量に吸収してきた人なんだとわかるよね。僕が好きなギタリストは、ブルースかビバップのバックグラウンドを持っている人が多いから。例えば、スコット・ヘンダーソン。確固たるブルース奏者で、ジャズへの深い理解もある。そういう背景を持っている人は、だいたい好きになる。

もちろん、カートと僕は全然違うプレイヤーだし、サウンドの傾向も違う。僕はもっと伝統的なディストーション・サウンド、アグレッシブな歪みの方向に寄っている。例えば80年代のギタリストたち、エディ・ヴァン・ヘイレンやスティーヴ・ヴァイみたいな人たちからの影響もすごく大きいからね。だから共通点もあるけど、影響源は違う部分もあるよね。

カート・ローゼンウィンケル『Caipi』

ジャズとロックは「お互いを補完し合うもの」

―スコット・ヘンダーソンの名前が出ました。特にどのあたりに惹かれているのか聞かせてもらえますか?

マッテオ:ある時期、スコット・ヘンダーソンと(彼が在籍した)トライバル・テックばかり聴いていたんだ。僕にとってはすごく重要な時期だった。自分が「Snips」というトリオをやっていた頃、サウンド的にも、かなりああいう方向を目指していた。

当時は、グレッグ・ハウ、フランク・ギャンバレみたいなギタリストもたくさん聴いていたんだ。一般的にはフュージョン系ギタリストと分類されると思うけど、ロック的な要素もあって、僕はディストーションサウンドで演奏するギタリストに惹かれていたから、馴染みのあるサウンドだったんだよね。でも同時に、彼らはジャズのラインを大量に弾いているし、コードチェンジの上でしっかり演奏している。どうやってこのスタイルが成立しているのか理解したかったんだ。

だから、その時期はスコット・ヘンダーソン、アラン・ホールズワース、フランク・ギャンバレみたいな、ジャズロック寄りのギタリストをたくさん聴いていた。僕が「ジャズっぽいライン」を最初に覚えたのも、実はそういうギタリストたちから学んだんだ。その点では、ジョン・スコフィールドからも大きな影響を受けてる。トライバル・テックは世界最高のフュージョンバンドの一つだと思う。特に『Face First』は、この種の音楽に興味があるなら絶対に聴くべきアルバムだよね。

トライバル・テック「Seek and Find」のソロを弾くマッテオ

―フランク・ギャンバレは、どんなところがお好きですか?

マッテオ:フランクについては、本当に語ることが多いんだ。初めて聴いた時、ギターという楽器に対する認識そのものが変わるタイプのプレイヤーだったからね。技術的な観点から言っても、彼は間違いなく最高峰の一人。音色のクリーンさもそうだし、彼のラインって独特なんだよね。誰かをコピーして作られたのではなく、まるでゼロから自分のスタイルを作り上げたように感じる。もちろん、ブルースやジャズの要素はあるけど、それを使いながら完全に自分の言語を作っている。最初の3音くらい聴けば「あ、フランクだ」ってわかる。

チック・コリア・エレクトリック・バンドでの仕事も大好きだし、ティーンの頃に特によく聴いていたのは『Thunder from Down Under』。フランクの作品では今でも一番好きだね。

―その系統だとロベン・フォードはどうですか?

マッテオ:大きな影響源だね。最初に聴いたのはマイルス・デイヴィス経由だった。ロベンがマイルスと一緒に演奏していた時期が少しあって、それからイエロージャケッツの作品も聴くようになった。ラインもいくつか採譜した。僕は本当にたくさんのギタリストから、ラインを少しずつ採譜して、「どういう仕組みで動いているのか」を理解しようとしていたんだよね。ロベンもその一人で大きな存在だね。

―ロック的なフィーリングを強く打ち出しつつ、そこにジャズの要素を入れていくギタリストって、実はかなり少ないですよね。マッテオさんは、その中間を新しい形で掴もうとしているような印象です。その部分で、特に意識していることはありますか?

マッテオ:どんな音楽をやるにしても、一番大事なのは「自分がリアルに感じられるか」だと思う。演奏していて鳥肌が立つようなものでなきゃいけない。ジャズでもロックでも何でもそうだけど、自分自身が感情的に動かされるものでなければ意味がないと思っている。

僕はもともとロックプレイヤーとしてスタートした。最初はレッド・ツェッペリンから入って、ディープ・パープルやジミ・ヘンドリックスも聴いてきた。だから、自分のギターの”声”の一部は、ディストーションサウンドから来ている。指弾きだから「クラシックギターから始めた」と思われることが多いけれど、最初に始めたのはエレキギターだった。しかも、最初からディストーションを効かせてね。だから、自分にとって”自然なエレキギターの音”というのは、最初から歪んだ音だったんだ。

僕にとってクリーントーンはコードを弾くための音で、リードを弾くならもっと歪ませる必要がある、という認識だね。それって、自分にとってはほとんど”声”みたいな感覚なんだ。ギターで人間の声に一番近づける方法って、チョーキングやヴィブラートだと思う。でも、そういう要素って伝統的なジャズギターではそこまで前面に出てこない。だからこそ、自分は最初にそこに惹かれたんだと思う。もし自分をどちらかに分類しなきゃいけないとしたら、ジャズプレイヤーよりはロックプレイヤーだと思う。もちろん、本当はどちらかに決めたくないんだけどさ(笑)。

でもね、ロックとジャズって共通点もたくさんあるんだよ。例えばAC/DCを聴いてみると、すごくスウィングしている。普通、スウィングってジャズの特徴として語られるよね。でも、ロックンロールのリズムギターにも強いスウィング感があるんだよ。だから、この二つの音楽を結びつけることも、僕にとっては自然なことなんだ。さっき言ったスコット・ヘンダーソンなんかは、まさにその理想的な例だよね。

僕はジャズとロックを「対立するもの」だとは思っていない。お互いを補完し合うものって考えてるよ。

—ちなみにマッテオさんのファンは、プログレやプログレッシブ・メタルが好きな人も多いと思うのですが、その辺りのジャンルはいかがですか?

マッテオ:もちろん、かなり通ってきたよ。その方面で最初に触れたのは、いわゆる伝統的なヘヴィメタルだった。アイアン・メイデンやブラック・サバス、80年代のメタルを10代の頃にかなり聴き込んでいたし、当時はメタルばかり演奏していたんだ。オジー・オズボーンの「Crazy Train」、アイアン・メイデンの「The Trooper」といった定番曲をずっとコピーしていたよ。その後、17歳か18歳くらいの頃にドリーム・シアターを知って、一気に夢中になった。特に『Images and Words』。自分が初めて本格的にプログレ的な影響を受けたアルバムだったと思う。

マッテオ、ドリーム・シアター「Under a Glass Moon」を演奏

アルゴリズムに左右されるのではなく、100%自分らしい作品を

―アラン・ホールズワースの話に戻ると、ロック的な部分とジャズ的な部分、特殊な演奏スタイル、複雑なハーモニーやレガートなど、マッテオさんといくつも共通点がある気がします。

マッテオ:スコット・ヘンダーソンと同じで、ある時期、アラン・ホールズワースばかり聴いていた時期もあった。正直、その頃はかなり彼の安っぽいコピーみたいになっていたと思う(笑)。僕はいつも、「エレキギターにはアラン以前とアラン以後がある」と言っている。それくらい巨大な存在なんだ。エディ・ヴァン・ヘイレンやジミ・ヘンドリックスと並んで、本当の意味でイノベイターと呼べる数少ないギタリストの一人だよ。

―彼の影響は多岐に渡りますよね。例えば、プログレッシブ・メタルの「ジェント」と呼ばれる方面にも影響を与えている。その中で、アラン・ホールズワースの影響を新たな解釈で発展させているのがマッテオさんだと思うのですが、特にどんな部分から影響を受けたと思いますか?

マッテオ:自分が使っている語彙の一部、特にディストーションサウンドの中で使うフレーズやアイデアには、かなりアランの影響がある。ただ、音をそのままコピーしたというよりは、彼のアイデアにインスパイアされた感じだね。実は、アランのソロって一度も本格的には採譜していない。なぜなら当時の僕には、あまりにも複雑すぎたんだ。今なら理解できるけど、当時は信じられないくらい複雑に感じたんだ。だから、僕が影響を受けたのは、ラインそのものというより、サウンドとかヴィブラートの使い方、メロディに対するアプローチだね。

例えば、彼はよくメロディの中でアームを使うよね。多くの人はアランというと「音数が多い」「複雑でエキセントリックなライン」みたいな部分を思い浮かべると思うけど、本当にすごいのはメロディの弾き方で、アームの使い方、ヴィブラートの使い方によって、別の楽器みたいに聴かせることができるんだ。その部分にはかなり影響を受けているよ。

マッテオ、アラン・ホールズワース「Fred」を演奏

―「ピックを使わずに演奏する」部分について掘り下げると、例えばクラシック以外でも、ジャズではレニー・ブローのように、クラシック的な奏法を使う人っていますよね。そういう人たちを研究したことはありますか?

マッテオ:多少ね。自分が重点的に聴いてきた人たちではないかな。自分のコード・ボキャブラリーは、どちらかというとジョー・パス系の演奏に由来するものだ。あとは影響源でいうと、ビレリ・ラグレーンとシルヴァン・リュックは巨大な存在だね。

―マヌーシュ系のギタリストが大きかったと。

マッテオ:そうそう。アンジェロ・デバールや、新しい世代だとアドリアン・モワニャールが大好き。新世代のマヌーシュ系プレイヤーは、ジプシージャズだけを弾いているわけじゃない。クラシックギターも弾くし、エレキも弾く。本当にオールラウンドなんだよね。

フランスのマヌーシュ・ジャズ系ギタリスト、アントワーヌ・ボワイエと共演した「Isla Feliz」

―あらゆるギタープレイヤーを研究し尽くして、その中から自分に必要なものを選び取っている感じなんですね。

マッテオ:まあ、だいたいそんな感じだね。一つのスタイルだけに留まるには、好奇心が強すぎるんだと思う。違う音楽にはどんなアプローチがあるのか、常に気になってしまう。ジプシージャズも演奏していて楽しいし、探求できることが本当に多い。即興が含まれている音楽なら、だいたい好きだね。

―あらゆるギタースタイルを研究して、いろんな要素を取り入れながら、しかも特殊な奏法で演奏する。そんな自分のスタイルを活かすために作曲するうえで、どんなことを意識していますか?

マッテオ:常に「聴くこと」のプロセスかな。自分の中で、なるべく良い”音楽的な食生活”を保とうとしている。いつも新しい音楽を聴くようにしているし、いろんなところから少しずつコピーもする。自分が好きな音楽から、できるだけ多くのものを吸収したいんだ。

例えば、「この曲、すごく好きだな」と思ったら、「なんで好きなんだろう?」って考える。どんな音楽的選択が、自分にこの曲を好きにさせているのか。そして、「それをどうやって自分の曲に応用できるか」を考える。結局、作曲って、自分が本当に好きだったものを再現しようとする行為だと思うんだ。もちろん、その過程で自然と自分のものになっていく部分もある。でも、基本的には「自分が聴きたいのに、まだ存在していない音楽を作りたい」という感覚だね。ただ、それも結局は、自分が過去に聴いてきた音楽の延長線上にあるもの。完全にゼロから新しいものを作ることなんてできない。新しいものの中にも必ず、自分が愛してきた音楽との共通点はあるはずなんだよ。

Photo by Paolo Terlizzi

―ちょっと違う角度の話ですけど、イタリア出身であること、地中海に面した地域の出身であることは、自分に何か影響を与えていると思いますか?

マッテオ:うーん、どうだろう。正直わからないな。でも、生まれ育った場所っていうのは、確実に生き方や演奏の仕方に影響すると思う。演奏っていうのは、自分自身の人格を投影する行為だから。だから、地理的な環境も何かしら関係しているとは思うけど、自分はそこまでイタリア音楽をたくさん聴いてきたわけではないからね。いわゆる伝統的なタランテラとか、「ピッツァ、モッツァレラ的なイタリア音楽」をたくさん聴いてきたタイプではないし(笑)。

だから、自分の音楽的影響を辿っていくと、ほとんどアメリカ音楽なんだよね。地理的背景との直接的な共通点は、そこまで多くない。ただ、例えばアル・ディ・メオラはすごく好きだし、そこには地中海的な感覚とか、ラテン的な感覚もある。そういう意味では、アル・ディ・メオラ経由で繋がっている部分はあるかもしれない。場所としてのイタリアにはすごく強い愛着があるんだけどね。

―最後の質問です。あなたの存在はYouTubeやソーシャルメディア経由で知られるようになった部分があると思いますが、実際に作品を聴くと、”映える”タイプの音楽を作ろうとしているようには聴こえなくて。今日のお話を聞いていても、すごく地に足がついている印象があります。今みたいな時代にアーティストとして活動することについて、どんなことを考えているのでしょう?

マッテオ:僕はソーシャルメディアの恩恵にかなり預かっている。実際、そのおかげでシチリアに住み続けることができたようなものだ。昔だったら、誰かと演奏したり、人脈を作ったり、レーベルと繋がったりするには、ロンドンやニューヨークのような大都市に住む必要があった。でも今は、少なくとも昔ほどはその必要がないと思っている。僕たちの世代は本当にラッキーだったよね。YouTube、Facebook、Instagramが盛り上がり始めた初期の時代にそれらを使えたから。ソーシャルメディアの良い部分を最大限活用できた世代だって思ってる。

それに自分の演奏スタイルがソーシャルメディアと相性が良いという感覚は、なんとなくあったんだ。だから動画の投稿を始めることにした。最初はただ練習風景を録画していただけ。YouTuberとかインフルエンサーになりたかったわけじゃない。僕にとって最初の目標は、あくまでミュージシャンであること。そのための手段としてソーシャルメディアを使っている、という感覚だった。

自分の中でずっと大事にしているのは、常に自分自身でいること。「映える」「アルゴリズムに強い」みたいなことや、InstagramやFacebookを意識しすぎて、自分の音楽を変えたりしたくはない。100%そのまま自分らしい作品を出していきたいんだ。それがうまくいくかどうかは関係ない。ただ、自分の音楽と、自分の演奏をそのまま共有したい。きっと興味を持ってくれる人もいるし、逆に嫌う人もいるだろう。でも、それが自然なことだと思ってる。少しでも個性があるなら、好きな人と嫌いな人が必ず出てくる。それが音楽やアートというものだから。

マッテオ・マンクーゾ

『Route 96』

配信中

再生・購入:https://MatteoMancusoJP.lnk.to/Route96RS

日本盤CD:2026年5月27日リリース

予約・購入:https://MatteoMancusoJP.lnk.to/Route96jpCDRS

■ボーナス・トラック1曲収録

■解説:和田信一郎(aka s.h.i.)

■高音質BSCD2仕様

■本人Q&A掲載

【来日公演情報】

GREENROOM FESTIVAL '26

2026年5月23日(土)、24日(日)横浜赤レンガ倉庫

※マッテオ・マンクーゾは5月23日(土)16:35より[RED BRICK]ステージに出演

イベント公式サイト:https://greenroom.jp/

ビルボードライブ大阪

2026年5月26日(火)

1stステージ 開場 16:30 / 開演 17:30

2ndステージ 開場 19:30 / 開演 20:30

詳細:https://www.billboard-live.com/osaka/show?event_id=ev-21279

ビルボードライブ東京

2026年5月28日(木)

1stステージ 開場 16:30 / 開演 17:30

2ndステージ 開場 19:30 / 開演 20:30

詳細:https://www.billboard-live.com/tokyo/show?event_id=ev-21280

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