
ビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)の最新ツアーを収めた映画『ビリー・アイリッシュ - HIT ME HARD AND SOFT: THE TOUR (LIVE IN 3D)』が、本日5月8日(金)より日米同時公開。ジェームズ・キャメロンとビリー本人が共同監督を務めた本作、米Rolling Stone誌の映画評をお届けする。
※本記事には映画の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい
ビリー・アイリッシュの素晴らしい新作コンサート映画『HIT ME HARD AND SOFT : THE TOUR (Live in 3D)』は、2人のオスカー受賞者、すなわちジェームズ・キャメロンとビリー自身が監督を務めるという稀有な作品だ。『タイタニック』を撮った男と「LUNCH」を作曲した女という、全く異なる世界の住人どうしによる異色のペアである(ちなみに彼女は、皆が覚えている『バービー』の曲と、皆が覚えていないジェームズ・ボンドのテーマ曲で、2度アカデミー歌曲賞を受賞している)。没入感を高めるための3D映画ではあるが、スクリーン上でも、そしてステージの上でも、ビリー・アイリッシュのような存在は地球上に他にいない。
『HIT ME HARD AND SOFT: THE TOUR (LIVE IN 3D)』は、アニメーションを多用した2021年の『ハピアー・ザン・エヴァー:L.A.へのラブレター』、2023年の『ハピアー・ザン・エヴァー・ライヴ〜O2アリーナ エクステンデット・カット〜』に続く、彼女にとって3本目のコンサート映画だ。3Dエフェクトはあるものの、本作は最終的に、飾り気のないステージショーを真正面から捉えたものとなっている。ツアーと同様、すべてはビリー自身と、彼女の極めてパーソナルな楽曲の力に集約される。舞台裏でのふざけた騒ぎを映し出すドキュメンタリーではない。ビリーがステージで「THE GREATEST」や「Happier Than Ever」を熱唱する、そのアーティストとしての絶頂期における感情的な親密さを邪魔するものは何一つない。
ショーは「CHIHIRO」と「LUNCH」で力強く幕を開け、コンサート全体のトーンを決定づける。ダンサーも、衣装替えも、派手な演出もない。ただ、ビリーが自身の歌に命を吹き込むだけだ。彼女は、一人の女性が観客と一対一で向き合っているかのように感じさせるべく心血を注いでいる。ある場面では、観客の中を駆け抜けてファンとハイタッチした際にできた手のひらの擦り傷を、彼女がカメラに見せる一幕もある。
『HIT ME HARD AND SOFT』ツアーは、彼女にとってこれまでで最も野心的なライブの試みだった。同時に、兄であり音楽的パートナーでもあるフィニアス・オコネルが不在のまま、初めて彼のサポートなしで観客と向き合うツアーでもあった。劇中には、ケベックでの初日の夜に彼から届いた花束を振り返り、添えられたメッセージを読み上げる、胸を打つシーンがある。
本作には、舞台裏のソファに腰かけたビリーが、巨大なカメラを肩に担いだキャメロンと語り合うインタビュー映像がふんだんに盛り込まれている(その姿はどこかぎこちなく、滑稽ですらある)。キャメロンは常に技術の魔術師であり、必ずしも人間味で知られるタイプではないが、彼は彼女の土俵でポップミュージックの言語を話そうと懸命に努めている。映画の大部分において、彼は彼女と交流する唯一の人間となっている。
しかし、焦点はあくまでビリー一人に絞られており、実質的に彼女のソロショーのような体裁だ。「全部自分にかかっている感じ」と、彼女はキャメロンに語る。「これまでのツアーも、基本的には私が走り回って飛び跳ねているだけだった。それは、私がもっと若かった頃に大好きだったラップやヒップホップの影響で、彼らのパフォーマンスをお手本にしているから。ただ自由になりたくて。ステージで男の人がシャツを脱いで走り回り、飛び跳ねる、あの感じ。そして観客全員が、その場全体をジャンプさせ、釘付けにできるステージ上の一人の人間に圧倒されている。そんな姿に憧れていた」。それこそが、彼女が常に目指してきたパフォーマーの姿だ。「女の子がそれをやっているのは見たことがなかった」と彼女は言う。「ステージ上に大勢の人を上げたくない理由の一つはそれ。私と彼ら(観客)だけ、という感覚でいたいから」
最高な場面の一つは、彼女がキャメロンを舞台裏の聖域「パピー・ルーム(子犬の部屋)」へ案内するシーンだ。そこで彼女は地元のシェルターから連れてこられた犬たちを抱きしめる。「ツアーは本当に過酷で、心身ともに削られる」と彼女は言う。「スタッフのみんながリラックスできるように、パピー・ルームを作っている」。これは彼女のツアーにおける恒例のルーティンだそうで、「誰もが犬の愛を必要としている」と語る。それに対し、キャメロンは「次の僕の映画でも絶対にやるよ」と応じている。
映画では、巨大なキューブの中から客席へと放り出されるシーンなど、彼女がいかにしてステージ演出を実現しているかの裏側も明かされる。キューブの内側には、「ここはイギリスのマンチェスター」という親切なメモが貼られている。全員がカメラを意識しており、ステージに上がる前にはバックバンドが「ワン、ツー、スリー、3D!」と掛け声を上げる。捻挫した足首にテーピングを巻く姿や、駐車場でキャンプをしているファンに窓から手を振る様子も、一瞬だけ映し出される。
キャメロンと兄以外の人間に接する彼女の姿は描かれないため、オフの生活や内面的な思考に深く踏み込もうとする試みはない。彼女の強烈な個性は概ね抑えられており、ライブのクリエイティブなプロセス(「ヘアメイクも自分でやっている」)や衣装については語るものの、楽曲制作や作詞作曲については触れない。バックミュージシャンたちは、まるでコーヒーメーカーのような扱いだ。彼女は徹頭徹尾、仕事に徹している。
ビリーが観客に歌を委ねた瞬間、全く別の歌へと変貌を遂げる
2018年の記念すべきデビュー作からは、騒々しい「bad guy」や、幻想的で不気味な「bury a friend」が披露される。これこそが世界が最初に恋に落ちたオリジナルなビリー・アイリッシュであり、『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』で見せた、風変わりなベッドルーム・ポップの構想家としての姿だ。しかし、ショーの中心は、その後の2枚のアルバム『Happier Than Ever』と『HIT ME HARD AND SOFT』からの告白的な楽曲にある。たとえ世界が彼女にデビュー時の路線のままでいてほしいと願ったとしても、彼女はこれらの作品でアーティストとしての格を一段引き上げたのだ。
映画の中で最もパワフルなシーケンスは、終盤、ビリーがギターを手に取り、最も心に響く3曲「Your Power」「SKINNY」「TV」を披露する場面だ。ソングライターとして、パフォーマーとして、そして純粋なボーカリストとしての彼女の圧倒的な実力が見て取れる。「21歳になるのに一生分かかった(21 took a lifetime)」と振り返りながら、剥き出しの感情を乗せて高音を響かせる姿は圧巻だ。「What Was I Made For?」は、不可避なほどに抗いがたい魅力を放つ。深い個人的な嘆きの歌が、ビリーが観客に歌を委ねた瞬間、全く別の歌へと変貌を遂げる。
ビリーは、自身の遊び心のある側面をほとんど封印している。ラスト近く、人間の骨格標本に腰を振る仕草が一瞬映る。そこにはおそらく面白い裏話があるのだろうが、彼女がこの映画で積極的に見せたかったのは、そうした類のものではないようだ。一方で、チャーリー・XCXとの最高に卑猥なリミックス・デュエット曲「Guess」は披露される。残念ながらチャーリー本人は登場しない。彼女が登場していれば、映画『the moment/ザ・モーメント』よりも実りある映画的演出になったはずなので、そこは惜しまれる。
終盤、フィニアスがステージに不意に現れ、ピアノの前に座って「Lovely」を共に奏でる(ビリーは観客に「サプライーーーズ!」と告げる)。彼の登場によって、彼女の気分が目に見えて明るくなるのがわかる。ビリーの数多くの革新的な試みはポップミュージックを変貌させてきたが、彼女とフィニアスの絆がどれほど前例のないものであるかは、今振り返れば単純なことのように思えても、見落とされがちだ。ステージ上で、互いを屈託なく、自然に慈しみ合う兄妹の姿など、これまでのポップミュージックの歴史において、私たちは一度もお目にかかったことがない。
それこそが、彼女の音楽が与える衝撃の、否定しようのない鍵となってきた。だからこそ、フィニアスが再びギターを持って戻り、「Happier Than Ever」と「BIRDS OF A FEATHER」を手助けする(1ラインだけ歌うシーンもある)姿は喜ばしく、ショーと映画を最高の形で締めくくっている。しかし、勘違いしてはいけない。この映画は、そしてこのショーは、ビリー・アイリッシュが一人で立ち向かっている姿そのものだ。彼女こそが「BIRDS OF A FEATHER(似た者どうし)」のいない、唯一無二の存在であり、彼女とその鮮やかな羽が披露される世界は、より素晴らしいものとなっている。
【関連記事を読む】ビリー・アイリッシュとジェームズ・キャメロン監督が語る、3Dコンサート映画の制作秘話
From Rolling Stone US.

映画『ビリー・アイリッシュ - HIT ME HARD AND SOFT: THE TOUR (LIVE IN 3D)』
2026年5月8日(金)劇場公開
〈キャスト〉ビリー・アイリッシュ
〈監督〉ジェームズ・キャメロン&ビリー・アイリッシュ
特設ページ:https://towapictures.co.jp/be-hit_me_hard_and_soft-the_tour/
【数量限定 | 完全生産限定盤】
『HIT ME HARD AND SOFT: THE TOUR (LIVE)』
発売中
■3枚組カラー盤(100%リサイクル素材)
■ライブ写真多数収録
■角度によって絵が変わる特製インサート付
購入:https://store.universal-music.co.jp/collections/billie-eilish/products/8827545