マイケル・ジャクソンのソロ代表曲10選 「キング・オブ・ポップ」の世界を今こそ知る【『Michael/マイケル』公開記念】

日本では6月12日に公開されるマイケル・ジャクソンの伝記映画『Michael/マイケル』。4月24日より北米を含む世界82地域で公開が始まり、『ボヘミアン・ラプソディ』を上回る伝記映画史上No.1のヒットスタートを記録するなど大きな話題を集めている。本作の公開を機に、マイケルの音楽を知るための入門編として、荒野政寿(シンコーミュージック)による楽曲解説を掲載する。

インディアナ州のアフロ・アメリカン一家で育った少年が兄弟グループで全国デビューするチャンスをつかみ、成功後にソロ・シンガーとしての可能性を追求、ポップ界の”キング”に上り詰めるまで……話題の映画『Michael/マイケル』は、マイケル・ジャクソンの成功譚を2時間ちょっとに凝縮するという難題を、見事にクリアしている。マイケルの甥、ジャファー・ジャクソン(ジャーメインの息子)の演技の素晴らしさは既報の通り。過去のアーカイブをたどってマイケルの微細な動きまで研究し尽くしたジャファーのパフォーマンスは驚くほど再現性が高く、観る側に違和感をほとんど与えない。

『ボヘミアン・ラプソディ』公開時と同様に、事実との相違点について早速比較されている本作だが、そもそも”劇映画”である。マイケルの人生を丹念に読み解き、迷いながら成長していく若者の青春映画として本作をドラマティックに描いたジョン・ローガンの脚本は、リアルタイムでマイケルを体験することができなかった世代にも響くはず。安直にマイケルの天才性を褒め上げるのでなく、ベリー・ゴーディJr(モータウン創業者)やクインシー・ジョーンズといった周囲の人々から学んでいく過程を見せているし、その結果ひとりのシンガーとしてアイデンティティが確立、マイケルが父ジョセフと対立する……という設定も活きている。

本稿では、ここからマイケルを聴き始める人たちを想定して、”キング・オブ・ポップ”の世界を知るための代表曲をソロ作から10曲選び、それぞれの背景を駆け足で解説していこう。

ジャクソン5はモータウンからエピックへ移籍してジャクソンズに改名。フィラデルフィア・ソウルの巨匠チーム、ギャンブル&ハフに制作を委ねた「Enjoy Yourself」(1976年)は全米シングル・チャート6位まで上昇して、幸先のよい再スタートとなった。移籍後3枚目のアルバム『Destiny』(1978年:全米11位)からは、マイケルが弟のランディ・ジャクソンと共作した「Shake Your Body (Down To The Ground)」が全米7位とヒット。ソングライターとして成長を見せたマイケルが、ソロ活動に本腰を入れ始めるのは必然的な流れだったと言える。

「Don't Stop 'Til You Get Enough|今夜はドント・ストップ」

1978年公開のミュージカル映画『ウィズ(The Wiz)』で、プロデューサーのクインシー・ジョーンズと組んで手応えを感じたマイケルは、彼に制作を委ねたソロ・アルバム『Off The Wall』を1979年に発表。そこからの第一弾シングルに選ばれたのが、マイケル作のこの曲だった。キーボード奏者、グレッグ・フィリンゲインズとアレンジを煮詰めたリズム・セクションに、ストリングスとホーン・セクションをかぶせたスリリングなサウンドは、ディスコ・ブーム後期の熱気をギュッと真空パックしたような印象。マイケルにとって「Ben」(1972年)以来となる、ソロとしては2曲目の全米No.1シングルになった。マイケルが3人に分身するMVは『Michael/マイケル』の劇中でも再現されるが、我が国ではこの曲が使用されたスクーター、スズキ「ラブ」のCMにマイケルも出演。ソロ歌手としての人気を高めている。

■「Billie Jean|ビリー・ジーン」

『Thriller』からの先行シングルは、マイケルの念願だったポール・マッカートニーとのデュエット「The Girl Is Mine」(米2位・英8位)。そして2枚目のシングルに選ばれたこの曲は83年1月にシングル・カットされ、米英シングル・チャートでNo.1を獲得した。イントロから始まる印象的なリフは、クインシー・ジョーンズがプロデュースしたドナ・サマー「State Of Independence」(ジョン・アンダーソン&ヴァンゲリスのカバー)や、同じくジョン・アンダーソン&ヴァンゲリスの「The Friends Of Mr. Cairo」にインスパイアされている、という証言が。一方、ダリル・ホールはマイケルから、ホール&オーツの「I Can't Go For That (No Can Do)」にインスパイアされたと聞いたそう。そうやってさまざまな最新のサウンドをどん欲に取り込み、このファンキーなポップ・チューンをマイケルは構築したのだ。有名人につきまとう妄想がちなファンをテーマにした歌詞も、当時としては斬新だった。

『Michael/マイケル』の劇中で、「Billie Jean」のMVについて「MTVが黒人アーティストのビデオをなかなかオンエアしてくれない」という話が出てくるが、これは当時実際にあった問題で、デヴィッド・ボウイもMTVの姿勢に苦言を呈した。また、モータウン25周年コンサートで「Billie Jean」を披露した際の伝説的なパフォーマンスは、劇中でジャファー・ジャクソンが完全再現しており、本作の大きな見どころになっている。

■「Beat It|今夜はビート・イット」

『Thriller』からの3枚目のシングルで、米1位・英3位と大ヒット。アルバムにザ・ナック「My Sharona」のようなタイプのロック・チューンが欲しいとクインシー・ジョーンズが提案、それに応えてマイケルが書き上げた。印象的なギターリフはTOTOのスティーヴ・ルカサー、間奏のギターソロはエディ・ヴァン・ヘイレンが担当。ジャンルも人種も超えたポップ・チューン作りに挑んだ『Thriller』のロック・サイドを象徴する曲となった。2008年にはこの曲をフォール・アウト・ボーイがカバー、米19位とスマッシュヒットしている。

『Michael/マイケル』でも対立していたストリート・ギャング同士を呼んでMVに出演させるシーンがあるが、実際にマイケルはギャングのメンバーとプロのダンサーたちを同時に起用、私財を投げ打って「Beat It」のMVを完成させた。これが「Thriller」の大作MVへとつながっていくのだ。

■「Thriller|スリラー」

『Thriller』からの7枚目のシングルにして、7曲連続での全米トップ10入りを達成したタイトル曲(米4位・英10位)。作者はクインシー・ジョーンズが重用、『Off The Wall』にも貢献した元ヒートウェイヴのロッド・テンパートンで、映画好きなマイケルの嗜好を踏まえて、シアトリカルな要素がある楽曲を目指した。ワーキング・タイトルは「Starlight」だったが、そこから試行錯誤を経て、名優ヴィンセント・プライスのナレーションをフィーチャーした約6分の大曲が仕上がった。

「Thriller」がシングル・カットされたのは83年11月で、すでにアルバムのセールスも落ち着いていたが、ジョン・ランディス監督による長編MVが起爆剤となり、再び売り上げが急上昇。マイケルが単なるポップ・スターにとどまらない、ひとつの社会現象へとステップアップしたきっかけとして、「Thriller」のMVはあまりにも大きかった。再現が難しそうなこのMVの集団ダンスシーンも、『Michael/マイケル』の見せ場となっている。

■「BAD|バッド」

『BAD』(1987年)からの1stシングルは、サイーダ・ギャレットとデュエットしたバラード「I Just Can't Stop Loving You」(米1位・英1位)。続いてシングル・カットされたのがこの強力なビート・チューンで、ストリート・キッズの実情に着目したマイケルが書き下ろした。実はプリンスとのデュエットを想定していたが、プリンスに却下された曲であることも、今ではよく知られている。全米No.1を獲得、全英でも3位まで上昇した。

曲のテーマに合わせたのだろう、ブルックリンのホイト-スカーマーホーン・ストリーツ駅で撮影されたMVも、「Beat It」の続編的な方向でまとめられた。監督はマーティン・スコセッシ。ヒップホップがメジャーになり始めた時代のニューヨークの空気を反映したこのMVが、マイケルの新しいパブリック・イメージを広く浸透させていく。

■「Man In The Mirror|マン・イン・ザ・ミラー」

『BAD』から4枚目のシングル(米1位)。グレン・バラードとサイーダ・ギャレットの共作だが、「変化を起こすために自身と向き合う男」という主人公の姿に、マイケル自身を重ねて聴くファンが多いはず。歌詞にはマイケルのアイディアも取り入れられたようだ。アンドレ・クラウチとワイナンズの参加によってゴスペル色を取り入れたことで、内省的な詞世界がスケールの大きなポップ・ソングへと昇華された。

MVにも大きな変化が見られる。マイケル自身の姿は一部を除いてほとんど登場せず、飢餓に苦しむアフリカの子供たちや、ホームレス、キング牧師、KKK、アドルフ・ヒトラーなど、報道映像の引用を中心に構成。USAフォー・アフリカのチャリティ・シングル「We Are The World」で中心的な役割を果たしたマイケルの問題意識が、より具体的に打ち出されていた。のちの「Heal The World」や「Earth Song」へとつながる試みとして忘れがたい。

■「Smooth Criminal|スムーズ・クリミナル」

ものまねタレントに取り上げられる機会が多くなったこの曲は、『BAD』から7枚目のシングル(米7位・英8位)。ギャング映画の1シーンを思わせる物語風の歌詞を読むと、あらかじめビジュアルを想定してマイケルが作詞・作曲を行なっていた時期なのではないか、と感じる。そんな詞世界をエレクトリック・ファンクに結びつけ、スタイルとして極めた代表曲のひとつと言えるだろう。

映画『ムーンウォーカー(Moonwalker)』(1988年公開)でも大々的にフィーチャーされたショートフィルムが、何よりこの曲を印象付けたはず。いわゆる”ゼロ・グラヴィティ”のパフォーマンスはライブでも披露され、世界中のダンサーを刺激する。肉体の限界に挑むパフォーマーとしての凄みが表れた瞬間だった。

■「Black Or White|ブラック・オア・ホワイト」

クインシー・ジョーンズから離れて制作した『Dangerous』(1991年)からの1stシングルで、プロデューサーのビル・ボトレルと共作。人種を越えたスターであるマイケルが、正面から人種差別に言及したことに注目したい。制作に18カ月以上を費やしたと言われるこの曲は、プログラミングしたビートにメタリックなギターを乗せることをマイケルが提案。ニュー・ジャック・スイング的なビートにロックを融合させた、いかにもマイケルらしいハイブリッド感のポップ・シングルが生まれた。クレジットにテディ・ライリーの名前があるのも見逃せないポイントだ。

再びジョン・ランディスが監督したMVにはマコーレ・カルキンが出演して話題に。ライブではガンズ・アンド・ローゼズのスラッシュとの共演が実現した。MVの力もあって米英シングル・チャートでNo.1を獲得し、90年代に入ってもマイケルが引き続きキングの座にいることを印象付けた。

■「They Dont Care About Us|ゼイ・ドント・ケア・アバウト・アス」

1995年のベスト・アルバム『HIStory: Past, Present and Future, Book I』からシングル・カットされた新曲のひとつ(米30位・英4位)。スラッシュが再び参加したほか、元イエスのギタリスト、トレヴァー・ラビンも起用。一向に良くならない世相への苛立ちが”憤怒”のモードで表現された、マイケル流のプロテスト・ソングだ。

MVは”刑務所バージョン”と”ブラジル・バージョン”の2本をスパイク・リーが監督。ロス暴動や天安門事件などの映像が引用された前者は、過激な内容であることを理由にMTVでの放送が見送られた。後者はリオデジャネイロのファべーラでロケを敢行した大胆な内容が話題に。スパイク・リーは2020年、マイケルの誕生日である8月29日に、ブラック・ライヴズ・マターの抗議活動の模様も加えた再編集版MVを公開、この曲のメッセージをコロナ禍の世界に改めて投げかけた。

上が刑務所バージョン、下がブラジル・バージョン

■「Earth Song|アース・ソング」

『HIStory: Past, Present and Future, Book I』からのシングルで、マイケルが作詞・作曲。プロデュースはマイケルとデヴィッド・フォスター、ビル・ボトレルが共同で担当し、「Man In The Mirror」に参加したアンドレ・クラウチもコーラスで協力した。環境破壊や、いつまでもなくならない戦争の愚かしさについて訴えながら、それらに対する無関心にも釘を刺す歌詞に、リリシストとしての成熟を感じる。詞世界を映像化した壮大なMVも圧倒的。ロケ地にはアマゾンの熱帯雨林や、クロアチアの戦場が含まれていた。

本国以上にイギリスで好セールスを記録したこの曲は、チャート初登場から6週連続で全英1位をキープ。ビートルズの「Free As A Bird」やオアシスの「Wonderwall」といった強力なライバルを首位から遠ざけるほどの大反響だったことは、もっと強調されていいだろう。ロンドンのO2アリーナで開催される予定だったカムバックコンサート「This Is It」でもこの曲がセットリストに入っており、マイケルが亡くなる数時間前、2009年6月24日のリハーサルで歌われた最後の曲となった。

artwork

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https://smji.lnk.to/MichaelsSignatureHits

『Michael/マイケル』オリジナル・サウンドトラック

配信中

国内盤CD:2026年5月6日(水)リリース

定価¥3,520 (税抜¥3,200)

〈日本盤のみの追加仕様〉

■7インチ紙ジャケット仕様

■高品質Blu-Spec CD2仕様

■歌詞・対訳付/解説:高橋芳朗

再生・購入:https://SonyMusicJapan.lnk.to/MichaelOSTRS

詳細:https://www.sonymusic.co.jp/artist/MichaelJackson/info/581808

『Michael/マイケル』

2026年6月12日(金)全国公開

配給:キノフィルムズ

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公式サイト:https://www.michael-movie.jp/