
「隧道(ずいどう)」という言葉は、あまり聞き慣れないかもしれません。隧道とは、山や丘、崖などを通り抜けるために造られた通路のことで、いまでいうトンネルのこと。現在では「トンネル」という呼び方が一般的ですが、古くから造られたものや、地域の歴史を感じさせるものについては、今も「隧道」と呼ばれることがあります。
海のイメージが強い湘南エリアですが、鎌倉や逗子には谷戸や丘陵地も多く、昔から人々の行き来を支えるために隧道が造られてきました。素掘りの質感が残るものや、手作業で整えられた跡が見られるものなど、それぞれに時代の面影が刻まれているのも特徴です。
静かな住宅地や緑に囲まれた小道の先など、日常の風景のなかに自然と溶け込んでいるのも湘南の隧道ならでは。何気なく通り過ぎてしまいそうな場所にも、その土地の地形や暮らしの歴史が息づいています。
この記事では、鎌倉市・逗子市に残る隧道を紹介します。湘南のまちを少し違った視点で楽しみたい方は、ぜひ隧道にも注目してみてください。
鎌倉市
鎌倉は谷戸地形が広がり、古くから多くの隧道が造られてきたエリアです。
佐助隧道|鎌倉散策で通り抜けたい歴史ある生活トンネル
鎌倉駅西口から徒歩圏内にある佐助隧道は、御成町・扇ガ谷・佐助をつなぐ生活道路として使われているトンネルです。現在はコンクリートで整備されていますが、もともとは素掘りで造られたとされ、鎌倉市内でも古い隧道のひとつに数えられています。銭洗弁財天や佐助稲荷神社へ向かう際に通る人も多く、観光と日常が交差する場所でもあります。周辺には落ち着いた住宅地や緑も多く、鎌倉らしい穏やかな空気のなかで、歴史ある通り道を体感できるスポットです。
名称佐助隧道住所神奈川県鎌倉市扇ガ谷1-4-5アクセスJR鎌倉駅西口から徒歩約8分特徴鎌倉市内でも古いとされる隧道。もともとは素掘りで造られた生活道路備考車両通行可。道幅が狭いため通行時は注意大仏隧道|古道と並走する鎌倉の歴史トンネル
大仏隧道は、鎌倉七口のひとつ「大仏切通」周辺に位置するトンネルで、長谷エリアと常盤・笛田方面を結ぶ道路として利用されています。1906年(明治39年)ごろに整備されたとされ、険しい山道だった大仏坂の通行を大きく改善した歴史を持ちます。すぐ隣には中世の面影を残す大仏切通があり、古道と近代のトンネルが並ぶ景観はこの場所ならでは。鎌倉大仏にも近く、散策やハイキングとあわせて立ち寄りやすいスポットです。
名称大仏隧道(大仏坂トンネル)住所神奈川県鎌倉市長谷〜常盤付近アクセス江ノ電「長谷駅」から徒歩約15分特徴大仏切通と並走する歴史的なトンネル。明治期に整備された交通路備考車両通行可。周辺はハイキングコースあり宝戒寺隧道|小町と大町を結ぶ鎌倉の細道トンネル
撮影:湘南人ライター 角田晶生(つのだ あきお)
宝戒寺隧道は、鎌倉市小町と大町を結ぶ隧道で、現在も地域の生活道路として利用されています。もともとは素掘りだったとされ、昭和初期に私財を投じて掘られたという話があり、一部では「お妾トンネル」とも通称され、地元に伝わる逸話でも知られています。宝戒寺の近くにありながら、少し奥まった場所にあるため、鎌倉に住んでいても存在を知らない人がいるほどひっそりとした雰囲気。道幅は狭いものの、鎌倉の地形や暮らしの歴史を身近に感じられる、印象的な隧道のひとつです。
名称宝戒寺隧道住所神奈川県鎌倉市小町3-11付近アクセスJR鎌倉駅から徒歩約18分特徴小町と大町を結ぶ隧道。昭和初期に掘られたと伝わり、もとは素掘りだったとされる備考車両通行可。ただし道幅が狭いため通行時は注意台亀井隧道(台トンネル・青の洞門)|北鎌倉に残る明治期の素掘り隧道
撮影:湘南人ライター 角田晶生(つのだ あきお)
台亀井隧道は、北鎌倉駅から徒歩圏内にある小さな素掘りの隧道です。鎌倉市の登録名称は「台亀井隧道」ですが、「台トンネル」や「青の洞門」として親しまれることもあります。北鎌倉駅側から向かうと、切通の先に隧道が続く独特の造りになっており、鎌倉らしい地形を身近に感じられるのが魅力。かまくら景観百選にも選ばれていて、明治期にくり抜かれたとされる素朴な風景が今も残っています。
名称台亀井隧道(台トンネル・青の洞門)住所神奈川県鎌倉市台1969付近アクセスJR北鎌倉駅西口から徒歩約11分、または臨時口から徒歩約7分特徴明治期に造られたとされる素掘りの隧道。切通と隧道が連続する独特の景観が見どころ備考車両通行は実質困難。周辺に「落石の恐れあり」の注意看板あり山ノ内宮下小路隧道(赤の洞門)|北鎌倉の奥に残る素掘りの生活トンネル
撮影:湘南人ライター 角田晶生(つのだ あきお)
山ノ内宮下小路隧道(仮称)は、北鎌倉駅近くに残る素掘りの隧道で、「赤の洞門」「好好洞トンネル」「洞門山トンネル」などの名でも親しまれています。北鎌倉駅の北側、寺社の静けさと住宅地の暮らしがゆるやかに溶け合う“裏北鎌倉”の一角にあり、観光地のすぐそばにありながら、少し奥まった落ち着いた空気を感じられるのが魅力です。かつては会席料理店「好好亭」へ通じる入口でもあり、現在も地域の通り道として知られる存在。素掘りらしい質感や印象的な入口は、北鎌倉らしい地形と暮らしの歴史を身近に伝えてくれます。
名称山ノ内宮下小路隧道(赤の洞門)住所神奈川県鎌倉市山ノ内610付近アクセスJR北鎌倉駅臨時口から徒歩約3分、西口から徒歩約6分特徴「赤の洞門」の通称で知られる素掘りの隧道。北鎌倉駅近くにあり、裏北鎌倉の静かな住宅地へ通じる備考自動車通行不可。臨時口は早朝・夜間は利用できないため、訪問時間に注意岡本塩原隧道|大船駅近くで使われる鎌倉の生活トンネル
撮影:湘南人ライター 角田晶生(つのだ あきお)
岡本塩原隧道は、大船駅西口から徒歩圏内にある隧道で、玉縄エリアと駅方面を結ぶ生活道路として利用されています。もともとは素掘りとされ、現在は補強されながらも当時の地形を感じられる造りが特徴です。周辺には玉縄首塚など歴史を感じるスポットも点在し、鎌倉の街の奥行きを感じられるエリアのひとつ。小さなトンネルながら通行量もあり、日常のなかで使われ続けている隧道です。
名称岡本塩原隧道住所神奈川県鎌倉市岡本2-12付近アクセスJR大船駅西口から徒歩約7分特徴大船駅近くの生活道路として使われる隧道。もとは素掘りで現在は補強されている備考高さ制限あり(約2m)。道幅が狭いため通行時は注意名越隧道|鎌倉と逗子を結ぶ三浦半島最古級の隧道
写真左が「名越隧道」、右は「新名越隧道」
名越隧道は、鎌倉市大町と逗子市小坪の境にある隧道で、1883年(明治16年)に完成した三浦半島でも最古級のトンネルです。もともとは素掘りで造られ、当時は険しい山道しかなかった鎌倉と三浦半島方面を結ぶ重要な交通路として整備されました。公的な整備が進まない中、地元の有志が資金を集めて完成させた歴史を持ち、小坪隧道とともに「土木学会 選奨土木遺産」にも登録されています。
現在は県道311号の一部として利用されており、逗子市に向かう下り線として今も交通の要所となっています。すぐ隣には新しいトンネル「新名越隧道」が並走しています(こちらは逗子市から鎌倉市に向かう上り線)。また、「新名越隧道」の反対隣には大正時代に竣工された水道専用の「名越送水管路ずい道」やJR横須賀線も並走しており、時代ごとの交通の変化を感じられるのも特徴です。
名称名越隧道住所神奈川県鎌倉市大町5丁目〜逗子市小坪7丁目付近アクセスJR鎌倉駅からバス「名越坂」下車 徒歩すぐ、または徒歩約30分特徴明治期に造られた三浦半島最古級の隧道。土木遺産にも登録されている備考車両交通量が多く歩道がないため、徒歩での通行は推奨されていない小坪隧道|鎌倉と逗子をつなぐ海沿いの生活トンネル
写真左が小坪隧道、右は新小坪隧道
小坪隧道は、名越隧道と同時期に造られ、鎌倉と逗子を結ぶ重要な交通路として発展してきました。現在もバス路線が通る生活道路として利用されています。もともとは素掘りと考えられており、のちに補強・改修を重ねながら使われてきました。古くからこのエリアを行き来する重要な通路として機能してきた歴史があり、周辺には光明寺や材木座海岸なども点在。海と山に囲まれた地形のなかで、人々の移動を支えてきた隧道のひとつです。近くに「内藤家の墓」や火葬場があることもあり、一部では心霊スポットとして語られることもありますが、現在でも地域の交通を支える生活道路として多くの人に利用されています。
名称小坪隧道住所神奈川県鎌倉市材木座6丁目付近アクセスJR鎌倉駅東口から京急バス「小坪」方面、飯島バス停下車 徒歩約3分特徴鎌倉と逗子を結ぶ生活トンネル。バスも通行する重要な交通路備考一車線のため離合注意。歩行時・車両通行時ともに注意が必要逗子市
海と山に挟まれた地形を持つ逗子市には、急な斜面や入り組んだ住宅地をつなぐように、個性的な隧道があります。
住吉隧道|階段でつながる小坪の珍しい隧道
住吉隧道は、逗子市小坪にある小さな隧道で、内部が階段状になっている珍しい構造が特徴です。国道134号から少し入った住宅地の斜面にあり、高低差のある地形をつなぐ生活動線として造られたと考えられています。洞内はコルゲートで補強されつつも、もともとの地形を感じられる素朴な造り。周辺には急な坂道や入り組んだ路地が広がり、湘南の海沿いとはまた異なる、坂の多いまちの一面を体感できるスポットです。
名称住吉隧道住所神奈川県逗子市小坪5丁目付近アクセスJR鎌倉駅または逗子駅からバス「小坪」方面、徒歩数分(※現地はやや分かりにくい場所にあり)特徴内部が階段状になった珍しい隧道。斜面の住宅地をつなぐ生活動線備考自動車通行不可。急勾配のため歩行時も足元に注意まとめ
鎌倉や逗子には、谷戸や丘陵地ならではの地形のなかで、人々の暮らしを支えてきた隧道が今も数多く残されています。素掘りの質感が残るものや、時代とともに補強・改修されながら使われ続けているものなど、その姿はさまざまです。
観光地として知られるエリアのすぐそばにありながら、静かな住宅地や小道の先にひっそりと佇む隧道も多く、日常の風景のなかに自然と溶け込んでいるのも大きな魅力といえるでしょう。歩いて巡ることで、鎌倉・逗子の地形や歴史、暮らしの積み重ねをより身近に感じることができます。
北鎌倉駅裏トンネル通称「緑の洞門」撮影:湘南人ライター 角田晶生(つのだ あきお)
なお、鎌倉・北鎌倉エリアには、今回ご紹介したように今も通ることができる隧道がある一方で、五岳荘隧道(宝戒寺付近)や緑の洞門(北鎌倉隧道)など、現在は閉鎖されている隧道も点在しています。
身近な場所に残る小さな歴史の入口として、ぜひ隧道を巡る散策を楽しんでみてはいかがでしょうか。
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