2025年に大きな問題となったクマの大量出没。報道やSNSを通じて出没情報が相次ぎ、社会的な関心も高まりました。では、2026年はどうなるのでしょうか。今年の見通しや今からできる対策について、東京農工大学大学院農学研究院教授で、ツキノワグマの生態を25年以上研究する小池伸介先生に話を聞きました。全2回のインタビュー後編です(※1回目の記事:“クマ大量出没”はなぜ起きた? 市街地を悠々歩く個体も…専門家に聞く2025年被害の背景)。
■2026年も大量出没はある? 今年の予測は
――2026年も昨年同様にクマの大量出没の可能性はあるのでしょうか?
まず東北地方、特に秋田や岩手で去年と同じような規模での出没はないと思います。去年はドングリのなりが非常に悪かったのですが、今年はそこまで悪くないだろうと予測されています。駆除数も多かったので、去年のような規模の出没にはならないでしょう。
ただし、去年のドングリのなりは、東北では悪かったけれど、他では悪くなかった地域もあります。そう考えると今年も日本のどこかでドングリのなりが悪い場所はあると思います。そこではクマが出没する可能性があります。それがどのくらいの数のクマが出てくるかは、山にいるクマの数によって決まります。東北のようなクマが多い場所でなければ、出没の規模はそこまで大きくはならないと思いますね。
もう1つ出没の有無や規模に関わってくるのは、自治体が去年を踏まえてどれくらい対策をするか、ということです。本気の対策をやってその効果が出てくると、出没の頻度が下がり、規模も小さくなると思います。昨年クマが出た地域では、その集落の誘因物をきちんと除去するなど、地道な対策ができていれば出没も抑制されるでしょう。
ドングリが実る量は人間の方ではどうしようもないことですが、それが少なかったときクマがどのくらい出没するかは、山にいるクマの数や人間側の対策が関わってきます。対策が本格化するまではまだ時間がかかり、ドングリの不作はどこでもありえることなので、2025年ほどの規模ではないものの、どこかで出没は起きると考えた方がいいと思います。
■今まで出なかったところで出没する可能性も
――これまでクマが出なかったところでも、今後は出没することがあるのでしょうか。
クマの分布は本州では広がりきったところです。ここ100年ぐらいクマがいなかった場所にも現れています。例えば、茨城県には明治時代までクマがいたのですが、人間が狩って1度絶滅しました。それがここ10年で福島県から徐々に入ってきていることが確認されています。伊豆半島も同様に明治時代に絶滅したのですが、ここ数年で2回捕獲されていますね。東京でも、多くの人は奥多摩にしかクマはいないだろうと思っているかもしれませんが、今は高尾山にもいます。八王子や青梅にもいるので、もうどこでクマが出てもおかしくないというのが今の状況ですね。
東京では、圏央道の西側あたりまでクマが目撃されています。もう出没する準備が整っている状況で、これからドングリが不作になったときとか、飛びぬけて好奇心の高いクマが生まれたときには、市街地に出てくる可能性はあります。あとは多摩川沿いですね。多摩川の河川敷は森のようになっているところがあります。そんな場所を通って、姿を隠しながら都心の近くまで行くこともできます。実際、シカは立川や国立、府中まで来ているので、クマもいつ来てもおかしくないのではと思います。
――クマが市街地で出没する前に、予兆やサインのようなものはありますか?
市街地への出没はいきなり起きることは少なくて、その前に山との間にある集落でちょくちょく出没するという前兆があります。ふだん出ないところで目撃されたり痕跡が見つかったりしたあと、市街地に現れることが多いです。
都道府県や市町村など、行政が出没情報をネットで公開しているところもあります。それで過去の情報も見られるので、例年ないようなところで出没や目撃があると要注意と思った方がいいですね。何㎞圏内といった目安は、都市の規模やそれぞれの方の生活圏の広さによって異なるので一概には言い難いのですが、クマは数10㎞は簡単に移動するので、それも一つの目安になります。目撃情報を週に1度など定期的にチェックして、いつもはない場所で目撃情報があったら、それはその後のその周辺での出没を予測する注意すべきサインになります。
■今この時期から始めたいクマ対策
――今から秋に備えて、一般の人がクマ対策としてできることを教えてください。
去年も出没があったところは、なぜ出没したのか、その集落ぐらいの規模で今一度見直すことが大事です。まだ記憶が確かなうちに、何月何日の出没はどうだったか、最初に出てきたのはどこか、どこを通って町に入ってきたか、といった情報を持ち寄って確認することです。それで何が原因で出てきてきたのか、どこが侵入経路になったのかという振り返りができます。そこを踏まえて、この柿の木を何とかしようとか、ここの藪を優先して刈ろう、といった行動に移す。こうして次のクマが出てこないように誘因源を除去する、移動経路を遮断することは、今から取り組めることですね。
また、去年あれだけニュースになっても、やっぱり多くの人はクマがどんな動物なのかよく知らないんですね。知らないから正しい対策につがらないところもあるので、まずクマを知ることも、1人1人ができることだと思います。正しい姿を知ることで、過度に怖がる存在ではないことも、一方でただ可愛いだけの存在ではないことも分かるでしょう。理解することで、今何ができるかという次の段階に進めます。
去年の秋の時点では、情報が多すぎて正確な情報にたどり着くことも難しかったと思います。今は落ち着いて、いろいろな情報がまとまってきたので、去年の秋に比べると正しい情報にアプローチしやすい状況になっています。落ち着いている今のうちに、改めて情報を振り返っておくことも大事ですね。
――遭遇しないように対策することが一番ですが、万一遭遇してしまったら、どうすればいいでしょうか。
クマに遭遇する状況はさまざまなので、これをやったら大丈夫という方法はありません。なので「やってはいけないことを、やらないようにする」ことが最善です。
1つは、大きな声を出すなどしてクマをパニックにさせないこと。人に会いたくないクマが会ってしまったとき、パニックになると向かってきます。2つめは、自分がパニックにならないこと。クマに会ったらよく様子を見て、こちらに気づいているか、怒っているかなどの状況から次にとる行動を判断する必要があります。 3つめはクマに背を向けて走って逃げないこと。クマは走るものを追いかける習性があるといわれますし、背を向けるとクマの様子が分からなくなってしまいます。まずこの3つだけでも覚えて気をつけてください。
『クマは都心に現れるのか?』では、2025年のクマ大量出没の背景が詳しく解説されています。クマの生態や学習能力、習性、行動範囲や生息数、人との関わりなど、今知っておきたいクマの真実が満載の一冊です。


