
バッド・バニーにとってアジア初パフォーマンスとなる「Spotify Presents Billions Club Live with Bad Bunny」が、3月7日(土)千葉JPFドームにて開催された。当日は日本のSpotifyリスナーの中から選ばれたトップファン2,300名以上が来場。プエルトリコが誇るスーパースターが、SpotifyでBillions Club(10億回再生)入りを果たした29曲のうち代表曲17曲を披露した。当日のライブレポートをお届けする。
会場は「ラテン・ミーツ・ジャパン」
「tres! dos! uno!(3, 2, 1)」という陽気なカウントダウンが18時の開場に合わせて空に響いた。着飾ったラティーナからパーティー仕様の軽装で揃えたアジア人まで、行列に並ぶ者は一様に満面の笑みを浮かべている。衝動のままにスペイン語で合唱しているグループさえいる。土曜日の夕刻、千葉公園の敷地内に位置するJRFドームの周辺はただごとならぬ高揚感に包まれていた。無理もない、これからバッド・バニーのショーが始まるのだから。
Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images for Spotify
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バッド・バニーことベニート・アントニオ・マルティネス・オカシオ、彼にとって初となるアジアおよび日本でのパフォーマンスは最高のタイミングでの開催となった。つい先月の第68回グラミー賞で最新作『DeBí TiRAR MáS FOToS』がスペイン語アルバムとして史上初となる年間最優秀アルバムを受賞し、その翌週にはNFLスーパーボウルのハーフタイムショーにヘッドライナーとして出演。世界が注目したステージは大成功を収め、放送後24時間で約41億5700万回という記録的な総再生回数を叩き出した。プエルトリコをはじめとしたラテン・アメリカの文化を気高く誇る時代のリーダーとして、彼が世界最高峰のポップ・スターであることは疑いようがない。
特別なのはタイミングのみではない。今回のショーはSpotifyによる完全招待制のイベントシリーズ「Billions Club Live」の日本初公演なのだ。Spotifyで10億回以上再生された楽曲を有するアーティストを讃えるプログラムであり、これまでにもダブリンにてエド・シーラン、パリにてマイリー・サイラス、ロサンゼルスにてザ・ウィークエンドと名だたるビッグスターが登場した。バッド・バニーは3月7日時点で29曲が10億回再生を突破しており、世界中で絶えずリピートされてきたヒットソングを軸に据えた特別なセットリストということで、彼自身にとっても特別な意味を持つショーになるのは開演前から明らかだった。そして実際、その夜は永遠となった。
「Billions Club」を記念した盾が並ぶエントランスを抜けてアリーナへと向かうと、大音量のレゲトンが既に鳴り響いていた。パーティー仕様のミックスを流すDJ、センターステージの真上には巨大なボールが見える。花道の向こうのステージには桜の木とパーカッションやキーボードなどの楽器が並んでいる、まさにラテン・ミーツ・ジャパンの様相だ。音に揺れながらフードやドリンクへと来場者が自由に手を伸ばす光景はホームパーティーのようでもあり、「ホスト」を待たずしてフロアのボルテージは上昇していく。
エントランスに並んだ「Billions Club」を記念する盾(Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images for Spotify)
最高の選曲で開演前後のフロアを盛り上げたDJ(Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images for Spotify)
招待されたのはバッド・バニーをSpotifyで愛聴してきたトップファン。会場ではフードやドリンク(鬼ころしも!)がふるまわれた(Photo by @badboi)
バッド・バニー登場、スペイン語と日本語で大合唱
そして19時半を回った頃、いよいよ暗転。暴発寸前の歓声に迎えられ、まずはシックな装いのダンサーが尺八のSEと共に登場する。彼女たちが後方のステージで静止する中、花道を歩いてきたのはスーツ姿の一人の男性。やおらセンターステージに仁王立ちすると「Acho, PR es otra cosa!!」という定番のフレーズをシャウト、雪崩れ込むように「EoO」のイントロが流れた瞬間に大絶叫の嵐だ。ダンサーたちが花道を渡り、そして……そこにバッド・バニーはいた! アリーナのあらゆる箇所が至近距離、目の前で今起きている現象にオーディエンスは驚愕しながら合唱で応える。日本国内でのトップリスナーを対象とした招待制ということもあってか、尋常ではない熱量だ。
Photo by Hanna Lassen/Getty Images for Spotify
真っ白なパフスリーブのシャツに黒のベストとスラックス、それでいて足元はサンダルというバッド・バニー流の「正装」でセンターステージを支配すると「Buenas noches, こんばんは東京!」と挨拶。ノンストップでドロップしたのは「Me porto bonito」、アグレッシブなレゲトンモードで観客の体温を隅々まで上げていく。前方では激しく歌い、後方では激しく踊る。そのノリに反応して、バッド・バニーもサングラス越しに微笑みながらマイクを向ける。続けて「No Me Conoce」に「Efecto」と、デンボーのリズムにロマンスとメランコリーの両方を乗せて歌う様は圧巻。隙さえあれば即座に客席から「ベニート!」のコールが起こり、プエルトリコのみならずラテン圏を中心とした様々な国のフラッグを巻いた人々が全身を揺らしている。
A.C.ジョビン作「イパネマの娘」をベースにした「Si Veo a Tu Mamá」は大胆なガラージ仕様に、クアトロの音色に導かれた「Tití me preguntó」はハットの軽やかなトーンを強調したクラブユース用のミックスにそれぞれ姿を変え、ラテン・アメリカのコンテクストを多幸感の中で注入していく。レーザー光線が会場内を飛び交う中、センターステージでダンサーと共に合唱を煽り手を振るバッド・バニー。彼らを映すカメラにはプエルトリコの国旗が垂れ下がっていた。
Photo by @badboi
彼のディスコグラフィを語る上で、ラテン・ミュージックの先達たちの功績は外せない。ステージに勢いよく飛び出してきたのはジョエル&ランディー(Jowell & Randy)、ゼロ年代からプエルトリコのレゲトンシーンを支えてきたレジェンドのサプライズに会場中のラティーナが狂喜乱舞する。「Safaera」をハイテンションで繰り出し、バッド・バニーは腰を振りながら挑発的にボルテージを最高潮のさらにその先へと押し上げる。ジョエル&ランディーが弾けるような笑顔で同志である彼を何度も紹介し、颯爽とステージを去っていった頃にはエンジンが温まりきっていた。
ジョエル&ランディーとの共演(Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images for Spotify)
「笑っちゃうんだけど、君たちにどう話せばいいのか分からないんだ」と直後のMCで語るバッド・バニー。「スペイン語か英語か、それとも日本語かな(笑)。これってクレイジーだよね。でもこのショーが証明しているのは、音楽に言語は関係ない(Music has no language)ってこと。それと愛、愛にも言語は関係ない(Love has no language)。今夜ここにいる僕たちはみんな、音楽を通してつながっているからここにいるんだ」と自身の哲学を英語とスペイン語を交えながら話した。
トランペット奏者を交えて官能的に聴かせるJ・バルビンとのコラボ曲「La canción」を中盤のハイライトに配置し、バラエティ豊かな表現にグッと引き込むと、微かな鳥のさえずりが鳴った。日本のオーディエンスが待ち望んでいた「Yonaguni」だ。どこかに行ってしまった「君」を探すためなら与那国島にでも行くよと歌うバッド・バニー、物語のクライマックスは日本語での合唱だ。〈今日はセックスしたい/でもあなたとだけ/どこにいますか?/どこにいますか?〉という明け透けなリリック、もちろん恥じらうことなく満杯のアリーナがこの日一番の声量で歌う。その熱量に心動かされたのか、曲が終わるとバッド・バニーは再度アカペラで上述の一節を煽った。
Photo by @badboi
バンドセットで大団円、日本初披露のサプライズも
そして桜の下に歩みを進めると、スーツに身を包んだ伊達男たちがステージの上に表れた。『DeBí TiRAR MáS FOToS』の世界観を支えるバンド、ロス・ソブリノスの面々だ。プレーナ・バンドのロス・プレネロス・デ・ラ・クレスタも交えた総勢10名以上の大所帯、バッド・バニーもベストを脱いでジャケットに着替えるなどサルサ楽団のソネーロのような風格を漂わせる。背中には「東京」の刺繍も光っていた。
「東京」の刺繍(Photo by @badboi)
「さっきまでレゲトンを踊ってたよね。今度はサルサを踊る番だ。みんながステップをちゃんと練習してきてることを期待してる、でも好きなように踊ってくれればそれでいいよ」と語るバッド・バニー。スタンドマイクで「Callaita」のサルサ・バージョンを届けると、その肉感的なグルーヴにフロアはますますヒートアップする。見渡してみればそこかしこでラティーナのペアが手を取り合ってスルスルと踊っており、激しくステップを踏んでいる。このショーの主役が誰で、分かち合っているフィーリングは何か。なるほど、わかってきた。
さらなるサプライズも。「この曲は、今夜ここで初めて披露するんだ」と語ったバッド・バニー、ドロップしたのはドレイクとの大ヒットナンバー「MIA」のサルサカバーだ。なんと日本での「Billions Club Live」が世界初披露となる。「この曲は何十億回も再生されている。でも、それはただの数字じゃない。何年もの間、僕の音楽を通して繋がることができた人たちの数なんだ。だから僕たちは今、みんなとここにいる。でもこのバージョンは、今日が初めてのパフォーマンス。何のためって、君たちのためだけにね」
Photo by Hanna Lassen/Getty Images for Spotify
まだ夜は終わらない。物々しいシンセサイザーの音色と共にバッド・バニーが感謝と連帯を伝えると、「BAILE INoLVIDABLE」のイントロへとシームレスに接続される。プエルトリカンとしての誇りと文化的遺産を込めた『DeBí TiRAR MáS FOToS』からのナンバーだ。スタンドマイクを客席へと深々と傾けながら、アリーナの全方位へと陽性のバイブスを注ぐバッド・バニー。その全てが踊りと合唱へと還元される。あまりに美しい光景だ。
畳み掛けるように展開した「NUEVAYoL」ではロス・ソブリノスによるソロを回す時間も設けられた。一人一人の熱演に近寄り、仲間たちと笑顔で見守るバッド・バニー。サルサであれスペイン語であれ、彼は自身を育てた文化の強靭さを芯から信じている。そしてそれを最も幸福な形でシェアする方法について熟知している。汗とアルコールとフレグランスの香気で充満した光景がその答えだ。
Photo by @badboi
「よし、これで終わりだ……え、違うって? もう10億回再生の曲は残ってないんだよ」とおどけてみせるバッド・バニー。それがジョークであることは誰もが分かりきっていた。「僕を日本、そして東京まで連れてきてくれたのは君たちなんだ。こんなこと、想像もしていなかったよ」という感謝を告げて「DtMF」が始まる。「もっと写真を撮っておけば良かった」という題の『DeBí TiRAR MáS FOToS』を象徴する、現在のバッド・バニーのスタンスを端的に表した一曲だ。過去のインタビューでも語っているように、彼は失ってしまったもの──それは時にガールフレンドであり、時に祖国の景色だったりする──に対して、「だから今を残すんだ」というストレートなメッセージを打ち出す。
最後のコーラスに差し掛かる前のインタールードで、バッド・バニーはオーディエンスに二つのオーダーを出した。「ネガティブなことに時間を使わないでほしい。あなたを知らない人のコメントに、時間を使わないでほしい。他人が何と言おうと、自分らしくいてほしい。過去の出来事のことで恨みを抱いたり、憎しみを持ち続けたりして時間を無駄にしないでほしい。僕たちは過去を変えることはできない、でも過去から学ぶことはできるよね? 明日何が起こるかも分からない。だから僕たちにできることは、今、この瞬間を楽しむこと」これが一つ目。そしてもう一つは、「今この瞬間だけ携帯電話をしまってくれない?」というものだ。以降の数分間がいかにホットで、マジカルで、ポジティブであったかについては、共にアリーナの地面を飛び回ったオーディエンスのみが知っている。
万雷の拍手を背に、バッド・バニーがステージから去っていく。バンドメンバーもそれに続く。あぁ、ショーが終わってしまう……そんな会場の虚脱感を、スピーカーから大音量で放出されたデンボーが押し戻した。ダディ・ヤンキー「Gasolina」、プエルトリコという国の生んだ最上級のレゲトン・ナンバーだ。DJは容赦なくクラブ・バンガーを投下する。フロアに留まり、仲間たちと抱き合いながら踊る観客たち。帰路につく道すがら、その体験を反芻する観客たち。どちらにせよ、どこにいようと、パーティーは終わらない。愛が宿っている限りは。 【#BadBunny】
バッド・バニー初日本公演
大興奮の一夜を振り返る
フィナーレを飾ったのは名曲「DtMF」
▼奇跡の初日本公演レポート
@SpotifyJP https://t.co/3osEMgjHbf pic.twitter.com/jxXho7v1Cs — Rolling Stone Japan (@rollingstonejp) March 8, 2026 フィナーレを飾った名曲「DtMF」
〈セットリスト〉
1. ”EoO”
2. ”Me Porto Bonito”
3. ”No Me Conoce - Remix”
4. ”Efecto”
5. ”Neverita”
6. ”Si Veo a Tu Mamá”
7. ”Tití Me Preguntó”
8. ”Safaera” FT Jowell and Randy
9. ”Ojitos Lindos”
10. ”La Canción”
11. ”DÁKITI”
12. ”Yonaguni”
13. ”Callaita”
14. ”MIA” - Salsa Version
15. ”BAILE INoLVIDABLE”
16. ”NUEVAYoL”
17. ”DtMF”
バッド・バニーとLISA(BLACKPINK)の2ショット。当日は村上隆、Awich、JP THE WAVY、kemio、VERDY、Luisito Comunicaなどのゲストも来場、特別な一夜を共に過ごした(Photo by Hanna Lassen/Getty Images for Spotify)












