報道によると、平成筑豊鉄道の存廃に関して、「平成筑豊鉄道沿線地域公共交通協議会」(法定協議会)に参加する9自治体のうち、行橋市、赤村、小竹町、糸田町が路線バス案の支持を表明したという。香春町はBRTの意向を示し、福智町は鉄道支持を明確にしている。田川市と直方市は3月中旬に意思決定する意向で、協議会として3月中に結論を出す予定となっている。

  • <!-- Original start --></picture></span>非電化複線の伊田線を走る平成筑豊鉄道の普通列車(田川後藤寺行)<!-- Original end -->

    非電化複線の伊田線を走る平成筑豊鉄道の普通列車(田川後藤寺行)

平成筑豊鉄道は、福岡県の東部で田川線、伊田線、糸田線を運行する第三セクター鉄道。田川線と伊田線は直通運転を実施しており、人口約5万5,000人の直方市と人口約7万2,000人の行橋市を結んでいる。地図上では南へ迂回しているように見えるが、標高約600mの福智山を擁する福智山地と、国内有数のカルスト台地である平尾台が横たわる。

田川線と伊田線は田川伊田駅、糸田線は田川後藤寺駅でそれぞれ日田彦山線の小倉方面または添田方面に乗り換えられる。田川後藤寺駅は日田彦山線に加え、新飯塚方面からの後藤寺線も集まる交通の要所となっている。糸田線の列車は日中時間帯に伊田線へ乗り入れ、直方駅まで直通する。ここまで紹介した路線は、いずれも筑豊炭田が産出した石炭を輸送するために建設され、かつて炭鉱で働く人々の生活路線でもあった。筑豊炭田は明治期の八幡製鉄所設立の根拠であり、戦前は国内最大の炭鉱地帯だった。

しかし、1950年代に石炭から石油の時代へと変わり、1960年代に大手資本の炭鉱が閉山すると人口が減少。石炭輸送のおもな手段だった鉄道の役割も終わった。1968年、国鉄諮問委員会は「使命を終えた鉄道路線の廃止またはバス転換」を意見し、「赤字83線」をリストアップ。筑豊の鉄道路線も多数該当した。1980年、国鉄の赤字路線を再建するため「日本国有鉄道経営再建促進特別措置法」を施行し、その後は第1次廃止対象路線、第2次廃止対象路線、第3次廃止対象路線を段階的に廃止。バス転換または第三セクター鉄道への移管などが行われた。

田川線、伊田線、糸田線は他の赤字路線と比べて輸送量が多く、第1次・第2次廃止対象路線には含まれなかったが、第3次廃止対象路線に選定されてしまう。国鉄がJRに変わっても廃止方針を継続したため、これらの路線を維持すべく、福岡県と沿線自治体が第三セクターの平成筑豊鉄道を設立。1989(平成元)年10月、JR九州から運行を引き継いだ。

平成筑豊鉄道の開業時は大幅な増発を実施し、各路線とも全区間を走る列車が1時間あたり1本、区間運転の列車を入れると1時間あたり2本になる区間もあった。1990年代は駅の新設に力を入れた。しかし、2000年代に入ると輸送人員が減少し始め、区間運転列車の本数も減っていく。現在は各路線とも日中時間帯は1時間あたり1本の運行となっている。それでも国鉄時代と比べて2倍以上の運行本数を維持している。

平成筑豊鉄道の経営努力に関して、駅前の駐車場整備を高く評価したい。全36駅のうち16駅に駐車場があり、うち12駅は無料で利用できるなど、パークアンドライドが整備されている。観光列車の「ことこと列車」も順調のように見える。

  • <!-- Original start --></picture></span>平成筑豊鉄道のレストラン列車「ことこと列車」<!-- Original end -->

    平成筑豊鉄道のレストラン列車「ことこと列車」

しかし、利用者の減少と赤字の拡大は続いた。2023年度の輸送人員は135万人で、ピーク時の約4割まで落ち込んでいる。営業赤字は5億1,800万円で、赤字転落以降、27年間も赤字のまま。2024年度、沿線自治体からの補助金は過去最大の4億5,400万円だという。2026年度の自治体負担額は約11億円、その後も毎年10億円前後の負担になると予想されている。

この試算を受けて、沿線の9市町村は福岡県に対し、法定協議会の設置を要請。法定協議会は沿線自治体と国と鉄道事業者で構成できるが、沿線市町村は県のリーダーシップに期待していた。法定協議会の第1回は2025年1月に行われ、ほぼ隔月ペースで協議を進めた。3月の第2回で、早くも「上下分離による鉄道維持」「BRT転換」「路線バス転換」の調査を開始し、11月の第6回で試算結果を発表。今後30年間で「上下分離による鉄道維持」の累計赤字は439億円、「BRTに転換」は148億円、「路線バスに転換」は110億円とされた。

所要時間を見ると、「上下分離による鉄道維持」は現状と変わらず。BRT案も1分程度延び、区間によっては3分短縮もある。路線バスは4~18分延びるが、これは一般道のほうが停留所を増やせるため。直方~田川高校間で速達便の設定も視野に入れている。高校の前に停留所を置くなど、柔軟な運用も可能だという。

鉄道の代わりはBRTが良いと思われがちだが、工事費負担があるため、コスト面で一般道のほうが有利になる。豪雨災害で被災し、不通となっている美祢線(山口県)の場合、BRTでの復旧方針が示されたものの、「一般道で交差点にPTPS(公共車両優先システム)を設置したほうが効率的」と県から提案され、再度検討されることになった。

沿線自治体の温度差がある

2月16日の法定協議会で、行橋市、赤村、小竹町は他の自治体に先駆けて路線バス案支持を表明。糸田町は3月5日に町長がバス案支持の意向を表明した。香春町は1月の住民説明会で、BRT案が最も低コストとの試算を示しており、鉄道の存続に消極的。田川市、みやこ町、直方市は3月中旬までに考えをまとめる予定。協議会は9市町村の他に交通事業者、学識経験者、県関係者ら27人の委員で構成され、議論の上で最終的な方針を決める見通しとなっている。

  • <!-- Original start --></picture></span>平成筑豊鉄道の路線と沿線自治体の境界。路線バス案支持の自治体名を赤色、鉄道志向と予想される自治体名を水色で示した。黒い実線はJR九州の在来線、黒い点線はJR以外の路線(地理院地図をもとに筆者加工)<!-- Original end -->

    平成筑豊鉄道の路線と沿線自治体の境界。路線バス案支持の自治体名を赤色、鉄道志向と予想される自治体名を水色で示した。黒い実線はJR九州の在来線、黒い点線はJR以外の路線(地理院地図をもとに筆者加工)

行橋市、赤村、小竹町が早期にバス路線案を判断できた理由は、平成筑豊鉄道への依存度の低さにある。行橋市の場合、小倉・大分方面へ向かう日豊本線の移動需要が大きく、内陸に向かう田川線の移動需要は小さい。車があれば行橋市から香春町や田川市へ直線的に結ぶ国道201号があるし、行橋駅から直方駅へ行く場合、ダイヤによっては日豊本線・福北ゆたか線経由のほうが田川線・伊田線経由より所要時間が短くなるケースもある。昨年12月、行橋市が住民にアンケート調査を実施した際、路線バス案の支持が4割で最も多かったという。

小竹町は北部に伊田線が通っている。国鉄時代に駅はなかったが、平成筑豊鉄道に移管された後、あかじ駅(現・あかぢ駅)が開業した。この駅は小竹町の中心から遠く、直方市との境界付近にある。小竹町側は駅から約300m付近に集落があり、直方市側も駅から約300m離れた場所に住宅地がある。小竹町としては、遠賀川に沿って南北に貫く福北ゆたか線(筑豊本線)の需要が大きく、伊田線の依存度は小さい。

赤村の路線バス案支持は意外だった。山に囲まれた村で、役場は赤駅付近、集落は油須原駅付近にある。田川線で行橋方面、伊田線で田川・直方方面の移動需要があるはずだし、赤駅から未成線の油須原線をたどるトロッコ列車もあり、源じいの森駅付近に公園や温泉もある。筆者も訪れたことがあり、鉄道で観光に訪れる人はいるはずだが、赤村は鉄道よりバスを選んだ。村の経済規模において、鉄道では費用負担が大きすぎるという判断だろう。

福智町、糸田町、みやこ町の人々にとって、平成筑豊鉄道は直方市や田川市、行橋市に出るため必要な路線に見える。しかし糸田町はバス路線を支持した。町の中心からは離れるが、「道の駅いとだ」付近のバス停から飯塚・福岡(天神)方面へ特急バスが日中に毎時2本、朝夕には毎時4本程度発着している。後藤寺方面も同様で、伊田・香春方面に至る便もいくつかある。「道の駅いとだ」に広い駐車場もあるから、パークアンドライドとバスで十分かもしれない。

福智町は鉄道存続を支持した。町内に国道や高速道路がなく、鉄道への依存度が大きい。町内の高校生が直方市や田川市などの高校へ通学する上で、鉄道は不可欠だろう。みやこ町は南北に長く、北部の国道201号沿いにみやこ町役場がある。南部の山間部も国道が通っている。問題は中部の犀川付近で、ここは鉄道の利用が多そうに見える。ゆえに鉄道維持としたいところだが、路線距離が長いために維持負担金も大きい。悩みどころだろう。

香春町にとって、主要路線は町内を南北に結ぶ日田彦山線であり、南端をかすめる田川線の移動需要は小さいと思われる。BRTにすれば専用道の区間が短く、負担が小さいことも、BRTを望む理由のひとつと推測される。

直方市は行橋市と同様、田川・行橋方面の移動需要が小さいと考えられる。直方市民にとって、福北ゆたか線の博多方面、福北ゆたか線に筑豊電気鉄道も加えた黒崎・小倉方面の移動需要が大きいだろう。田川市は田川線、伊田線、糸田線の3路線が集まる地域で、鉄道存続の意向は高そうに思える。ただし、後藤寺線で新飯塚方面やその先の博多方面、日田彦山線で小倉方面にアクセスできるだけに、平成筑豊鉄道の維持負担に住民の理解を得られるか。

今後の動き次第で判断が分かれる可能性もあるが、現時点で行橋市、赤村、小竹町、糸田町、直方市、香春町の6市町村が路線バス志向、福智町、みやこ町の2町が鉄道志向と筆者は推測する。田川市は鉄道志向と思われるが、その中でも平成筑豊鉄道をどうとらえるか。田川市の意向はかなり重要だと思う。

「属地負担」を県まで拡大できれば…

平成筑豊鉄道全体の需要を俯瞰する。協議会の調査結果によると、沿線地域の高等学校等は17施設あり、うち11施設が駅から1km圏内にあるという。沿線地域の病院は25施設あり、うち12施設が駅から1km圏内にある。駅から離れた病院へは、各市町村がコミュニティバスやAIデマンド交通、福祉バスを用意している。スーパーや家電量販店などの商業施設は沿線地域に50施設あり、うち24施設が駅から1km圏内。ただし、こちらはマイカー利用者が多いだろう。

平成筑豊鉄道は2023年、全36駅から半径1kmの住民にアンケートを実施した。その結果、約7割が鉄道を維持すべきと回答したものの、自治体負担を増やすことに約5割が否定的だった。鉄道や路線バスに関して、各地域の負担を路線長や停車場の数などで按分する「属地負担」という考え方がある。経済規模で負担割合を決める方法もある。ところが、この考え方だと需要とのずれが起きる。路線が長いからといって鉄道利用者が多いとは限らないし、都市の経済規模が大きいからといって、閑散地域へ向かう鉄道が必要というわけではない。

これはローカル線に共通する問題で、都市から町村への需要は小さく、町村から都市への需要は大きい。だから必要性が高いと考える町村側の「応益負担」のほうがわかりやすい。しかし、町村側の経済規模が小さければ負担が重くなってしまう。応益負担にも限界がある。

平成筑豊鉄道のように9つもの自治体を経由すると、温度差が異なるからまとまりにくい。ならば「属地」の範囲を拡大すればどうか。つまり市町村ではなく、福岡県の鉄道としてとらえる。只見線の存廃問題で福島県が積極的に関与したように。沿線9市町村が法定協議会を福岡県に要請した理由も、県の関与に期待したと考えられる。福島県は只見線に観光価値と県全体の経済効果を見出した。福岡県は旧筑豊炭田地域の鉄道に価値を見出せるだろうか。