「もしもヴェイロンが今なお進化し続けていたら!?」の答え|ブガッティF.K.P.オマージュ

ブガッティF.K.P.オマージュは、2026年1月29日から2月1日までパリのレトロモビルで開催された”アルティメット・スーパーカー・ガレージ”で実車が公開された。会場ではオリジナルのヴェイロン16.4とともに展示され、4つの異なるヴェイロンモデル(ヴェイロン16.4、グランスポーツ、スーパースポーツ、ヴィテッセ)も集結。さらに、フランス共和国親衛隊に護衛されたブガッティの歴史的モデルがパリ市内をパレードするなど、盛大なセレモニーが行われた。

【画像】「もしヴェイロンが進化し続けていたら」という問いへの答えとして設計されたF.K.P.オマージュ(写真53点)

車名はヴェイロンの生みの親であり、フォルクスワーゲングループを率いてきた創業家にルーツを持つ、フェルディナント・カール・ピエヒ教授の頭文字から取られている。これはブガッティが現在展開している「プログラム・ソリテール」(年間最大2台の限定生産)、究極のビスポーク車両だ。2025年8月にアメリカ・カリフォルニア州でのモントレー・カーウィークで発表された第1作「ブルイヤール」に続き、F.K.P.オマージュは第2作目として誕生した。

同プログラムでは、シロンやミストラルといった既存モデルのプラットフォームをベースに、内外装に顧客のビジョンに合わせて一から創り上げている。単なるカラーやオプション選択の域を超えた、文字通りの「コーチビルディング」の世界である。かつて、エットーレ・ブガッティが実践していた”自動車製作を芸術の域まで高める”というモットーを現代において再現しているかのようだ。

1998年のイースター休暇中、マヨルカ島で過ごしていたピエヒ教授はBMWがロールス・ロイスを買収したことを知らされた。ちょうどフォルクスワーゲングループでのベントレー/ロールス・ロイス、両ブランドを取得すべく動いていただけに、さすがのピエヒ教授も落胆。息子、グレゴールが”ブガッティ・タイプ57 SCアトランティックのモデルカーを買ってあげる”と慰めたらしい。

ピエヒ教授の自伝「Auto.Biographie」では愉快な運命のいたずらだったと振り返っている。ピエヒ教授もブガッティのモデルカーを購入しイースター休暇後、最初の取締役会にてブガッティ・ブランドの買収に向けて舵を切った。そして同年、フォルクスワーゲングループ傘下に収めた。ピエヒ教授とエットーレ・ブガッティという二人のエンジニアの精神が、時代を超えて出会った瞬間だった。

”比較できるものなら、それはブガッティではない”というのがエットーレ・ブガッティの格言であり、ピエヒ教授は”一目でブガッティと分かる、他の何とも比べられない存在を創り出すこと”を新生ブガッティで目指した。ヴェイロン発表時には特段言及されていなかったが、ヴェイロンのデビュー15周年を報じた公式プレスリリースに初めて”18気筒エンジンを搭載する構想があった”ことが明かされている。

なんでも1997年、東京モーターショー開催前後に東京・名古屋間の新幹線に乗車していた際、ピエヒ教授はフォルクスワーゲン・パワートレイン開発責任者であったカール・ハインツ・イノマンとの雑談中、18気筒エンジンのスケッチを描いていたという。そしてブガッティ買収後、18気筒エンジンの採用が検討された。なお、名古屋にどのような用事があったか定かではないが、おそらくフォルクスワーゲン・グループ・ジャパン豊橋インポートセンター(フォルクスワーゲン、ベントレー、アウディ、ランボルギーニ、ポルシェなどのPDI業務をする場所)の視察に出向いたのではなかろうか。

18気筒エンジンが構想されていたヴェイロンだが、最終的にはコンパクトで軽量なW16エンジンが採用された。2つのV8エンジンを90度の角度で配置し、各V8ユニットのシリンダーバンクを15度分離させる。この配置により、省スペースなW型構成が実現し、4つすべてのシリンダーバンクのピストンストロークが単一のクランクシャフトに作用する。長さわずか645mmという驚異的なコンパクトさにより、ヴェイロンは2,700mmという短いホイールベースを実現できたのだ。

F.K.P.オマージュは「もしヴェイロンが2006年以降も進化し続けていたら」という問いへの答えとして設計されている。外観は初代ヴェイロンの後傾姿勢とドロップベルトラインを再現しながら、最新のシロン・スーパースポーツのシャシーとパワートレインを搭載。最高出力1,600馬力を誇る8リッターW16クアッドターボエンジンは、シロン・スーパースポートが時速300マイル(約483km/h)を超えるために開発された、W16エンジンの集大成である。

塗装技術の進歩も見逃せない。「ルージュ・ジュビレ」と名付けられた特別な赤は、ヴェイロンのオリジナルカラー「アブソリュート・レッド」の進化版だ。銀色のアルミベースコートの上に赤いティント入りクリアコートを重ねる多層塗装技術により、見る角度によって深みと立体感が変化する。ブラックティント処理された露出カーボンファイバーとのコントラストも絶妙だ。

リアには大型化されたディフューザー、アクティブフロントディフューザーフラップが追加され、高速安定性が向上している。格納式リアウィングも健在だ。

インテリアはシロンやミストラルを含む近年のW16モデルとは一線を画す、ほぼ完全な新設計となっている。なお、ダッシュボード中央に装備された41mmのオーデマ・ピゲ ロイヤルオーク トゥールビヨンは顧客のリクエストにより採用されたもので、電源接続はされていない「本物」である。下世話だが、この時計だけでもロールスロイス・ファントムあたりが買えそうだ。

シート生地には、パリで独占的に織られた「エットーレ・グラン」と呼ばれるカスタムカークチュールファブリックを「ハバナ」カラーで採用。ヘッドレストとニーレストにはF.K.P.の署名が施され、ドライバー側のニーレストにはピエヒ氏の生年月日である「1937年4月」がほとんど見えないほど繊細に刻印されている。

F.K.P.オマージュの値段は1000万ユーロ(約12億円)以上と見られ、すでに売却済み。購入者は明らかにされていないが、車両はヨーロッパに留まることが確認されている。

文:古賀貴司(自動車王国) 写真:ブガッティ

Words: Takashi KOGA (carkingdom) Photography: Bugatti