幸四郎主演シリーズを展開する中で改めて実感したのは、『鬼平犯科帳』という原作の強さ。「みんなこのタイトルを知っていますよね。ある会社の方からは“僕は時代劇があまり好きじゃないけど、『鬼平犯科帳』は知ってるからすごい銘柄なんですよね”と言われました」と、抜群の知名度を誇る。

毎回登場するゲストは、オファーをすると「『鬼平』ですか!?」と驚きと喜びの反応があるのだそう。宮川氏は「そういう作品は、なかなかないですね。かつての『北の国から』や、『古畑任三郎』の犯人役のように名誉なことと感じていただけているのだと思います」とブランド力もあるからこそ、「改めて映像化するとなると、吉右衛門さん主演のシリーズと比べられたりもしますし、それだけ作品に対する重みを感じています」と覚悟を持って取り組んでいる。

この強みを生かした幸四郎主演シリーズの大きな特徴が、メディアミックスだ。時代劇専門チャンネルでの放送、時代劇専門チャンネルNETでの配信、劇場上映、朗読劇、ラジオドラマ、ファンイベント、オリジナルグッズの販売に加えて、松竹が歌舞伎として公演するなど、次々に従来のテレビ時代劇の枠を打ち破る展開を見せている。

背景にあるのは、制作予算の確保。「従来の放送や配信だけに頼った収益構造から一歩進んで、IP化することによって制作体制を強固にして作り続けよう、という発想でスタートしました」といい、これだけバラエティに富んだ展開でも「まだ走り始めたばかりです。イメージはもっと膨らんでいます」と構想が広がる。

各セクションでIP展開に取り組むことが、会社にとっての原動力にもなるそうで、「従来の有料専門チャンネルにありがちな完成された作品を権利元から許諾をいただいて放送するだけではなく、“自分たちのコンテンツなんだ”という意識があると、やはり社員のモチベーションは高くなります」と、組織を活性化させる効果を生んでいるそうだ。

原作者側も太鼓判「いいですね!」

多岐にわたるIP展開を進めるには、原作者側の理解も不可欠だが、「映像化されることで、改めて今、原作が読まれているそうです。お客様は映像を見て、原作を読んで、という形で楽しみが倍になるんですよね。だから、映像化は原作にとっても良いことだと受け止めてくださっていて、他の展開の提案にも寛大に応じてくださいます」と後押ししてくれている。

一方で、絶対に譲ってはいけないラインもある。

「池波正太郎先生の作品に登場する人物の描き方ですね。映像の都合やプロデューサー、ディレクターの判断でキャラクターが本来持っている魅力と違う方向に導くことは、1968年の刊行以来、3000万部以上発行されている『鬼平犯科帳』の原作ファンを裏切ることになる。そうならないよう、一番気をつけています」

それは決して、厳しい縛りとは捉えていない。「キャラクターの“側”は変えてもいいけど、“根っこ”を変えないということです。そこをきちんと守れば、表現としての自由度は認めてくださります」とのことで、キャスティングについても「火付盗賊改方メンバーは“江戸の町のFBI”というコンセプトでオファーをさせていただいたのですが、池波先生の原作を管理されているオフィス池波様も“いいですね!”と言ってくださっています」と太鼓判を押しているそうだ。

  • 『鬼平犯科帳 兇剣』

    『鬼平犯科帳 兇剣』

『侍タイムスリッパー』と『鬼平犯科帳』が夢の“共演”

そして、1月10日に放送・配信するシリーズ最新第7弾『鬼平犯科帳 兇剣』の注目は、第1弾『本所・桜屋敷』にも登場した平蔵の親友・ 岸井左馬之助役として、『侍タイムスリッパー』のブレイクを経て再び登場する山口馬木也と、幸四郎の再タッグ。「幸四郎さんと馬木也さんの関係が“実際に親友だった!?”と思ってしまうくらい、すごくいいんです。『侍タイムスリッパー』と『鬼平犯科帳』の“共演”ですから、見どころになると思います」と予告する。

ストーリーは、平蔵が休暇を取って京都に父の墓参りに行くところから始まる。「『鬼平』といえば、江戸の街で盗賊たちを取り締まるというイメージが強いですが、今作は京都に向かうロードムービーになっています。京都に行くまでの景色、着いてからの景色、その美しさも楽しめて、いつもの『鬼平』とはちょっと違う雰囲気があって、面白いと思います」とのことだ。

●宮川朋之
1967年生まれ、東京都出身。日本大学芸術学部卒業。98年「日本映画専門チャンネル」「時代劇専門チャンネル」の開局から編成、企画を担当。時代劇専門チャンネルのオリジナル時代劇、35作品以上の企画、プロデューサーを務める。主な劇場映画として『最後の忠臣蔵』(杉田成道監督)、『LIAR GAME The Final Stage』(松山博昭監督)、『リップヴァンウィンクルの花嫁』(岩井俊二監督)、『Ribbon』(のん監督)、『仕掛人・藤枝梅安(一)(二)』(河毛俊作監督)、同作品で23年、第42回藤本賞新人賞を受賞。松本幸四郎主演『鬼平犯科帳』シリーズ(山下智彦監督)、『おいハンサム!!』(山口雅俊監督)連続シリーズ&劇場版のエグゼクティブ・プロデューサー。25年「伊丹十三4K映画祭」、アクション時代劇『SHOGUN'S NINJA』(坂本浩一監督)を企画。22年常務執行役員、25年6月から現職。