腎臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、相当悪くなるまでほとんど症状が現れません。気づいたときにはすでに腎不全に近く、透析療法の一歩手前ということもあります。今回は、腎不全の前に現れる“見逃されやすい小さなSOS”と、そのサインをキャッチする方法を紹介します。
腎不全とはどんな状態?
「心不全」、「肝不全」、「腎不全」など、「●●不全」という病名があります。いずれも「不全」の前に付いている臓器の機能が大きく低下していることを意味します。腎不全の場合、腎臓の諸機能が低下してしまっている状態ということです。
では腎臓にはどのような機能があるのかというと、第一に、血液をろ過して老廃物を尿として排泄し、血液を浄化するという機能が挙げられます。さらにそればかりでなく、体内の水分やミネラルのバランス調節、ホルモン分泌、免疫や骨の健康へのかかわりなど、さまざまな重要な働きを担っています。腎不全になるとそれらの働きが低下するため、血液中に老廃物が溜まって尿毒症になったり、高血圧や貧血になったり、感染症にかかって重症化しやすくなったりします。
腎不全の症状
これら、腎不全で現れる体の変化の中で、患者さん自身が気づくことのできる症状は、主に尿毒症の症状です。具体的には、むくみ、吐き気、食欲低下、皮膚のかゆみ、および、貧血に伴い倦怠感や息切れが生じやすくなる、顔色が悪くなる、といったことです。また、ミネラルバランスの乱れのために不整脈が起きることもあります。
これらの尿毒症の症状が現れ始めたら、腎臓のろ過機能を器械で代替する「透析」を視野に入れた治療を開始しなければ、命にかかわることもあります。
腎不全につながる「慢性腎臓病(CKD)」
腎不全は、腎臓の働きが大きく低下した状態です。しかし、いきなりそのような状態になることは、自己免疫疾患(免疫機能が自分の体に対して働いてしまう病気)の発症時や重い感染症にかかった時などを除いて、あまりありません。腎不全になる前段階として多くの患者さんが、「慢性腎臓病(chronic kidney disease;CKD)」と呼ばれる状態になります。つまり、CKDを進行させないことが、腎不全を防ぐ大切なポイントと言えます。
CKDは検査でしかわからない
ここまでお読みになって、「自分はCKDでないから腎不全の心配はない」と思われた方がいるかもしれません。しかし実は、国内の患者数が2,000万人にも上ると推計され、成人の約5人に1人がCKDに該当するほど、とても身近な病気なのです。ご自身がCKDという、将来、腎不全になるかもしれない状態であることを知らずにいる人が少なくないということです。
なぜ、自分がCKDだと知らずにいる人が多いのか……その大きな理由は、CKDが自覚症状のない病気だからです。CKDかそうでないかを知るための、ほぼ唯一の手掛かりは、腎機能の検査を受けることです。腎機能の検査によって、将来の腎不全のリスクを推し量ることもできます。
腎不全につながることのあるCKDで現れる“小さなSOS”
腎臓のろ過機能がどのくらい働いているかは、採血検査でわかるクレアチニンという値から推測できます。クレアチニンは老廃物の一種なので、本来は尿の中に排泄され、血液中の濃度は一定レベル以下に保たれています。血中クレアチニンが高くなっているとしたら、血液のろ過が十分になされていないということです。
eGFRが60を下回ったら要注意
健診や治療の場面では、この血中クレアチニン値に、性別や年齢を考慮して計算される「eGFR(推算糸球体ろ過量)」が腎機能の判断に使われます。eGFRが低いほど、ろ過機能が低下していることを意味し、60を下回った状態が慢性的に続いている場合にはCKDと診断されます。
血中クレアチニンの上昇やeGFRの低下は、「沈黙の臓器」である腎臓が訴える、わずかなSOSのサインです。健診の結果を見る時に見逃さないように必ずチェックして、腎臓のかすかな声をキャッチしてあげてください。なお、筋肉量が少ない人では腎機能が低下していてもeGFRが高く出るため、治療に際して別の方法で腎機能を測ることもあります。
尿タンパクがある場合はより注意が必要
血液検査のほかに尿検査では、尿の中に蛋白質やアルブミン(蛋白質の成分)、または血液が混ざっていないかなどを調べます。これらが陽性で、かつその量が多い場合、CKDがより速く進行してしまいやすいため、原因を詳しく調べて早期に治療する必要があります。
CKDをきちんと治療することが腎不全のリスクを押し下げる
CKDの主な原因として、高血圧や糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症、肥満、喫煙などの生活習慣に関連する病気や状態が挙げられます。これらのうち、生活習慣病と呼ばれることのある糖尿病などの病気は、いずれも自覚症状が乏しい病気です。つまり、腎不全につながるCKDだけでなく、CKDを引き起こす病気も自覚症状では気づくことができないということ。だからこそ、健診を受けてそれらを見つけなければいけません。
さきほどお話ししたeGFRのほかに、血圧、血糖値/HbA1c、中性脂肪、尿酸値、BMIなどについても健診で異常を指摘されたら、ないがしろにせずしっかり対策を立てましょう。ふだんの生活では、適度な運動、バランスの良い食事、肥満解消、禁煙、節酒を心がけてください。
小さな体の変化を放置せず、早めの受診を
何度もいいますが、腎臓は「沈黙の臓器」です。自覚症状が現れるのは、既に腎不全のリスクが相当高くなってからです。そのリスクを早期にキャッチできるチャンスは、健診です。ぜひ、メタボ健診などの機会を活用して、体に現れるわずかな変化を捉えてください。もし異常が見つかったなら医師の診察を受け、そのアドバイスを守りながら腎不全のリスクを摘み取っていきましょう。
最後に腎不全の症状に関して、腎臓内科の専門医に聞いてみました。
腎臓1つに100万個の血液ろ過装置=糸球体があります。半分(50万個)が潰れても残りが無理をして腎機能が保たれます。水面下で腎臓が壊れても採血のクレアチニンは正常で、これを発見する目印が、糸球体の悲鳴である尿タンパクです。
GFRが60を下回りCKDとされる時点でも無症状です。40を割ると血液が酸性となり、10を割ると色々な毒素が蓄積し、それに腎臓が抗う適応に限界が来ると尿毒症が出現します。歳のせい以上に腎臓が悪くなっていないか? 年々のGFRの変化で見張ります。
脳や心臓のミクロの血管が傷んでも無症状です(狭心症は太さ2~5ミリの冠動脈が狭くなると起こる)。糸球体は太さ0.005~0.01ミリの毛細血管が糸状に折りたたまれたものですから、心臓や脳の病気で命を落とす前に、尿タンパクがミクロの血管の障害を教えてくれるのです。
目は心の窓、尿タンパクは命の窓です。筋肉量が多いため濡れ衣でGFRが低い場合もありますし、80歳の方はGFRが20あれば天寿をまっとうするまで透析にならないとする報告もあります。
尿タンパクが陽性でもオシッコが濃かっただけかもしれません。健診でGFR低値や尿タンパク陽性とされても、落ち込まずに専門医を訪れていただきたいです。
福田 道雄(ふくだ みちお)先生

一宮西病院 腎臓内科第二部長 / 腎&シャント・レミッションセンター長
資格:日本腎臓学会 腎臓専門医、日本透析医学会 透析専門医、日本内科学会 総合内科専門医、日本リウマチ学会 リウマチ専門医
