ただ、視聴者が涙を誘われた理由は沢尻の熱演だけではない。ドラマ『1リットルの涙』は単なる“ヒューマンドラマ”ではなく“ホームドラマ”でもあった。

周囲から頼られる保健師の母・潮香(薬師丸ひろ子)、豆腐店を営む人情派の父・瑞生(陣内孝則)、中学生で反抗期の妹・亜湖(成海璃子)、元気なサッカー少年の弟・弘樹(真田佑馬)、無邪気な幼児の妹・理加(三好杏依)。どこにでもいる家族の明るくにぎやかな団らんのシーンが難病との落差を生み、視聴者は「身近に起こりうる物語」として見ることにつながっていた。

家族の中で特に共感の声が集まっていたのは母・潮香。不安に襲われ、葛藤を抱えながらも懸命に娘を支える姿を演じた薬師丸に称賛の声があがっていた。

視聴者の涙腺を刺激した理由としてもう1つあげておかなければならないのは、木藤さんのメッセージを全面に散りばめた演出。時折はさまれる「病気はどうして私を選んだのだろう」「お母さん、わたし結婚できる?」などのメッセージや日記の筆跡は切実さがあふれていた。

その極めつけはエンディング。木藤さんや家族の写真と日記がフラッシュで映される中、Kの主題歌「Only Human」が流された。平成の当時涙を誘っただけでなく、令和の今見ても自動的に涙がこぼれるようなドラマ史に残るエンディングであることは間違いないだろう。

音楽では第1話の開始9分から流され、その後もヘビロテされたレミオロメンの挿入歌「粉雪」、重要な別れのシーンで使われた「3月9日」もヒット。涙を誘うストレートな歌詞とメロディによって『1リットルの涙』は「これらの楽曲を聴くと思い出す」という作品となった。

制作サイドのファインプレーとしては麻生遥斗(錦戸亮)の存在も大きい。亜也とのほのかな恋や絆が描かれたが、実在しない人物であり、「娘に恋をさせてあげたかった」という木藤さんの母親の想いを制作サイドが反映したという。重くなりがちな大病という設定に癒やしや救いをもたらす脚色であり、それらは木藤さん母子も望んでいたものに見える。

その他では沢尻エリカと錦戸亮だけでなく、妹を演じた成海璃子。さらに亜也が憧れる先輩役で出演していた松山ケンイチも含め、主演級俳優たちのフレッシュな姿も貴重だ。

大病モノは「ネタバレ前提」の物語

最後に、このところ大病をメインテーマとして扱うドラマが減っていた理由について。

00年以降の主な作品をあげると、『ビューティフルライフ』(TBS系、00年)、『Pure Soul~君が僕を忘れても~』(日本テレビ系、01年)、『僕の生きる道』(カンテレ・フジ系、03年)、『愛し君へ』(フジ系、04年)、『タイヨウのうた』(TBS系、06年)、『美丘-君がいた日々-』(日テレ系、10年)、『ビューティフルレイン』(フジ系、12年)、『ママとパパが生きる理由。』(TBS系、14年)、『僕のいた時間』(フジ系、14年)、『結婚式の前日に』(TBS系、15年)、『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS系、18年)などが放送された。

原作の有無にかかわらず大病をメインテーマとして扱う作品は、基本的に放送前から視聴者にそれが知らされている。生きたまま終わるか、終盤で亡くなるかの違いはあっても、“大病”というネタバレが前提の作品だけに「重いドラマ」とみなされやすい。

そして10年代から20年代にかけてそんな重いムードのドラマを避ける人が増えて視聴率が取れなくなった。これは大病に限った話ではないが、「重そう」とみなされると回避されやすいため、コメディがベースの作品が増え、復讐劇でも「スカッとする」痛快作であることを事前に明かしているケースが多い。

もし大病というメインテーマを隠しておくと、「だまし討ち」「見るんじゃなかった」などと怒りを買うリスクもあるだけに、冒頭にあげた今秋の『すべての恋が終わるとしても』はイレギュラーな作品と言っていいだろう。同作は丁寧な脚本・演出とキャストの熱演でそんなリスクを乗り越えられたが、レアケースであることは確かだ。

だからこそ『1リットルの涙』を筆頭に、ここで挙げた作品の希少価値は相対的に高くなる。制作サイドが大病を通して描きたいのは「どのように生きるか」「限られた時間で何をして過ごすか」「命や人生をどうとらえるか」。視聴者は涙をこぼすだけでなく何らかの気づきを得られる作品だけに、年末年始での一気見をおすすめしたい。

日本では地上波だけで季節ごとに約40作、衛星波や配信を含めると年間200作前後のドラマが制作されている。それだけに「あまり見られていないけど面白い」という作品は多い。また、動画配信サービスの発達で増え続けるアーカイブを見るハードルは下がっている。「令和の今ならこんな見方ができる」「現在の季節や世相にフィットする」というおすすめの過去作をドラマ解説者・木村隆志が随時紹介していく。