京都の菓子メーカー・美十(びじゅう)が手掛ける京都銘菓「おたべ」から、新感覚スイーツが登場した。2025年3月に発売されてからすぐに販売数10万箱を突破したというこの新商品は今、若い世代を中心に支持を集めている。その名も『ふわふわおたべ』。これまでにない食感の京都土産を目指したこの新商品の開発には、実に12年もの月日が費やされたという。

  • 従来の『つぶあん入り生八つ橋 おたべ』と同じ三角形でありながら、今までになかった真っ白な見た目とふわふわの食感が新感覚の新商品『ふわふわおたべ』(撮影: 木崎ミドリ)

    従来の『つぶあん入り生八つ橋 おたべ』と同じ三角形でありながら、今までになかった真っ白な見た目とふわふわの食感が新感覚の新商品『ふわふわおたべ』(撮影: 木崎ミドリ)

  • 抹茶とにっき(シナモン)の、古くから愛されている京都土産の代表と言っても過言ではない伝統的な、つぶあん入り生八つ橋(写真提供: 株式会社美十)

    抹茶とにっき(シナモン)の、古くから愛されている京都土産の代表と言っても過言ではない伝統的な、つぶあん入り生八つ橋(写真提供: 株式会社美十)

『つぶあん入り生八つ橋 おたべ』から生まれた新感覚スイーツ

八ッ橋の原型は江戸時代。焼き菓子で、米粉・砂糖・にっきを混ぜて焼いた香ばしくて硬めのものだった。その後、各社の工夫によって、焼く前の柔らかい皮であんを包んだ生八つ橋が登場し、現在よく知られている三角形のスタイルが定番化。観光客向けの京都土産として急速に普及していく。

喫茶店からその歩みをはじめた株式会社美十が『つぶあん入り生八つ橋 おたべ』の販売を開始したのは1966年。今からおよそ60年前だ。以降、同社は季節に焦点を当てた秋限定のおたべや、色に着目した「黒のおたべ」、洋に焦点を当てた「ショコラのおたべ」、時流に合わせたひとくちサイズの「こたべ」、他社とのコラボ商品などさまざまな方法で新たな商品作りに取り組んできた。京都の八つ橋業界の中では後発ながら、京都の伝統と現代の味覚の融合に、果敢に挑み商品開発を続けている。

新たな試みは変化球として楽しまれ、その時々で市場に受け入れられてきた一方、京都土産の定番である生八つ橋の市場は時がたつにつれ、飽和状態になってきたという。そんな市場環境の中、次なる切り口として、美十の開発担当者が注目していたのが、「食感」だった。

真っ白な見た目と雲のような食感を実現

「天使も驚く、ふわふわ食感。」をキャッチコピーとした『ふわふわおたべ』は、まるで雲のような真っ白で軽やかな生地の食感が特徴だ。その食感の決め手になったのが、メレンゲ。試行錯誤の末、きめ細やかなもち粉にメレンゲを合わせることで、理想に近いふわふわ食感を実現することができるようになったと、担当者はいう。

北海道十勝産の契約農家より仕入れた小豆と国産バターを使いなめらかに炊き上げたこしあんバターを、真っ白で軽やかな生地で包み込み、まるで洋菓子のような和菓子が誕生した。

  • キャッチコピーである「天使も驚く、ふわふわ食感。」を見事に表現したビジュアルのパッケージが目をひく

    キャッチコピーである「天使も驚く、ふわふわ食感。」を見事に表現したビジュアルのパッケージが目をひく

  • 中は個包装になっていて配りやすく食べやすい。「ふわふわおたべ5個入り」810円(税込・12/1~)

    中は個包装になっていて配りやすく食べやすい。「ふわふわおたべ5個入り」810円(税込・12/1~)

  • フィリングは甘めの「こしあんバター」。ミルキーでふわふわな食感のお餅の中から、しっかりと「和」を感じられるあんが顔を出す

    フィリングは甘めの「こしあんバター」。ミルキーでふわふわな食感のお餅の中から、しっかりと「和」を感じられるあんが顔を出す

理想の食感を追い求めた12年間の開発期間

12年前に開発担当が着想を得る大きなヒントとなったのが、求肥に卵白と白あんを加えて練り上げた真っ白なお餅状の和菓子「雪平(せっぺい)」だった。そこからインスピレーションを受け、真っ白でふわふわした食感の、全く新しい「おたべ」を形にしたいと、開発担当者の試行錯誤がはじまった。

原材料選定、製法、保存性、味のバランスなど細部にわたり徹底的に試作が繰り返された。しかし、それを土産物として大量生産のラインに乗せるまでには、幾多の苦難があったのだという。ふわふわした食感を実現するための鍵となるのは、雪平にも使用されているメレンゲだ。しかし、ふわふわ感を出すための生地の成形や、アレルゲン対応、量産体制の対応など、クリアすべき課題は山積みだった。

「突破できない課題も多く、企画は一度立ち消えとなりました。しかし、この商品をなんとかしてお客様に届けたいという想いが消えず、隙間時間に開発を進めてきました」と、開発担当者は語る。

美十では、生八つ橋の定義を「米粉を使用していること」としている。『ふわふわおたべ』は、12年の開発時期を経てそのふわふわ食感を追求した結果、米粉ではなくもち米を使用。厳密には生八つ橋には分類されないが、従来のおたべと同じ三角形のこの商品は、「おたべ」の新商品として、京都土産のラインナップに仲間入りを果たした。

そうしてさまざまな障壁を乗り越え、12年の時を経て生まれた『ふわふわおたべ』は、発売すると予想を上回る反響となった。

  • お店でのパネルなど、販促物に使われている青と白のコントラストが活きたメインビジュアルと可愛い天使のイラストも「雲のようなふわふわ感」を伝える一助となっている(画像提供: 株式会社美十)

    お店でのパネルなど、販促物に使われている青と白のコントラストが活きたメインビジュアルと可愛い天使のイラストも「雲のようなふわふわ感」を伝える一助となっている(画像提供: 株式会社美十)

若い世代に支持された「洋菓子のような和菓子」

全く新しい「おたべ」を目指して開発され、既存の常識にとらわれず「食感」に着目し生み出されたこの和菓子は、メレンゲやバターなどの風味が活かされたまるで「洋菓子のような和菓子」となった。

伝統的な和菓子は「重い」「渋い」と敬遠される傾向があったが、『ふわふわおたべ』はそのイメージを刷新した。軽やかで空気を含むような食感に加え、こしあんの上品な甘さとバター風味のコクが絶妙にマッチしている。「洋菓子のような軽さ」と「和菓子らしい上品さ」の両立が、メインターゲットとした20~30代の若い世代の支持を集めた。

きなこをまぶす、フィリングにフルーツやコンフィチュールなどを詰めるという案も出たというが、担当者がこだわったのは和菓子と洋菓子の絶妙なバランスだった。

お餅の生地とメレンゲのバランス、こしあんとバターのバランス、真っ白でふわふわだけれども従来のおたべと同じ三角形など、洋菓子に寄せ過ぎず和菓子に寄り過ぎない、際どく考え抜かれたバランスが、この「まるで洋菓子のような和菓子」という絶妙なポジショニングを叶えている。

『ふわふわおたべ』が新たな京都土産として人気を集めている理由

1. 絶妙なバランスにこだわった「洋菓子のような和菓子」という新たなポジショニング
やわらかく軽やかな口どけの生地と、上品な甘さのクリームが調和し、どこかケーキを思わせる新感覚の味わいを実現。和と洋、どちらにも寄りすぎない絶妙なバランスが、若年層に広く支持される理由に。伝統にモダンのエッセンスを加えた新しい“京都土産”として、新たな風を吹き込んでいる。

2. 見た目と食感を見事に表現した「天使も驚く、ふわふわ食感。」のコピーとビジュアル
真っ白な見た目、ふわふわな食感を「雲」のビジュアルで表現。さらに、パッケージや広告に使われる「天使も驚く、ふわふわ食感。」というキャッチコピーは、商品の特徴をストレートに表現し、インパクトを放つ。SNS映えする可愛らしい見た目と共に、味覚だけでなく視覚でも「ふわふわ」を体験できるデザイン戦略が、ブランドの成功を後押ししている。

3. あきらめることなく12年もの歳月をかけ商品化を実現した担当者の熱い想い
構想から商品化までにかかった年月、そして一度立ち消えとなった企画の課題を解決すべく、隙間時間を見つけてコツコツと続けてきた開発担当者の並々ならぬ情熱。「おたべブランドの新しい可能性を拓きたい」という職人の情熱と挑戦心こそが、不可能を可能にし、京都土産の新たな可能性を切り開いた。

  • SNSにも「帰って開けてみたらめっちゃふわふわ~」などの好意的な声が。日本茶ではなくコーヒーと共に楽しむ写真をアップする人も

    SNSにも「帰って開けてみたらめっちゃふわふわ~」などの好意的な声が。日本茶ではなくコーヒーと共に楽しむ写真をアップする人も

12年かけて開発された軽やかで儚い食感は、和菓子の新しい可能性を示すとともに、京都土産のパイオニアとして、今後もSNSや旅行者の口コミを通じて、新しいファンを広げていくことが期待される。