三井住友カードは11月7日、公共交通機関でクレジットカードなどのタッチ決済で乗車できるソリューション「stera transit」の関西圏における現状を紹介する説明会を開催した。大阪・関西万博を契機に、関西圏での各社の導入が進んでから1年が経ち、タッチ決済乗車が拡大している現状が明らかにされた。

  • 交通機関でクレジットカードなどのタッチ決済での乗車が広がっている

    交通機関でクレジットカードなどのタッチ決済での乗車が広がっている

タッチ決済乗車を実現するstera transit

stera transitは、三井住友カードが提供し、鉄道改札機などにタッチ決済のリーダーを設置し、クレジットカードやデビットカード、プリペイドカードといった国際ブランドのカードで乗降ができるソリューションだ。

  • 普段のカードで乗車できるstera transit

    普段のカードで乗車できるstera transit

クラウドを活用して全国規模の交通システムを実現したのは国内では初めてで、2020年7月から提供が開始された。茨城県の茨城交通の高速バスでの導入から始まり、今年度中には45都道府県で230の事業者が導入することになるという。

世界的にもタッチ決済乗車が広まり、イギリス・ロンドンを皮切りに世界で850以上の都市がタッチ決済乗車に対応している。当初、日本では一部の国際ブランドしか対応していなかったが、現在は基本的には全国際ブランドが利用できるようになっており、利用者にとっては世界各国で同じカードで乗車できるグローバルスタンダードの仕組みとなっている。

  • stera transitの特徴。通常のクレジットカードの特徴がそのまま交通機関でも適用される

    stera transitの特徴。通常のクレジットカードの特徴がそのまま交通機関でも適用される

stera transitの特徴としては、普段使っているクレジットカードなどのカードをタッチするだけでそのまま乗降できる。交通系ICと同じように乗り降りできるが、特にクレジットカードの場合は後払いのため、チャージや残高管理が不要で、もちろん券売機で切符を購入するなどの手間も不要。通常のクレジットカード利用になるため、普段貯めているポイントも貯められ、クラウド経由で利用履歴が取得できるといったメリットもある。日本から海外に行った場合も、海外から日本に来た場合も、普段のカードで乗降できるため旅行者にとってもメリットがある。

こうしたクレジットカードなどを使って交通機関に乗車できるサービスとして、stera transitが開始されたのは2020年。当初は関西圏から導入がスタートしており、京都丹後鉄道が導入したのは2020年11月だった。

その後2021年には南海電鉄も採用し、順次福岡市地下鉄やJR九州なども採用して九州圏まで拡大してきた。関東圏や北海道、東北、沖縄などのエリアでも利用が始まり、ほぼ全国をカバーする規模にまで拡大している。

タッチ決済乗車では、普段のカード利用を含めたデータを取得することができる。交通機関利用と買い物が同じ1枚のカードで完結するため、移動・消費のデータを交通事業者や地域の自治体、商店街などと共有して有効活用できるのも特徴。

三井住友カードのTransit本部長の石塚雅敏氏によれば、stera transitの乗降データは毎日交通事業者に提供しており、消費のデータを含めたダッシュボードで分析できるようにしているという。同社のデータアナリストと共同で様々な分析をして地域の課題解決にも繋げていこうとしているそうだ。

  • 三井住友カードTransit本部長・石塚雅敏氏

    三井住友カードTransit本部長・石塚雅敏氏

1つの事例が熊本県。同県は高齢化が進んで人口減少、半導体メーカーが工場を新設して外国人の住民が増えていて、さらにコロナ禍によって交通機関の利用が激減。さらに交通系ICのリーダーの保守期限がやってきた。そんな課題を抱える熊本県は、更新費用が重い全国共通の交通系ICカードの機器更新を諦め、地域限定の「くまモンのICカード」とタッチ決済乗車のみの対応を決めた。

くまモンのICカードはすでに定期券や敬老パスなどで地元民の利用が多く、旅行者や外国人向けにはタッチ決済乗車という棲み分けを図った。さらに、熊本県は世界的にも渋滞が多い都市で、stera transitの機能を活用して自動車利用を減らして渋滞解消を狙うといった取り組みも検討しているという。

  • 熊本県での交通系ICの廃止とタッチ決済の採用

    熊本県での交通系ICの廃止とタッチ決済の採用

長崎県では、運転免許証を返納した高齢者が公共交通機関を使う際に割引を提供したり、小型の路面電車に大きな荷物を持ち込むと乗降で時間がかかるなどの課題があったため、荷物を預けて手ぶらで観光すると割引を提供する、といった仕組みを導入した。

  • 長崎県では、長崎MaaSの実証実験によって地域の高齢者が公共交通機関にアクセスしやすいようにして、免許証の返納を促すなどの取り組みを実施

    長崎県では、長崎MaaSの実証実験によって地域の高齢者が公共交通機関にアクセスしやすいようにして、免許証の返納を促すなどの取り組みを実施

stera transitはクラウド型の全国共通基盤を提供しているため、いずれかの都市で導入された機能は、全国でも提供できるようになる。三井住友カードでは、特定のエリアで提供しているサービスは、他の地域でも共通した課題の解決に広げていきたい考えだ。

他にも関西圏では、大阪・関西万博の会期に合わせて8月18日から10月13日までの間、昼間のタッチ決済乗車利用でオフピークの割引を提供。Osaka Metroの需要が逼迫すると予想して実装された機能だが、「開発、検討、社会実装まで数カ月で開発した」と石塚氏は強調。stera transitはクラウド型なので柔軟に、スピーディに施策が展開できるとしており、この取り組みも5月のゴールデンウィーク後から検討して8月に実装。交通機関向けとしては迅速に導入できたそうだ。

  • 大阪・関西万博に合わせて実施されたオフピークキャンペーン。短期間で機能を実装できる点も強みだという

    大阪・関西万博に合わせて実施されたオフピークキャンペーン。短期間で機能を実装できる点も強みだという

タッチ決済乗車はどのように使われてきたか

stera transitは、この1年で急速に利用が拡大している。2023年3月からしばらくはまだ利用が低迷していたが、2024年第2四半期から2025年第2四半期の1年間では利用件数が約5倍に拡大。「急激に伸びたのは大阪・関西万博が大きかった」(石塚氏)とのことで、特に2025年以降に関西圏での伸びが大きかったという。

  • stera transitの利用件数(トランザクション)の推移。具体的な数字はないが、全国での利用数では5倍に拡大し、特に関西圏の伸びが顕著だった

    stera transitの利用件数(トランザクション)の推移。具体的な数字はないが、全国での利用数では5倍に拡大し、特に関西圏の伸びが顕著だった

万博期間の2025年9月、Visa、Mastercard、銀聯の各ブランドのカードを使って国内でstera transitを利用した人を分析したところ、約120の国と地域の人が利用していたという。基本は訪日外国人が多い国の人が、stera transitも多く利用しているが、イギリスやシンガポールのように、訪日客としてのランキングは低いが、stera transitの利用は多いという国もあった。これは、その国でタッチ決済乗車が広く普及しているかどうかではないか、と石塚氏は分析していた。

  • 120カ国の人がstera transitを利用。訪日観光客数ランキングで上位の国の人が多いが、10位以下のイギリスやシンガポールが上位に食い込んだ

    120カ国の人がstera transitを利用。訪日観光客数ランキングで上位の国の人が多いが、10位以下のイギリスやシンガポールが上位に食い込んだ

  • こちらは利用者の声。80%以上が満足していたという

    こちらは利用者の声。80%以上が満足していたという

その関西圏では、2025年9月末時点で15事業者800駅以上においてタッチ決済乗車が可能になった。大阪・関西万博を契機として旅行者が増えたこともあって、関西圏での利用は大きく拡大。2024年10月に1カ月間12万件程度だった利用数は、2025年9月には196万件、実に15倍まで増加していた。

  • 関西エリアの対応状況。この1年半で大幅に拡大した

    関西エリアの対応状況。この1年半で大幅に拡大した

特に4月から5月にかけてキャンペーンを実施すると大幅に利用が拡大。その後は利用が落ち着いたが、キャンペーン前よりも利用は拡大しており、順調に利用は増加しているようだ。

  • 関西圏での利用状況。キャンペーンを挟んで増減はあるものの、右肩上がりに利用が伸びている。相互直通を開始した2024年10月からの1年間で、利用数は15倍以上になったという

    関西圏での利用状況。キャンペーンを挟んで増減はあるものの、右肩上がりに利用が伸びている。相互直通を開始した2024年10月からの1年間で、利用数は15倍以上になったという

万博前と期間中の利用状況を年代、男女別で分析すると、特に若者層の利用が大きく、さらに開催前よりも開催中に女性の利用が増加している点も特徴的だった。

  • 利用者の年代と性別で利用状況を見ると、若者の利用が多く、さらに万博前後では女性の利用が伸びている

    利用者の年代と性別で利用状況を見ると、若者の利用が多く、さらに万博前後では女性の利用が伸びている

例えばOsaka Metroの1日平均の乗降客数は、万博前で219.9万人だったが、万博中は252.7万人と15%増加していた。これに対して関西圏の全事業者でのタッチ決済乗車数は、7.3万人が13.1万人と79%の増加で、タッチ決済乗車が大きく拡大していた。

  • 万博を機にタッチ決済乗車は大幅に増加。ただし、Osaka Metroの1日の利用者数に対して、関西エリア全体のstera transitの1日の利用者数の比較となっている

    万博を機にタッチ決済乗車は大幅に増加。ただし、Osaka Metroの1日の利用者数に対して、関西エリア全体のstera transitの1日の利用者数の比較となっている

万博会場のある夢洲駅を利用した三井住友カードユーザーの消費傾向も分析された。これは、「年200回カードを使う人」をメインカードユーザーとして、夢洲駅の利用者と非利用者を比較すると、「旅行、外食、アウトドア・レジャー」といった分野で異なる傾向が見えたという。

  • 利用者の傾向分析。夢洲駅の利用者、つまり万博への来場者は、普段旅行や交通などに多くカードを利用している傾向があった

    利用者の傾向分析。夢洲駅の利用者、つまり万博への来場者は、普段旅行や交通などに多くカードを利用している傾向があった

夢洲駅を利用した海外からの訪日客は、米国、サウジアラビア、イギリス、イタリアといった国籍が上位に来ていた。万博来場者の海外比率では、アジアからの来場者が半数にも関わらず、タッチ決済乗車では比較的少なかったのは、ツアーバスなどの利用が多かったのではないかとの推測がなされていた。

  • 海外の利用者属性。夢洲駅利用者でサウジアラビアの人が多いのは、次回万博開催国のため、関係者の来場が多かったのではないかとの予測

    海外の利用者属性。夢洲駅利用者でサウジアラビアの人が多いのは、次回万博開催国のため、関係者の来場が多かったのではないかとの予測

夢洲駅を利用した訪日客は、他の地域の訪日客と比べて国内消費金額が大きかった。石塚氏は、タッチ決済乗車した人がそのカードを使って買い物をする傾向が強いとも分析しており、タッチ決済乗車が消費拡大に繋がる可能性も指摘する。

  • 夢洲駅で万博に来場したと考えられる人たちは、その後モノ消費、コト消費といった違いはあっても、より多くの消費をする傾向があった

    夢洲駅で万博に来場したと考えられる人たちは、その後モノ消費、コト消費といった違いはあっても、より多くの消費をする傾向があった

stera transitの今後の拡大方針

訪日客だけでなく、国内の利用者においても着実にタッチ決済乗車が伸びている状況下で、まだタッチ決済乗車を使っていない人にアンケートを採ると、最も多い理由が「なんとなく」というものだったという。

  • タッチ決済乗車を使わない理由は、サービスそのものの認知度やメリットの浸透が進んでいない点が多かった。訪日観光客に聞くと、カードが使えることを知らなかったという声が多かったそうで、海外のガイドブックなどでは「日本では切符やICカードが必要」という案内も残っており、そういった点も影響している可能性がある

    タッチ決済乗車を使わない理由は、サービスそのものの認知度やメリットの浸透が進んでいない点が多かった。訪日観光客に聞くと、カードが使えることを知らなかったという声が多かったそうで、海外のガイドブックなどでは「日本では切符やICカードが必要」という案内も残っており、そういった点も影響している可能性がある

他にはメリットがない・分からない、使い方が分からないといった回答があり、石塚氏は認知度向上を図る必要性を強調。もちろん利用可能な事業者や駅、改札を増やすことも重要で、その点では関東11社の事業者による相互利用は大きな契機となるとみる。

  • 大阪の大手のバス事業者が参画したことで、関西圏の他のバス事業者へと波及することも期待される。また、Osaka Metroの改札機でタッチ決済乗車に対応したのはまだ30~40%程度にとどまり、こうした対応改札機の拡大も目指す

    大阪の大手のバス事業者が参画したことで、関西圏の他のバス事業者へと波及することも期待される。また、Osaka Metroの改札機でタッチ決済乗車に対応したのはまだ30~40%程度にとどまり、こうした対応改札機の拡大も目指す

とはいえ、改札機の更改時期のタイミングに合わせて対応することが基本なので、今後順次導入されていくことになる見込みだ。

  • 首都圏の主要鉄道事業者11社が導入、相互利用が可能に

    首都圏の主要鉄道事業者11社が導入、相互利用が可能に

ただし、首都圏の11社にはJR東日本と京成電鉄が含まれていない。石塚氏はそれぞれの導入について言及しなかったが、特に重要なのがJRグループの動向だろう。

同じJRグループでも、例えばJR九州は当初から導入に前向きで、すでに鹿児島線の門司港駅から久留米駅の全駅、指宿枕崎線の鹿児島中央駅から指宿駅の全駅など、積極的にタッチ決済乗車に対応している。

それに対してJR東日本とJR西日本は現時点での対応を見送っており、本格的な導入の可能性は低そうだ。石塚氏は、「JRにも声がけはしている」とコメントしており、何らかの合意は目指しているようだ。

ちなみに石塚氏は、「Suicaとの対決はまったくしていない」と強調。色々な決済手段があってユーザーの選択肢を増やすという立ち位置で、交通系ICの置き換えを目的としているわけではないとの立場だ。

加えて、事業者からもニーズの高い定期券、子供運賃、障害者割引といった料金のバリエーションを実現することも必要だ。現状、「大人、普通運賃」の都度払いが基本のタッチ決済乗車は、一部上限キャップ制があるものの、現行の交通系ICが対応するような複雑な料金設計には対応し切れていない。

  • 三井住友カードでは、様々な機能を全国共通で展開するMaaSプラットフォームとして様々なアプリとも連携して事業を拡大していく考え

    三井住友カードでは、様々な機能を全国共通で展開するMaaSプラットフォームとして様々なアプリとも連携して事業を拡大していく考え

石塚氏は、各事業者のニーズや料金設計などの現状をヒアリングしながら、全国で共通化できる部分は共通化しながら、開発を進めていると話す。進捗としては当初の計画通りのタイミングだという。

他には、今後三井住友カードが推進する共通ポイントのVポイントサービス、法人カードと経費精算との連携、マイナンバーカードと連携した敬老パス、住民割なども検討。

  • Vポイント連携なども検討。法人への展開も進める計画

    Vポイント連携なども検討。法人への展開も進める計画

例えば自治体では、敬老パスの発行において、対象者に郵送して窓口にきてもらって手続きをしてICカードを手渡しするという煩雑な手続きがあり、こうした窓口での作業を削減したいというニーズがあるのだという。バス事業者も車内の料金箱のコストが重くのしかかっており、こうしたコストの削減による、地域の公共交通機関の維持にも期待が寄せられているとのことだ。