2025年11月4日に発売された『将棋世界2025年12月号』(発行=日本将棋連盟、販売=マイナビ出版)では、第73期王座戦五番勝負(藤井聡太王座vs伊藤匠叡王)の第4局観戦記「秘策☖4四角と勝負手☗2八角」など、、読み応えのある記事を掲載しています。本稿では当記事より、一部を抜粋してお送りします。
角換わり対策に注目が集まる伊藤叡王の後手番。そこで指されたのは秘策4四角。対する藤井王座はどのように受けて立つのか。熱戦の様子を金子タカシ氏が詳細に記します。
藤井聡太王座に伊藤匠叡王が挑戦している王座戦の第4局は、10月7日に神奈川県秦野市の「元湯陣屋」で行われた。
第3局から1週間しかたっておらず、しかもその間に藤井王座は竜王戦、伊藤叡王は順位戦を戦っていて、両者過密スケジュールの中で迎えた一局である。
ここまでの成績は、シンガポールでの第1局に藤井王座が先勝。続く第2局も藤井王座が押していた展開だったが、伊藤叡王の☖2二銀引の受けの妙手で流れが変わり、伊藤叡王が逆転で制した。第3局は、伊藤叡王の☗7七角がまたも受けの好手で、藤井王座の攻めを受け止めての快勝であった。ここまでは、伊藤叡王の受けの強さと、終盤でリードすれば藤井王座相手でも逆転を許さずに勝ちきる終盤力の高さが光っている。
本局の前まで、伊藤叡王は藤井王座とのタイトル戦で直近は5勝2敗。特に後手番では3連勝中であった。
このまま勢いに乗って伊藤叡王がタイトルを奪取するのか。あるいは、絶対王者・藤井王座が簡単に負けることはないとも思われ、流れを変えて、決着を最終局に持ち越すことができるのか、注目の一局である。
(中略)
秘策☖4四角
最初の注目点は、後手番・伊藤叡王の角換わりへの対策である。相腰掛け銀を受けて立つのか、右玉、早繰り銀、3三金型等のその他の角換わりが考えられるところ。雁木なら2手目は☖3四歩か、ほかには横歩取りもあるが、伊藤叡王は指さないだろう、などと思いを巡らせて控室に戻ってくると、モニターに☖4四が映っていた。☖4四角という符号自体は、少し形が異なるがJT杯の佐藤天彦九段―伊藤叡王戦でも現れている。
このときは持ち時間の短い公開対局であり、相手が「☗6六角型向かい飛車」で升田幸三賞を受賞した佐藤天彦九段だったこともあって、伊藤叡王のファンサービスを兼ねた趣向とも思われた。しかし、タイトルが懸かる本局に採用したとなると、☖4四角は深く研究している秘策に違いない。 ただし、この☖4四角の狙い・趣旨は難しい。控室のプロ陣もこのあとの進行を見守るしかない、としていた。一つだけ言えるのは、伊藤叡王が自分の研究範囲に引き込んだということだ。
☖4四角を負担に
伊藤叡王が満を持して投入してきた作戦だけに、簡単に破綻することはないだろう。
とはいえ、4四角の位置は不安定で、この位置を維持するのは難しいように思える。お互いに自分から角を交換すると1手損となるので、4四角が負担となるように駒を繰り出していくのも自然な指し方である。藤井王座は☗6六歩と角道を止めて角交換のさばきをも封じて、自由度の少ない4四角にさらに圧力をかけていく。
(中略)
ひねり出した☗2八角
伊藤叡王もここは勝負どころと見たか、49分の長考で単に☖2四歩と突いた。桂を取りにいく最強の受けである。
対して、藤井王座は☗2三歩☖同金を利かしてから、☗6四歩と取り込んで決戦にいく。相手の攻めを呼び込むが、☖5四銀に☗2八角と深く引いた手が、おそらくは藤井王座が☗6五歩の考慮の際に、ひねり出した勝負手であった。自分の飛車筋を遮るので浮かびにくい位置だが、後手からの攻めの当たりを避けることと、角にヒモが付いている利点がある。
(中略)
伊藤叡王としては、☗2八角に対してさらに返し技を出す必要があった。それができないと藤井王座は倒せない。局後のインタビューでも「☗2八角からの数手で急に差が開いてしまった」ことを反省点として挙げていた。
(第73期王座戦五番勝負 藤井聡太王座VS伊藤匠叡王 第4局「秘策☖4四角と勝負手☗2八角」記/金子タカシ)
『将棋世界2025年12月号』、絶賛発売中!!
ほかにも、 ・佐々木海法女流初段によるヒューリック杯第5期白玲戦七番勝負第4局「大逆転の息遣い」 ・将棋ドラマ「MISS KING/ミス・キング」出演の藤木直人さんと鈴木大介九段によるスペシャル対談 ・大注目の新四段、岩村凛太朗四段のインタビュー「人を喜ばせるのが使命」 といった記事もあり、指す将・観る将・それ以外の方にも楽しんでいただける一冊になっています!
『将棋世界2025年12月号』
発売日:2025年11月4日
特別定価:920円(本体836円+税)
発行:日本将棋連盟
Amazonの紹介ページはこちら


