八王子市、まちづくり八王子、そしてNTT東日本 東京西支店は、孤独・孤立対策を推進する官民共創の「居場所」を八王子市内に開設。そのプレオープンセレモニーを10月21日に開催した。
「地域の居場所」とは
八王子市は、2024年4月1日に施行された「孤独・孤立対策推進法」に基づき、第4期八王子市地域福祉計画で定める「孤独・孤立対策」を進めている。その中で2025年5月15日、まちづくり八王子およびNTT東日本 東京西支店と「八王子市孤独・孤立対策官民連携プラットフォームの設置及び共同運営に関する協定」を締結。官民“共創”により、新たな拠点となる「地域の居場所」づくりに取り組んでいる。
三者が連携して取り組む「孤独・孤立対策推進事業」の一環として「ことこプロジェクト」を展開。本プロジェクトは、「こ」と「こ」につながりを生み出す新たな「居場所」をつくるために、関係や仕組みをデザインするプロジェクトであり、「こ」には、個、孤、子、戸、事、言葉などの意味が込められている。
「地域の居場所」は、“誰でも立ち寄れる当事者支援の場”であり、今回プレオープンを迎えた新たな“居場所”は、JR八王子駅から徒歩8分という立地にある旧矢島染物店の建物を利用して「ことこプロジェクトベース」と称されている。ワークショップの展開やeスポーツイベントの開催などが行われる拠点として活用される予定で、本格オープンは本年度中の予定となっている。
プレオープンセレモニーには、八王子市 副市長の植原康浩氏、まちづくり八王子 代表取締役の鈴木一弘氏、NTT東日本 東京西支店長の伊藤弘造氏、八王子市社会福祉協議会 常務理事の音村昭人氏、そして「居場所」となる建物を提供した矢島国彦さんと栄子さんが出席した。
「この場所は、世代または立場を超えて、誰もが気軽に立ち寄れる場所、つながることができる場所として準備を進めてきた」と話す八王子市 副市長の植原康浩氏。ここまでたどり着けたのは、まちづくり八王子およびNTT東日本 東京西支店の熱意、そして柔軟な発想のおかげと、あらためて感謝の意を伝える。
そして、八王子市が“つながる”ということをキーワードに、誰もが安心して暮らせる地域づくりに努めていることについて言及し、「いろんな方がここに出入りして、少しでもほっとできる場所となる」ことに期待を寄せた。
NTT東日本は、通信サービスだけでなく、未来を支える子どもたちの教育環境の整備、自治体における業務環境の整備、災害における復旧対応など、「さまざまな地域の課題に対しての取り組みを行っている」というNTT東日本 東京西支店長の伊藤弘造氏。「孤独・孤立という新たな地域課題に対しても積極的に挑戦していきたい」との意気込みを述べ、特に同社が本プロジェクトにおいての展開を予定している2つの取り組みについて紹介する。
一つは、「eスポーツ」を通じての居場所づくり。若者向けと思われがちなeスポーツだが、高齢者も含めた幅広い世代を集めることによって、「地域コミュニティーの活性化」にチャレンジしていきたいと話す伊藤支店長。
二つ目として、八王子市内にキャンパスを構える中央大学との連携協定に基づき、ICTやデータを活用することによって、孤独・孤立に悩んでいる八王子市民、そして、将来的に悩む可能性のある八王子市民を早期に把握し、八王子市で展開されている行政サービスに繋げていく取り組みだ。「プロアクティブに孤独・孤立対策を支援できるようなスキームづくりにもチャンレンジしていきたい」と、プロジェクトに対する意欲を示した。
「今回の事業を通じて、人と人との心のつながりを持ち合わせながら、八王子市民の方々が安心して暮らしていただけるような環境づくりに少しでも近づけられるように、我々も勤めさせていただきたい」と締めくくった。
孤独・孤立について、「誰もが持っている要素であり、誰もが陥ってしまうものということがわかってきた」と話す、まちづくり八王子 代表取締役の鈴木一弘氏。世の中がどんどん変化していく中で、自分自身も少しずつ変化していく必要があるが、「それは非常に大変なことであり、そこにフィットできないような何らかのきっかけがあると、それを避けるように、自分だけの世界を作ってしまう」という自身の見解を明かし、「きっかけによっては、これは誰にでも訪れてしまう」と言葉を続ける。
今回の「居場所」について、立地や環境を絶賛しつつも、「孤独・孤立に陥っている人は、どんなに場所が良くても、自分からは出てきてくれない」と警鐘を鳴らし、そういった人を見つけて、誘い出す人が重要であるとの考えを明かす。一方で、居場所があるだけでは意味がなく、孤独・孤立に陥っている人が興味を持つ何か、たとえば音楽やゲームといった対象も重要であり、「この場所を、情報のハブとして、マッチングの拠点として、今後使っていくことができたら」との展望を明かした。
孤独・孤立対策で「居場所」を開設 - NTT東日本はeスポーツでアプローチ
「孤独・孤立を抱えている方にどうやってアプローチしていくかが大きな課題」と、今回のプロジェクト発足に至った課題感について話すのは、八王子市 福祉部 福祉政策課 課長の元木博氏。「社会としてどのように取り組んでいくかが根底にある課題」との見解を示す。
その中で、孤独・孤立対策を進めていく中で、拠点となる「居場所」づくりに至ったのは、三者の話し合いにおいて自然発生的に導き出されたひとつの解であるという。
「まず、閉じこもっている方に出てきていただく、そして情報を発信していく場所。さらに相談に乗る体制も必要。既存の窓口だけでは対応しきれない部分をカバーする意味でも、新しい拠点としての“居場所”を作ることになった」と振り返る。
今後は、三者の共創という観点から、「それぞれのアイデアや強みを活かしていきたい」という元木氏。「どこにいらっしゃるかという課題はもちろんですが、どういう状態になれば解決なのかという問題もある」と言及し、現状は手探り状態のところが多いが、NTT東日本のプロアクティブな姿勢、まちづくり八王子の幅広にまちづくり全体を見渡す視点を活かしながら、「さまざまなトライアルを重ねながら、ベストな方法を探っていきたい」との方針を示す。「八王子市としては、孤独・孤立に困っている方はもちろんですが、困る前にちゃんとつながることができる社会づくり、そして地域づくりをしていきたい」との展望を明かした。
地域活性化のひとつとしてeスポーツイベントを展開するNTT東日本 東京西支店 企画総務部 企画総務担当 担当課長の高澤氏は、八王子市による地域の人のつながりを作っていくといきたいという思いに対して、「これまで展開してきたeスポーツイベントのノウハウを活かすことで、若い方から高齢の方まで、幅広い年齢層の方々をつなげることができるのではないか」との考えから、今回のプロジェクトへの参画を決めたという。
“eスポーツ”をフックにしたまちづくりを目指す方向性が、八王子市が進める施策と合致。特に八王子市は、これまでeスポーツに関するイベントを行っていなかっただけに、新たな展開への期待も高まったという。
すでに、NTT東日本では、今回のプロジェクトの中で、連携協定を結ぶ中央大学の学生たちも運営に参加したeスポーツイベントを開催しているが、「若い人はもちろんですが、高齢の方も、たとえば太鼓を使ったリズムゲームなど、簡単なゲームから楽しんでいただくことで、世代を超えて、様々な方が交わる場所、人と人が繋がる場所が作れる」と大きな期待を寄せる。
さらに、NTT東日本ではICTやデータ分析などを駆使して、孤独・孤立化しそうな人を予測するという試みも実施する。
「これはチャレンジな部分も大きいのですが、孤独孤立に悩んでいる方、将来悩む可能性がある市民のデータを早期に把握し迅速に行政サービスにつなげていければ将来的に孤立するリスクを軽減できるのではないか」との考えを示し、「こうしたリスクの高い方々に対して、八王子市における体制作りを支援していきたい」との展望を明かした。
「ことこプロジェクト」は、八王子市、まちづくり八王子、そしてNTT東日本 東京西支店の三者が協定パートナーとなっているが、Alchemic Designsの三井直義氏は、プロジェクトメンバーとして名を連ね、本プロジェクトのプロジェクトデザインを担当している。
八王子市から今回の事業の進め方などの相談を受けたのが、本プロジェクトに関わる最初のきっかけと振り返る三井氏。担当者と意見交換を進める中で、「リアルな場を作るのであれば、単純に公募などではなく、協定をしっかりと結んで契約関係の中で事業を進めたほうが、ちゃんと芯の通ったものができるのではないか」と提言。そういった経緯から、まちづくり八王子からの依頼を受け、プロジェクト全体のデザインを手掛けることになったという。
今回プレオープンとなった居場所については、作っただけでなく、今後どのように活かしていくかが課題。「この場所がうまくいけば、さらに増やしていくことも考えられると思いますが、基本的には同時並行的に展開するつもりはなく、まずはワークショップやイベントを開いていきながら、この場所がどのように使っていけるかを考えていきたい」との考えを明かした。
これまでまちづくりに携わってきた経験から、「孤独・孤立を減らすということは、まちにとってもすごく良い影響がある」という三井氏。実際のところ、現代の社会では、誰もが何かしらの孤独・孤立を抱えているとの思いから、“つながり”の重要性を語った。







