東京都は10月15日、都営大江戸線の光が丘駅から大泉学園町方面の延伸に関して、現在の検討状況を明らかにした。大江戸線の延伸については、2023年度に副知事をトップとするプロジェクトチームが立ち上げられ、検討が進められている。課題解決の検討を重ねた結果、費用便益比は「1」を超えており、事業性は高まっている。延伸先の地元である練馬区も、鉄道空白地帯の解消を期待し、延伸を前提としたまちづくり案が検討されている。
都営大江戸線は新宿区の都庁前駅を起点に、文京区、台東区、墨田区、江東区、中央区、港区、新宿区、渋谷区を通る環状線を形成して都庁前駅に戻り、さらに中野区など経由して、練馬区の光が丘駅に至る。運行形態としては「6」のような字を描いている。建設費を削減するため、トンネル径の小さい小型車両を前提として建設され、鉄輪式リニアモーター車両を採用した。1991(平成3)年に光が丘駅から練馬駅まで先行開業した後、新宿駅、国立競技場駅と徐々に延伸し、2000(平成12)年に全線開業して現在の姿となった。
全区間が地下トンネルで、光が丘駅から線路を延ばし、高松車庫への連絡線を設けている。これは練馬区の鉄道空白地帯に延伸する可能性を考慮したからだった。大江戸線着工後の1988(昭和63)年、練馬区で「大江戸線延伸促進期成同盟会」が結成され、国や都に向けた要請活動、区民に向けた啓発活動を実施してきた。1997(平成9)年には、東京都清瀬市と埼玉県新座市・所沢市が主体となって「都市高速鉄道12号線延伸促進協議会」が設立された。
長年の要望が実り、2000(平成12)年の運輸政策審議会答申第18号に「光が丘~大泉学園町」が盛り込まれた。2006(平成18)年に都市計画道路補助230号線の事業が土支田まで認可されると、答申18号を踏まえ、地下鉄を通す前提の設計となった。都営大江戸線の光が丘駅付近は東京都道443号線の一部として整備されている。光が丘駅から西方面は東京都の都市計画道路補助第230号線の直下を想定し、道路整備が先行することとなった。
2016(平成28)年、交通政策審議会答申第198号で「光が丘~大泉学園町~東所沢」がリストアップされた。「導入空間となりうる道路整備が進んでおり、事業化に向けて関係地方公共団体・鉄道事業者において、費用負担のあり方等について合意形成を進めるべき」と提言されている。今年3月に策定された「2050年東京戦略」でも、「関係者と事業化について協議・調整を進める路線」として掲げられた。
西武池袋線の駅から約520m、大泉学園町の中心に駅ができる
東京都の計画によると、延伸区間に3つの駅を設置するという。光が丘駅から約1.5kmの地点に「土支田駅(仮称)」を置く。土支田通りと笹目通りの間で、やや土支田通り寄りにあり、練馬区立土支田なごみ公園付近と思われる。この付近は補助230号線の整備が完成している。「土支田駅(仮称)」からほぼ直進し、約1.4kmの地点に「大泉町駅(仮称)」を置く。外環道の交差部で、付近に練馬区立もみじやま公園がある。補助230号線の直下を進むことになるが、この区間は整備中。Googleマップの航空写真を見ると、用地の確保が進んでいる様子だった。
「大泉町駅(仮称)」から直進し、大泉学園町8丁目に入って西へ曲がり、大泉学園郵便局交差点付近に「大泉学園町駅(仮称)」を置く。ここが東京都による検討期間の終点となる。
大泉学園駅は西武池袋線にもあるが、この駅の所在地は練馬区東大泉。開業時の駅名も「東大泉」だった。大泉学園町は、大泉学園駅から約520mも離れた場所にある。西武グループが学園都市として開発した地域が大泉学園町で、その最寄り駅が大泉学園駅だったが、残念ながら大学など教育施設の誘致は失敗。町名のみ「学園」が残った。大江戸線を延伸した「大泉学園町駅(仮称)」は、大泉学園町の中心に設置する計画となっている。
「大泉学園町駅(仮称)」からさらに先へ線路を延ばし、引上げ線も設置する。これにより、運行間隔を短縮できる効果がある。駅で折り返すと、発車する列車と到着する列車の進路が交差するため、分岐器の手前で待たされる場合がある。これに対し、駅の奥側に引上げ線を設置して折り返すと、進路が交差しない。乗降時間が時間調整の役目を引き受けることにもなる。この引上げ線部分は将来的な東所沢方面への延伸も考慮したと考えられる。
延伸する地域は、北に東武東上線、南に西武池袋線、西にJR武蔵野線があるものの、最寄り駅まで徒歩30~40分を要する。宅地化が進んでいるが駅まで遠い鉄道空白地帯にある。
この地域は西武バスによる路線網が充実しており、東武東上線または西武池袋線の各駅を結ぶバス路線が設定されている。大泉学園町の西側、新座栄停留所付近のバス折返し所を使った路線をはじめ、循環バス路線もあって西武池袋線にアクセスしやすい。西武池袋線を越えて吉祥寺方面、阿佐ケ谷方面を結ぶ路線もある。
大泉学園通りは渋滞を心配するほどにバスの運行頻度が高い。その反面、都心へ向かう場合はいったんバスに乗らなければならない。この地域からバスで駅に向かうと、所要時間が20分前後かかる。大江戸線が延伸すれば、新宿など都心方面へ直行できることに加え、バスで西武池袋線または東武東上線の駅に向かうという流れも落ち着くため、バスの運行頻度が下がり、CO2削減にも貢献する。バスの運転手不足を解決することにもつながるかもしれない。
延伸予定地でまちづくり計画が進んでいる
東京都の目的は事業採算性よりも、鉄道空白地帯の解消にあると思われる。しかし、赤字になった場合は都民の血税から補填する必要があるため、収支採算性は無視できない。東京都は「旅客需要の創出」「コストの低減」「財源の確保・活用」という3つの観点から、事業性について検証を行ってきたとのこと。事業費は将来の混雑も加味した検討が必要で、物価上昇率も考慮すると、削減には限界がある。
そこで、伸び代のある「旅客需要の創出」が重要になってくる。費用便益比の便益は現状において、大江戸線を延伸した際の利益を算出している。地域の人々が「バスと鉄道の乗り換え」から「大江戸線を選んだ」場合において、経済的な利益と、移動時間短縮による利益等を指標とする。ここに、大江戸線延伸に伴う新たな乗客の獲得を加味したい。これが「旅客需要の創出」である。長期的には沿線人口を増やす方策が必要だが、短期的には地域外から沿線を訪れる人、つまり「関係人口」を増やすため、魅力ある沿線にする必要がある。
練馬区は大江戸線延伸に先立ち、導入空間地上部の都市計画道路補助230号線について、事業認可と連動した区画整理事業に着手してきた。2010(平成22)年までに笹目通り交差点から大泉学園通りへの事業が認可され、2016(平成28)年までに沿道の地区計画が決定した。現在は新駅予定地に新たな生活拠点の設置や基盤整備など計画しているとのことで、延伸を見据えたまちづくりがすでに始まっている。
練馬区の資料によると、延伸区間を5ブロック6地域に分けた上で、まちづくりを計画しているとのこと。西側から大泉学園町地区、大泉町三丁目地区、大泉町二丁目地区、土支田・高松地区(西側)、土支田中央地区、土支田・高松地区(東側)となっている。土支田・高松地区が土支田中央地区の両側に分かれているため、5ブロック6地域とされる。これに大泉学園町駅予定地域周辺地区、大泉町駅予定地周辺地区も内包されている。
各地域の共通点として、補助230号線沿道地区は中低層の住宅と生活の利便性を高める施設・店舗等を誘致し、あわせて延焼遮断を兼ねたみどり豊かな街並みとする。補助230号線と交わる生活安全道路周辺は小規模小売店舗を誘導しつつ、中低層の住宅と調和するみどり豊かな市街地の形成を図る。他地域は低層住宅地区とし、戸建て住宅を主体としたみどり豊かな住宅市街地とする。ここでのキーワードは「みどり豊か」と「低層住宅」だろう。これはこの地域がもともと戸建て住宅の多い地域であったことに由来しており、道路や地下鉄が通っても住宅地の景観を維持したいとの考えが表れている。
一方で、駅周辺については大きく変わる。「大泉学園町駅(仮称)」は利便性の高い駅前広場を設置し、店舗やサービス施設など立地するにぎわいのある新たな拠点とする。閑静な住宅街に忽然と商業エリアが現れることになる。「大泉町駅(仮称)」は東京外環自動車道と交わる地点にあり、駅の北側は練馬区立もみじやま公園。駅の南側に駅前広場が設けられる。それ以外は低層住宅エリアに。東側の土支田通りは商店街になっている。「土支田駅(仮称)」は補助230号線の直下にあるが、いまのところ駅前広場は計画されていない。
現時点で大規模なショッピングモールを建設する計画もなく、高層建物の建設は制限されている。そのため、関係人口獲得の即効薬はなさそうに見える。「大泉町駅(仮称)」北側の練馬区立もみじやま公園はイベントを開催できそうに思えるが、まちづくり協議会によると、この公園は禁止事項が多く、こどもたちが集まりにくいと住民に指摘されているという。むしろ光が丘公園のほうが広いから、延伸区間の人々をこちらに誘ったほうがいいかもしれない。
東京都の現時点の試算によると、大江戸線延伸の概算事業費は約1,600億円だという。大江戸線の旅客需要は1日あたり6万人の増加を見込む。事業の枠組みとして、国の地下高速鉄道整備事業費補助を想定しており、費用便益比は「1.0」以上。開業から40年で黒字転換するとしている。ただし、開業時期は示されていない。導入空間となる補助230号線が完成しないことには、大江戸線延伸区間の建設が難しいからだろう。
それでも練馬区は先行してまちづくり計画を始めている。その結果、延伸に関する費用便益比はもっと良くなるかもしれない。地元の期待は非常に大きい。


