
「BOPは素晴らしい。それが言えるすべてだ」とWEC富士6時間の前に、プジョー・スポールの#93号車のドライバーの1人、ポール・ディ・レスタは述べた。BOPについてコメントすることは、主催者もしくはレギュレーシン批判に繋がりかねないため、実質的にノーコメントだが、答え方は人それぞれであるところが面白い。プジョー#93はハイパーポールに進出してスタートグリッド4位に躍進し、決勝ではもう少しで優勝という速さと強いペースを見せた。
【画像】各チームがしのぎを削った2025年のWEC富士6時間(写真6点)
ところで今回の富士でクオリファイ3位グリッドに進出するなど、大きく躍進を見せたのはアストンマーティンのヴァルキリー#009だった。今年のル・マン24時間でも速さを見せ、7月のブラジル戦で勝利したキャデラックVシリーズ.Rは、もはやダークホース的存在を脱したといえるが、中盤以降のペースに課題を残す。とはいえ富士でも予選1-2を占め、フェラーリやポルシェそしてトヨタGRが苦闘する中で、サマーブレイク前と変わらぬ速さを見せたのだ。
確かに決勝前は、アルピーヌやBMWといった欧州の名門老舗がBoP調整でプラス最高出力を得たとあって、WEC創設から100戦目の記念大会にあらまほしき勝者を選んでいるなどと勘ぐる向きもあった。だが出力のみならずスティントごとの最大エネルギー量などBoPは細かな調整があり、ここ富士での調整はフェアに機能しているという声の方が圧倒的に多かった。
「BoPについては言わないけど、予選上位10台のラップが1秒かそこらの内に収まるぐらいの接戦だから、スコアや何かひとつが良くて前に出られるような競争じゃないんだ。つねにあらゆる要素を最適に近づけて進歩し続けないと、ライバルに遅れをとるからね」と、アルピーヌ・エンデュランスのディレクター、フィリップ・シノーは説く。
予選ではアグレッシブなセッティングにするものの、基本的にはバランスの良かった際のパッケージングから始めていくのが常道。各FPでイエローも度々出る中で、2台6名のドライバーが均等に乗れるよう配慮しながら、可能な限り決勝で各セクターを安定してポリバレントに走れるよう、レースペースの速さを作っていくという。かくしてアルピーヌは#35がハイパーポールも進出したものの、9番手グリッドに終わった。しかしすぐ前をいくトヨタ、ポルシェとの差はコンマ05秒、つまり5/100秒差もない。それでも決勝ではA424で初となる優勝を飾った。一発の速さもともかく、安定して速いレースペースを刻める安定感、強さを徐々に作り上げていたのだ。加えて最後のピットイン作業で左の前後輪のみ、つまり2輪だけ交換して、暫定トップだったプジョー#93号車にアンダーカットを仕掛けるという戦略も報われた。
今回の富士でセッティングを煮詰めていく作業は、金曜のFP2と土曜のFP3間で路面温度が20℃前後も違っていたから、難しい面があったと、プジョー#93のジャン=エリック・ヴェルニュは証言する。
「温度の低かった土曜の朝一番は、(前日と比べ)けっこう違っていて難しかったよ。でも車のパフォーマンスはあるから、予選を通じてセットアップをまとめ上げていくよ」
ポディウムに近い4番手グリッド、そしてコーナー立ち上がりからの中間加速が速いという特徴を活かしながら、決勝でプジョーは中盤から首位に立ち、後半のほとんどでレースをリードした。最終コーナーの加速に優れるもののトップスピードでポルシェ963やトヨタGR0101ハイブリッドに詰め寄られるという展開で、ミディアムタイヤのグリップが落ちてくるにつれて最後の30分間ぐらいは、周回遅れをかわすにもインから仕掛けづらそうで、背後のポルシェ#5号車を慎重に対処せざるを得ず、約10秒先を行くアルピーヌ追撃は叶わなかった。
一方で、予選を#8が8番手、#7が14番手と、ホーム開催ながらパーティに乗り遅れた感のあるトヨタGRは、決勝の朝にマネジメントメンバーによる記者会見を開いた。チームディレクターの中嶋一貴が厳しいシーズンふり返りながら、ル・マン24時間には万全の準備をしたが十分ではなかったことを認めた。
「(BOP調整等による)条件はアンフェアではない。我々の大きな課題は空力性能、最高速度で遅れをとったこと。どんな条件下でも空力が発揮されるようにすることが課題で、今のWECではエネルギーを燃焼してタイヤ入力として伝えていくまで、どう効率よく使うかが重要なファクター。だから10月上旬に新しい空力パッケージを導入して、エボ・ジョーカーを切る」
WECでは全チームが同じ風洞で空力を測定するのだが、この風洞が来年にアップデートされるため空力パッケージ変更も合わせて行う予定だった。この判断が裏目に出た格好だが、来年のマシンの空力パッケージに転じていち早く着手することで、再び勝てる車とチーム体制を作り上げるという。TGR欧州会長の中嶋裕樹は、「ライバルが次々とアップデートしているのに、我々は遅かった。数やお金の問題ではなく、知恵の出し方が大事」と強調する。
車両開発での圧倒的アドバンテージが築きにくい分、一定のパッケージから性能を引き出すことが今のWECの特徴であり、競技のスポーツ性を保ちつつ、各チームに予算のキャップ&シール管理をしやすくしている。FIAならびにACOのレースコントロール側は、各車に装着されたセンサーを通じてリアルタイムで走行データを手にしているが、観客の側には見えづらい仕組みであること、そこがBoPが批判の的になりやすい理由でもある。
最後に、前戦オースティンからの余勢を駆り、キャデラックの#38号車を駆ったジェンソン・バトンは、日本でおそらく最後レースに臨む万感の想いを語りつつも、次のように語っていた。
「WECレースの舞台裏が、どれだけ大変で、どれだけ時間や労力が払われて成り立っているか、大部分の人が分かっているとは思っていないよ」
それでも関係者の誰もが、マクラーレンやジェネシス、フォードなど、トップカテゴリーへのさらなるワークス参戦を控え、WECは黄金期にあると、異口同音に述べる。コストを抑えて競争を保つには、公正なレギュレーションが要るだけでなく、その弾力的な運用が欠かせないのだ。
文:南陽一浩
Words: Kazuhiro NANYO