日本人の3人に1人が該当する高血圧。その予防や治療のための指針である、日本高血圧学会によるガイドラインが6年ぶりに改訂され、8月29日に発行される。それに合わせて、CureApp(キュア・アップ)によるメディアセミナーが都内で25日に開催され、同学会理事長の苅尾七臣氏、ガイドライン作成委員長の大屋祐輔氏などにより、改訂のポイントが概説された。

従来は年齢などによって分けられていた降圧目標は、「診察室血圧で130/80mmHg未満、家庭血圧では125/75mmHg未満」に統一され、また、治療方法の一つとしてスマホアプリに関する推奨事項も加えられた。

■日本高血圧学会の取り組み

  • 日本高血圧学会理事長 苅尾 七臣氏

    日本高血圧学会理事長 苅尾 七臣氏

セミナーではまず、日本高血圧学会理事長の苅尾七臣氏が、高血圧という病気の実態と同学会の取り組みを紹介した。

苅尾氏によると、高血圧は国内の患者数が4,300万人にも上る国民病であり、その患者数の多さもさることながら、脳卒中や心臓病の危険因子として突出した強い影響力があるとのこと。それにもかかわらず、高血圧患者の中で治療を受けている人は約2人に1人であり、さらに、治療を受けている人の中で「適切な血圧コントロール」を達成しているのは約2人に1人にすぎないという。

・降圧目標は、年齢や病気の有無にかかわりなく「130/80mmHg未満」

では、その「適切なコントロール」が達成されているか否かは、どのように判断するのだろうか? 言い換えると、高血圧患者は「血圧をどこまで下げればいいのか?」ということだ。

この点に関して改訂された『高血圧管理・治療ガイドライン2025』では、「診察室で測定した場合は収縮期血圧130mmHg/拡張期血圧80mmHg未満、家庭で測定した場合は同順に125mmHg/75mmHg未満」としている。従来のガイドラインでは、年齢、心臓病や腎臓病などの有無などで異なる降圧目標を掲げていたが、これが一本化された点は、今回の改訂の大きなポイントの一つだ。

・朝の血圧130未満達成が大切~"血圧朝活"キャンペーン~

続いて苅尾氏は、とくに朝の収縮期血圧を130mmHg未満に維持することの重要性を強調。その理由として、2万人以上を2年間追跡した研究から、朝の収縮期血圧が130mmHgを超えていると、脳卒中や冠動脈疾患(心臓の血管の病気)が指数関数的に増えるというデータを紹介。日本高血圧学会としても、“血圧朝活"キャンペーンを展開して、高血圧患者がより良好な血圧コントロールが達成される環境整備に力を入れているという。

なお、朝の血圧は、起きてから1時間以内で排尿後、朝食前、薬を飲む前に、椅子に座って1~2分安静にした後に測るというのが、正しい測り方だ。

・「キオスク血圧」を活用し、生活の"習慣"と"環境"の見直しを

しかし、苅尾氏が冒頭で語ったように、高血圧患者の半数は治療を受けていない。そして、その人たちの多くが、自分が高血圧だと気づいていない。その一方で、自治体の公共施設や薬局、スポーツジム、あるいは職場など、さまざまな場所に血圧計が設置されていて、血圧を測定できる機会は少なくない。そういった街中の血圧計を用いて、医療従事者の手を借りずに測定した血圧は、近年「キオスク血圧」と呼ばれている。

もし、キオスク血圧が130mmHg以上であれば、減塩や身体活動などの生活習慣を見直したり、室温などの生活環境をチェックしたりすることが勧められる。苅尾氏によると、高血圧は、生活習慣病であり、かつ、生活環境病だという。例えば、冬場の寒さが血圧を上げることはよく知られているが、夏場の暑さも、とくに夜間の血圧を上げるように働くそうだ。同氏は、生活習慣や生活環境を改善してもキオスク血圧が130mmHg未満にならない場合は、医療機関を受診することを勧めている。

・デジタルハイパーテンションの潮流

苅尾氏は最後に、最近の高血圧治療の大きな流れである「デジタルハイパーテンション」に言及。デジタルハイパーテンションとは、デジタル技術を活用した高血圧(ハイパーテンション)の予防・診断・治療のことだ。今回のガイドライン改訂で盛り込まれた、高血圧治療アプリの推奨(詳しくは後述)も、このデジタルハイパーテンションの一例として挙げられる。

■高血圧管理・治療ガイドライン2025

  • ガイドライン作成委員長/一般財団法人沖縄県北部医療財団理事長 大屋祐輔氏

    ガイドライン作成委員長/一般財団法人沖縄県北部医療財団理事長 大屋祐輔氏

セミナーの2題目は、今回の『高血圧管理・治療ガイドライン2025』の作成委員長である大屋祐輔氏が、ガイドライン改訂のポイントを中心に解説した。

・読者層に合わせた3部構成に

大屋氏は冒頭で、世界各地で行われた123件、合計参加者数60万人以上の臨床試験の結果を統合した解析結果を紹介。その解析によって、収縮期血圧を10mmHg下げると、脳卒中や心臓発作のリスクが20%低下することが明らかにされているとのことだ。しかし日本の高血圧患者の血圧コントロール状況は十分でなく、コントロールされている患者の割合は、高所得国12カ国中、下から2番目だという。

今回のガイドライン改訂では、この現状をどう改善するかが基本方針とされ、「理論ではなく行動のためのガイドライン」、「シンプルでわかりやすいもの」を目指したとのことだ。その一環として、ガイドライン全体を3部に分けて構成し、第1部は公衆衛生対策として国民全体への働きかけとなるような内容、第2部は多くの高血圧の診療にあたる実地医家向けの内容、そして第3部は専門医向けの内容とされている。

・診断基準と治療目標

高血圧の診断基準は従来から変更されていない。ただし大屋氏は、高血圧とは診断されないものの正常血圧(診察室血圧で120/80mmHg未満、家庭血圧では115/75mmHg未満)ではない場合、脳卒中や心臓発作のリスクが約2倍に上るというデータを紹介。具体的には診察室血圧で120~139/80~89mmHg(家庭血圧の場合はそれぞれ5mmHg低い値が上限)の人がこれに該当する。そして、この範囲に該当する人数が極めて膨大であり、この人たちの血圧コントロールが重要だと指摘した。

治療目標に関しては苅尾氏が述べたように、年齢や病気の有無にかかわらず診察室血圧では「130/80mmHg未満」と変更された。これは米国や欧州のガイドラインの推奨と同じ値とのこと。なお、めまいや倦怠感などの低血圧症状、または急性腎障害などの副作用に注意して治療することが欠かせないと、同氏は注意を喚起している。

・血圧コントロールのための10のファクト

高血圧の薬物治療については大きな変更はないが、エビデンスがあるにもかかわらず、海外に比べて国内では処方頻度が低い、利尿薬やβ遮断薬という薬について、使用をあまり躊躇すべきでないといった医師向けの推奨が加えられた。一方、患者・一般向けの情報として、血圧を適切に保つための10のヒントというリストが掲載された。そのリストには、ナトリウム摂取を減らすとともにカリウムを積極的に摂取すること、便秘を改善することなどが含まれている。

このほかに今回の改訂では、高血圧治療に際して、患者と医療者の共同で意思決定を進めていくことの重要性が強調されたことも特徴だという。

■高血圧治療に選択肢を~治療アプリが推奨される治療のひとつとしてガイドラインに初掲載~

  • CureApp代表取締役社長/医師 佐竹晃太氏

    CureApp代表取締役社長/医師 佐竹晃太氏

今回のガイドライン改訂のもう一つの目玉は、薬剤による治療の推奨と並んで、スマホアプリによる治療の推奨が加えられたことだ。そのアプリの開発企業であるCureAppの代表取締役社長で医師の佐竹晃太氏は、アプリの特徴や有用性について解説した。

このアプリは、他の一般的なヘルスケアのためのアプリとは異なり、臨床試験により有効性と安全性が検証され、薬事承認を受けた治療アプリ。薬剤と同じように医師から処方されて使うもので、使用には医療保険が適用(6カ月間)される。患者は日々の生活での血圧管理の取り組みなどを記録していき、その情報はクラウド上で医療機関と共有される。その情報はAIによって要約され、通院時には医師からそれらのデータに基づいたアドバイスを受けることができるようになる。

佐竹氏によると、従来の1回5分ほどの外来診療の中では、患者が相談したいことを医師に伝えることは困難であり、医師もそれぞれの患者に適したアドバイスをすることが難しかったという。この治療アプリを用いることにより、そのような課題の解決に近づき、これは、今回のガイドライン改訂で強調された「生活習慣の改善」や「共同意思決定の推進」にもつながる可能性があるとのことだ。

なお、アプリの推奨を盛り込んだ高血圧ガイドラインは、今回の日本高血圧学会のガイドラインが世界で初めて。推奨の記載は、「血圧管理を目的としたスマートフォンアプリによる介入を提案する。ただし、長期間(6カ月以降)の効果に関するエビデンスは不十分」という内容で、推奨の強さは2、エビデンスの強さはA、合意率100%となっている。

日本高血圧学会のガイドラインは2000年版が初版で、今回で第6版となる。読者層に配慮した構成になり、患者・一般対象の情報も盛り込まれた。ガイドラインに記載されている最新の知見や医療テクノロジーの進歩の恩恵を受けるため、「朝の血圧130未満、キオスク血圧130未満」を頭の片隅に生活の"習慣"と"環境"を見直して、それでも130以上が続くなら問題を先延ばしせず、医師に相談すると良いかもしれない。