将来に備えるために「資産運用を始めたい」と思っても、家族構成やライフステージによって、適した方法は大きく異なります。独身の方と、共働き夫婦、子育て世帯では、資金の使い道も優先順位も変わってくるからです。

とはいえ、何から始めればいいのか分からず、一歩を踏み出せないという方も多いのではないでしょうか。そこでこの記事では、ファイナンシャルプランナーの視点から、「資産運用の初心者が、家族構成に合った形で無理なくスタートできる方法」をわかりやすく解説します。

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■資産運用は「目的」と「期間」がカギ

資産運用を始めるうえで大切なのは、「何のために、いつ使うお金なのか」を明確にすること。目的と期間によって、選ぶべき商品やリスクの取り方は大きく変わるからです。

たとえば、結婚資金など数年以内に使う予定のお金はリスクを避けて、預貯金など元本保証商品へ。反対に、老後資金など10年以上先に使うお金は株式など成長性の高い資産も取り入れながらじっくり運用するのが基本です。

また、資産運用を継続するには「仕組み化」と「自動化」がポイントです。後述する「NISA(少額投資非課税制度)」や「iDeCo(個人型確定拠出年金)」などを活用して毎月決まった額を先取りで積み立てるようにすれば、気づいた時には、着実に資産が育っています。

そしてもう一つ知っておきたいのは、「投資=すぐに儲かるもの」ではないということ。資産運用は時間を味方につけて、じっくり育てていくものです。日々の値動きに一喜一憂せず、コツコツと続けていくことが、将来の安心につながります。

こうした基本を押さえたうえで、ここからは「家族構成別」の運用ポイントを見ていきましょう。

■独身の人は万が一にしっかり備えつつ、少額から積立をスタート

まずは独身の方に向けて、無理なく始められる資産形成のステップをご紹介します。

1.6ヶ月分の生活防衛資金を準備する

独身の方は、自由に使えるお金や時間がある一方で、万が一のときに頼れるパートナーや家族がいないケースもあるため、「自分の生活を守る力」をしっかり身につけておくことが大切です。

そこでまず取り組みたいのが、「生活防衛資金」の確保です。これは、病気や失業など予期せぬトラブルに備えて、当面の生活を維持するための現金のこと。目安としては、毎月の生活費の6ヶ月分です。たとえば月15万円の生活費がかかっているなら、最低でも90万円程度は、すぐに引き出せる普通預金などで確保しておきます。

生活防衛資金はどのような家族構成でも必要ですが、特に独身の人は、「生活を守るお金を持つこと」を強く意識しましょう。

2.余裕資金を使い少額で積み立てる

生活防衛資金を確保したら、次は余裕資金を使って少額の積立を始めてみましょう。特に注目していただきたいのが、2024年から始まった「新しいNISA制度(新NISA)」です。新NISAは、これまでの「つみたてNISA」と「一般NISA」が1つに統合したもので、「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の2つの投資枠が設定されています。

非課税で投資できる金額の上限も大きく引き上げられ、より多くの資産を効率よく運用できるようになりました。年間投資枠は360万円(つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円)まで、生涯の投資枠も1,800万円に増えています。

特に、長期投資に向いている投資信託を選び、つみたて投資枠で毎月自動的に積み立てていけば、投資初心者の方でも相場に一喜一憂せずに続けやすいでしょう。多くの金融機関では月100円という少額から積み立てられますので、まずは少額から始め、慣れてきたら徐々に投資額を増やすこともポイントです。

どれを選べばいいか迷ったら、低コストで分散投資できる「インデックスファンド」や1本で世界中の株式に広く投資できる「全世界株式ファンド」などから始めると安心です。

また、AIが年齢や資産状況、その時々のリスクに応じて投資先や金融商品を選んでくれる「ロボアドバイザー(ロボアド)」の活用もおすすめ。人を挟まないことで費用が抑えられ、低コストで利用できるため十分な資金のない投資初心者でも始めやすいのがメリットです。

3.iDeCoで老後資金の準備も始めてみる

さらに、iDeCoの活用も検討したいところです。掛金が全額所得控除になるなど節税効果も高いですし、老後の資産形成にぴったりの制度です。若い世代の方は「今から老後資金の準備なんて……」と感じるかもしれませんが、多くの人にとって、自分で用意すべき老後資金は小さな金額ではありません。

iDeCoの掛金額は月5,000円から、1,000円単位で設定可能です。自由に使えるお金がある独身だからこそ、無理のない範囲で積立を始めておきましょう。

注意したいのは、原則60歳まで資金を引き出せないため、「老後のためのお金」と割り切って利用すべきという点です。また、国民年金の加入区分によって掛金の上限が異なるので、確認のうえで始めましょう。

■比較的リスクの取りやすいDINKSは積極的な運用を

子どものいない共働き夫婦(DINKS)は、可処分所得にゆとりがあり、資産形成において非常に有利な立場にあります。将来のマイホーム購入、セミリタイア、老後の備えなど、多様な目的に向けて戦略的にお金を育てていきましょう。

1.資産運用ルールや将来のライフプランをすり合わせておく

DINKSは経済的に余裕のある世帯も多いですが、夫婦でお金の管理が別々になりがちな点には注意が必要です。家計や資産運用のルールを話し合い、価値観をすり合わせておくことで、長期的な資産形成の土台が安定します。

また、DINKSは子どもを持たない選択をしているからこそ、将来のライフプランに自由度があります。そのため、老後資金の準備はもちろん、趣味や旅行、セカンドライフの充実といった“自分たちらしい暮らし”に向けた柔軟な運用設計が大切です。

ただし、自由度が高いからこそ、夫婦でお金の価値観や優先順位をしっかり話し合い、方向性を話し合っておくことも欠かせません。

2.DINKSの強みを生かしNISAとiDeCoを活用

独身の方と同じく、DINKS世帯もぜひ活用したいのが「NISA」や「iDeCo」といった税制優遇制度です。たとえば、新NISAは年間最大360万円まで非課税で投資できますから、夫婦で利用すれば720万円まで投資が可能です。

もちろん、投資は余裕資金で行うのが鉄則ですが、家計にゆとりのあるDINKSならではの強みを生かし、積極的に活用したいところです。

また、iDeCoも夫婦で利用すれば節税効果が倍増します。将来の自由なライフスタイルに向けて、NISAとiDeCoを賢く活用することがDINKSならではの戦略です。

3.口座の使い分けで資金を管理

お互いに収入のあるDINKSは、家族としての資金管理が疎かになりがちです。そこで、お金を貯める目的を話し合い、口座の使い分けで資金をしっかり管理しましょう。

数年以内に使う予定がある資金(旅行資金、住宅購入の頭金など)は、元本保証のある定期預金や個人向け国債などで保管する。一方で、10年以上先に使うお金は、株式や投資信託などのリスク資産で中長期的に増やすことを目指しましょう。

共働きで収入源が2つあるDINKSは、急な出費にも対応しやすく、子育てや教育にかかる費用もないため、比較的リスクを取りやすいのが特徴です。成長性を重視し、株式比率を高めに設定したポートフォリオ(保有する資産の構成内容)で資産を育てていくのも効果的です。

■子育て世帯は三大支出への備えがテーマ

子育て世帯にとって、資産運用は「教育資金・住宅資金・老後資金」という三大支出への備えが大きなテーマになります。これらは「使う時期が異なるお金」であるため、それぞれに合った管理と運用方法が必要です。

1.子育て世帯にはまず「ライフプラン表」が欠かせない

どの世帯にも言えることですが、ライフイベントの多い子育て世帯にとって、「ライフプラン表」の作成は特に重要です。子どもの進学、マイホーム購入、夫婦の定年など、ライフイベントを書き出すことで、「いつ、いくら必要か」が明確になります。

これにより、運用の優先順位も見えてきますので、ぜひ一度作成してみましょう。

2.将来の教育資金は早めに積立をスタート

子どもの教育費は、時期に応じた準備が大切です。高校生までの費用は毎月の収入から計画的に捻出し、大学進学にかかる大きな支出には、子どもが小さいうちからの積立が有効です。

定期預金やNISA、個人向け国債、学資保険などを活用し、児童手当も無駄なく組み込むことで、無理のない資金準備が可能になります。

3.夫婦の老後資金はiDeCoを活用

老後資金はやはり、「自分年金」が作れるiDeCoの活用がおすすめです。掛金は全額所得控除の対象となるため、共働きなら節税効果も2人分になります。運用益も非課税となり、長期的に積み立てることで効率よく老後資金を形成できます。

4.住宅ローンの返済は他の支出や運用とバランスをとる

住宅ローンの返済については、「とにかく早く返す」ことが正解とは限りません。特に固定金利で返済額が一定であれば、繰り上げ返済よりも、手元資金を老後資金や資産運用に回すほうがトータルで有利になるケースもあります。

最後に、子どもの教育費がかさみ支出の多い時期は、バランス型ファンドの活用も検討しましょう。株式だけでなく債券やREIT(不動産投資信託)などを含む分散投資型の商品を取り入れることで、リスクを抑えながら安定的な資産形成を目指せます。

■自分たちに適した無理のない資産運用プランを

家族構成によって、資産運用の目的や優先順位は異なります。大切なのは、自分たちの将来像に合わせたプランを立て、無理なく継続できる方法を選ぶこと。それぞれの強みを生かしながら、早めの準備で安心の未来を築きましょう。