現在放送中の大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』で、渡辺謙扮する父・田沼意次と共に幕政改革に挑んだ田沼意知を演じた宮沢氷魚。志半ばで非業の死を遂げるという衝撃的な展開は、多くの視聴者の胸を打った。約1年にわたる収録を終えた宮沢が「芸能界の父」と慕う渡辺との絆や、意知として生きた日々、大河ドラマ出演から得た揺るぎない思いについて語った。

  • 大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』田沼意知役の宮沢氷魚

    大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』田沼意知役の宮沢氷魚

第28回「佐野世直大明神」で、若年寄として辣腕を振るい始めた矢先、矢本悠馬演じる佐野政言の凶刃に倒れた田沼意知。あまりにも突然な退場は、視聴者に非常に大きな衝撃を与えた。

「佐野に斬られて深い傷を負い、体が弱っている中、意次がそばにいる。そこで僕が少し目を覚まして、最初に心配するのが誰袖のことなんです。自分のことより常に誰かのために生きてきた人物だったので、それが最後まで見えた印象が強いです。そして、やり残したことがあったと悔いを口にする。本当に意知の人生そのものが、短い時間で見事に描かれているなと感じました」。

演じていて特に印象深かったのは、意知が自分を斬った佐野を一切責めなかったことだという。

「普通なら『くそっ、こんなはずじゃなかった』と思ってもいいのに、意知なりの佐野に対する同情というか、彼の凶行に対する理解までいかないかもしれませんが、“分かろうとする思い”が最後まで見えました。本当に優しくて、より豊かな幕府を作るために身を削った人物だなと改めて感じましたね。思っていたよりも穏やかに最後に向かっていきました」。

穏やかながらも、意次に後を託す思いは熱を帯びていた。そこには、演出による大きなこだわりがあった。

「意次に『残りは任せた』と託すところの思いは、すごく熱いものがありました。演出の深川貴志さんのこだわりで、意知が最後に意次の胸にすっと手を当てるという動きがあったんです。言葉がなくても意次に受け継がれていくものが、そこでしっかりと描けたと思います」。

そして、意知が息絶えた後、宮沢は亡骸として横たわりながら、父・意次の慟哭を間近で聞いていた。

「いや、苦しかったですね……。意知が殺されたきっかけの一つは、意次が佐野の家系図を捨ててしまったことでもあります。意次も多分それはわかっていると思います。佐野に対する恨み以上に、自分自身の判断や過去の過ちが、一瞬で溢れてきたんじゃないかなと思います。田沼家にとっても佐野家にとっても、最悪な結末になってしまった。だからこそ、すごく悔やまれるんです」。

この悲劇的な結末も、脚本を読んだ時は「うれしかった」と胸の内を明かす。

「しっかりと意知の最期を描いてくれたのがすごくうれしかったです。セリフも本当に素晴らしくて、多くを語らないけれど、意知の人生や思っていたことの全てを詰め込んでいただいた。それがあるからこそ、彼が死んだ後の展開がより複雑になり、面白くなっていくのかなと思います」。

渡辺謙が与えてくれた“大きな財産”「助けてくれる存在でした」

意知を演じる上で、意次を演じた渡辺の存在はあまりにも大きかった。以前、渡辺が主演を務めた舞台『ピサロ』で共演経験があった宮沢。そのときから、親身になって相談に乗ってくれたという。2人の間には、単なる親子役を超えた深い絆が生まれていた。

「謙さんから学ぶことは本当にたくさんありました。収録の合間に『もうちょっとこのセリフはこう言った方がいい』など、謙さんが見て感じたことを共有してくださるんです。良かったところは『すごく良かったから、このまま行こう』と。2人で話し合って、シーンをより良くしていくという風にやってくださいました」。

ある重要なシーンでは、渡辺へ自ら電話をかけ、セリフの読み合わせに付き合ってもらったという。

「田沼家の今後を左右する大事なシーンで、僕自身の成長と意知の成長を表現する必要がありました。謙さんからしても『最後、ビシッと決めて気持ちよく終わろうよ』という心遣いがあったのだと思います。謙さんとすごく丁寧に作り上げることができました」。

自分のノウハウやスキルは、俳優にとって“商売道具”でもある。それを惜しみなく分け与えてくれる渡辺の姿勢に、宮沢は深い感銘を受けた。

「この収録期間中、僕が行き詰まったり悩んだりした時、一番に相談したのは謙さんでした。大抵、僕が悩んでいることに真っ先に気づいてくださるので、相談に行くと『いや、あそこでしょ』とすぐに分かってくれる。謙さんと一緒にいるとすごく安心できますし、助けてくれる存在でした」。