何を感じ、何を思うのか
インタビューの終了時間が迫っていた。綾野はふと、自分の言葉で何かを補うように、記者にこう投げかける。
「インタビュアーさんから、原作に対する慮りといいますか、願いや祈りをものすごく感じていて。とても大切に向き合って自分事としてとらえてくださったのだなと強く感じました」
数年前に手に取った原作は、確かに何度も読み返した思い入れの強い本だった。私情が出すぎてしまったことを詫びたが、綾野は「インタビュアーとしての言葉に聞こえなかった」と正直に打ち明けて笑顔を見せる。
「ご自身で感じられたことを文章にしていただきたいと思うんです。それが、みなさんに一番届くと思っていて。だから、僕の話を文章にしないでください」
さらに、これまで取材対応する中で、以前から密かに抱いていた“願い”にも触れる。
「取材をしていただくと頭が整理されますし、興味を持っていただいていることに心から感謝しています。でも実は、ライターさんやインタビュアーさんご自身が、“何を思うのか”を書かれた記事を読みたいといつも思っています」
質疑応答からの“変化”をもたらした綾野の人間味。それは、彼の「今をどう生きるか」という人生観にも繋がる。
「インタビュアーさんの思い入れに対して反応せず、受け答えすることもできましたが、お話ししていて、キャッチアップしたくなり、このような話の流れになりました。インタビューも総合芸術、相乗効果で生まれているものだと思うんです」
一方通行の発信ではなく、双方向の“シェア”。その価値を何度も口にする。
「シェアすることってとても大切なことだと思います。とにかく共有することで初めて、仲間だったと気づくこともある。共有の旗を掲げないことには、仲間も集まってこないし、少数精鋭で十分となってしまいます」
そして、自身の“これから”を思い浮かべる。
「好きな人とだけ仕事していても、10年なんてあっという間に過ぎてしまいます。あらためて思うのは、自分にとって大切なもの、大切な人は何なのか。そして、自分の思いや考えをきちんと表現し、仲間とどのようなクリエーションを生み出せるのか。自分のこれからの人生にとって大切なプロセスだと思っています」
「切り抜き」という言葉には、ときにネガティブな印象がつきまとう。だが、綾野はその“断片”にこそ、ひたすら丁寧に向き合っていく。誠実に演じ、誠実に語り、そして誠実に共有する――そこには、表現者としての揺るぎない信念がある。
一方的に取り上げられたことで、人生が一変してしまう理不尽な現実。映画『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』が映し出すのは、まさにその“切り抜き”の重さだ。129分の断片が、観る者それぞれの中に、そっと問いを残していく。
■綾野剛
1982年1月26日生まれ、岐阜県出身。2003年に俳優デビュー。映画『クローズZERO II』(09)や『新宿スワン』シリーズ(15・17)、『怒り』(16)、『閉鎖病棟 -それぞれの朝-』(19)など、幅広いジャンルで存在感を示す。『日本で一番悪い奴ら』(16)と『カラオケ行こ!』(24)で日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。ドラマでも多くの作品に起用され、『コウノドリ』(15・17)や『MIU404』(20)、Netflix『地面師たち』(24)などの主演作も話題に。2025年6月27日に主演映画『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』が公開。
衣装協力:スーツ\88,000 (ヴィンテージ/King of Fools) 人差し指リング\22,000 (ヴィンテージ/RESURRECTION) 小指リング上から\24,200、\11,000、\22,000 (ヴィンテージ/RESURRECTION)