毎年夏になると思い出すドラマがある。2014年の夏に放送された『あすなろ三三七拍子』(フジテレビ系、FODで配信中)は、視聴率と視聴満足度のギャップが大きい作品だった。

記録的低視聴率が報じられる一方、ネット上のクチコミランキングでは『HERO』(フジテレビ系)と首位を争い、しかも「家族で涙を流しながら見ています」などの称賛ばかり。さらに“応援団”がテーマの作品だからなのか、低視聴率による打ち切りを防ぐための署名運動も行われるなど、熱狂的な盛り上がりを見せた。

11年前の夏に放送された『あすなろ三三七拍子』はどんな作品だったのか。そして時代が変わった令和の今も称賛される作品と言えるのか。ドラマ解説者の木村隆志が解説していく。

  • 『あすなろ三三七拍子』(C)重松清/講談社/フジテレビジョン/共同テレビジョン

    『あすなろ三三七拍子』(C)重松清/講談社/フジテレビジョン/共同テレビジョン

主人公は暑苦しく痛々しい中年男

まずざっくりとしたあらすじをあげると、物語は主人公・藤巻大介(柳葉敏郎)が勤務先のエール物産社長・荒川剛(西田敏行)から「翌檜大学へ社会人入学をして廃部寸前の応援団を立て直してほしい」と指示を受けるところからスタート。かつて荒川が応援団長を務めた世田谷商科大学は女子大と合併して翌檜大学に改名して以降、部員減に悩まされていた。

荒川からリストラ候補であることを告げられた藤巻は了承。さっそく応援団OBの齊藤裕一(反町隆史)と山下正人(ほんこん)のしごきを受け、多摩川の土手を学ランで走らされる。そして藤巻が応援団の特訓を受けて迎えた入学式。新歓ステージで新入生勧誘のために覚えたてのエールを披露するが……。

第1話の開始から2分あまり、翌檜大学応援団OBたちが集結し、大声で校歌を歌うシーンがある。いずれもコワモテであり、叫びながら一升瓶を回し飲む姿は反社かマフィアに見えてしまう。

一方、荒川から「問答無用!」で学ランの着用を強制された藤巻の姿は暑苦しく、OBの齊藤と山下から罵声を浴びせられ、声がかれて倒れ込む姿は痛々しい。まさにハラスメントそのものであり、放送された2014年より現在のほうがそんな印象は強いようにも見える。もしくは学生たちに見向きもされない中年男の姿を見て気恥ずかしさを感じる人もいるのだろう。

しかし、藤巻、齊藤、山下はそんな外野の目を気にせず、必死に誰かへエールを送り続ける。さらに入部した松下沙耶(剛力彩芽)と野口健太(大和田悠平)も含め、無私無欲で心身を投げ打って行う応援は、時に応援される人間の心に届き、いくらかの力になっていく……そんな物語が回を追うごとに視聴者の心をつかんでいった。