ボルボのベストセラーモデルXC60、その進化の本質はUXにあり

ボルボXC60は、北欧デザインと先進技術の融合により、長年にわたり世界中の富裕層を中心に高い評価を受けてきたミドルサイズSUVである。現行モデルは2017年に登場し、日本では同年の日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞。以後、数度の改良を経て熟成を重ねてきた。

【画像】大幅にアップデートされたベストセラーモデル、ボルボXC60(写真17点)

驚くべきはその販売台数の傾向、コロナ禍以降の反動増は考えられるとしても、2024年にはグローバルで過去最高となる23万853台の年間販売台数を記録するなど、その存在感は今なお健在。XC60の累積販売台数は270万台を超え、アイコニックなモデルであるボルボ240を抜いてボルボ史上最も売れているモデルとなった。

いわゆる「ロングセラーモデル」であり、ボルボの中核を担うXC60だが2025年6月、2度目の大幅なアップデートを迎えた。ミドルサイズSUVというカテゴリにおいて、ラグジュアリーと実用性を兼ね備えた理想的な1台ではあるが、前述したグローバルでの販売はもちろん、日本市場でも累計2万3000台を超える人気モデルとして定着している。

今回導入されたモデルのセリングポイントを要約すると、①内外装の洗練 ②次世代インフォテインメントシステムによるUX(ユーザーエクスペリエンス)の革新という大きなテーマを掲げている点だろう。

エクステリアでは、まず目を引くのが新デザインのフロントグリルである。ボルボのアイコンであるアイアンマークと2本の斜線が交差する意匠は、先行して大幅改良を受けたフラッグシップであるXC90とも共通で最新のブランド言語を体現している。ICEはクローム、PHEVがブラックと仕上げが分けられ、車格やキャラクターを巧みに演出する。遠くからでも一目でボルボと分かるアイコン性は残しつつ、そこに新しい上質感を付加させるボルボのデザインセンスの良さには毎度のことながら頭が下がる。

リヤまわりには、ダークカラー仕上げのフルLEDテールライトを採用。ボディカラーに関しては新色の「フォレストレイク」「オーロラシルバー」「マルベリーレッド」が加わり、上質感をより一層際立たせている。ホイールデザインも刷新され、躍動感のあるフォルムを実現した。

インテリアでは、レザーフリー素材の導入が進められた。特に注目すべきは、上級グレードの”Ultra”において、ファインナッパレザーの他に、100%リサイクルポリエステルを使った「ネイビー・ヘリンボーンウィーブ」を無償で選択できる点である。一方でPlusグレードには新素材「ノルディコ」シートを標準装備。環境負荷の低減と高級感の両立が図られている。

さらに、テイラード・ダッシュボードやボルボファンであればおなじみのオレフォス社製のクリスタルシフトノブが全グレードに標準装備され、北欧らしい洗練された室内空間が演出されている。センターコンソールも刷新され、2+1のカップホルダーやワイヤレス充電器の配置が最適化されるなど、実用性をしっかり抑えたボルボらしい仕上げと言える。

Snapdragon Cockpit Platformによる次世代UX

今回のモデルチェンジにおける最大のトピックは、インフォテインメントシステムの劇的進化である。センタータッチスクリーンと呼ばれるディスプレイのサイズは従来の9インチから11.2インチに拡大された。見方によっては従来モデルは上端部がインパネ内に綺麗にインストールされていたのに対し、新型はその部分が上部方向に飛び出して見える点に違和感を持つ人もいるだろう。

しかし、インフォテインメントシステムのトレンドは過去から「大画面化」で進んでおり、当時としては大きかったボルボのシステムでもサイズアップは避けられない。それは世の中に出回るこれらのシステムに表示される情報の量・項目自体も膨大に増えてきているからだ。

新たなホーム画面は、EX30やXC90にも通じるボルボ最新のインターフェイスを採用。ドライブモードもアイコンをタップし選択するだけで可能となり、ウィジェット機能や走行状況に応じて表示内容が変化する(例:低速走行時に自動的にカメラアイコンが表示される)コンテクスチュアルバーの活用により、より直感的かつ状況に応じた操作が可能、使い勝手の向上は明らかである。

もちろん大型化だけではない。解像度自体も数値上だが、21%向上しており、実際の見え方(地図情報や各種アイコンの視認性や判読性)も確実に向上している。後述する音声認識とは別にナビ/エンターテインメント/エアコン/電話などをいわゆる”ゾーニング”することで効率かつ安全に操作できるインターフェイスで設計されている。

UIに関してはユーザーごとに嗜好の違いがあるので何でも手放しで褒めるつもりはないが、ボルボも含め、これらのシステムの大きなメリットはタッチパネル上のUIの設計変更がしやすい点にある。

未来予知はできないが、もし世界的にこのUIのどこかにひっかかる(使いにくい)部分が発生してもそれはプログラム上の修正で比較的短期間に改良することができる。それでもXC60のそれは現状でも極めて使いやすいUIを持っていると感じた。

そしてこのシステムを支えるのがQualcomm Technologies社が開発した次世代コンピューター基盤「Snapdragon Cockpit Platform」の採用だろう。

携帯電話に代表されるモビリティ領域では同社のチップは常に先頭を走っていることを知っている人も多いだろう。

ここ数年、同社は携帯電話だけでなく、自動車領域(コネクテッド&クラウド/自動運転/ADAS)への積極的な進出を狙っているが、今回のプラットフォームもその一連のものだ。このシステムにより、情報処理速度は従来比で2倍以上、グラフィック生成速度は10倍へと向上しているという。

実際「OK Google」によるウエイクワードによる反応、そこからの情報検索→表示のレスポンスは圧倒的。筆者もAndroid Autoを搭載する車載デバイスを使っているが、比較にならないほど高水準。また地図や各種情報の描画性能も高く、Googleマップの地図スクロール時の滑らかさも驚くべきものだ。

一応、きちんと言っておくと、スマートフォンとはそもそも目的が異なるので不得意な分野もある。しかし車載向けに”最適化”されているこのシステムは現状においてはトップクラスの性能を有していると言っていいだろう。

そしてGoogleを搭載することにより、音声操作、地図、アプリの拡張性も高く、無線ソフトウェアアップデート(OTA)に対応。SDV時代を本格的に迎えようという今、時間の経過とともにシステムが進化していくという点も、先進的な富裕層のライフスタイルにマッチしている。

走行性能とハンドリング

試乗車は「Ultra B5 AWD」。新たにミラーサイクル化されたB5エンジンは、250ps/360Nmのパフォーマンスを発揮し、モーターのアシストを受けるマイルドハイブリッドとの組み合わせで、都市部から高速、ワインディングまで力強く、かつスムーズな走りを実現する。燃費効率も約5%向上し、持続可能性の面でも優れている。

電子制御式4輪エアサスペンションとドライビングモード選択式FOUR-Cアクティブパフォーマンスシャシー(オプション)は、乗り心地とハンドリングの絶妙なバランスを提供。連続したコーナーなどではXC40のような軽快さを感じさせる俊敏な身のこなしを見せボディの大きさを感じさせない。

室内の静粛性も向上。遮音材の追加やラミネート加工されたウインドウなどにより、キャビン内では極めて穏やかで、上質な移動空間が確保されている。まさに、ラグジュアリーSUVに求められる快適性を満たしている。

また短時間の試乗ではあったが、プラグインハイブリッド車の乗り味にはB5以上にインパクトがあった。大容量バッテリー搭載による200kg以上の重量差、2インチ大きい21インチホイール&タイヤの装着は乗り心地のネガが出やすい。しかしこの車重増と4輪エアサスの効果がうまくバランスすることで低速域から路面を滑走するような滑らかな乗り味となっている点は補足しておく。

XC60の独自性と今後の価値

今回のアップデートを経た新型XC60は、単なるデザイン変更や装備の充実にとどまらない。とりわけ注目すべきは、「Snapdragon Cockpit Platform」によるUXの進化であり、これはデジタルネイティブ世代やスマートテクノロジーを重視するユーザーにとって極めて大きな魅力である。

また、北欧的な美意識とサステナビリティを融合させた素材使い、洗練されたデザイン、優れた静粛性と快適性を備えるXC60は、単なる移動手段ではなく「選ばれるライフスタイルの象徴」としてのポジションを強めている。

価格帯はマイルドハイブリッドのPlus B5で789万円、試乗車のUltra B5 AWDが879万円、プラグインハイブリッドモデルが1029万円と、プレミアムな価格設定だが、その価値は価格以上に感じられる。富裕層にとって、単なるスペック以上のUX、まさに体験価値を提供するXC60は、今後もボルボブランドの柱として、その存在感を放ち続けるに違いない。

文:高山正寛 写真:安岡 嘉

Words: Seikan TAKAYAMA Photography: Yoshimi YASUOKA