小瀬村晶が語る、初のボーカル・アルバム、アジアの音楽にフォーカスした理由

作曲家/ピアニストの小瀬村晶が、英デッカ・レコード2作目のアルバムとなる『MIRAI』を6月27日にリリースした。前作のピアノソロ・アルバム『SEASONS』リリース以降も、映画、TVアニメのサウンドトラックを手掛けながら自身の楽曲も発表するなど、充実した活動と並行して以前から構想があったという今作は、畠山美由紀、デヴェンドラ・バンハート、ミスター・ハドソンら世界中で活躍する7人のシンガーをゲスト・ボーカルとして迎えた自身初のボーカル・アルバムだ。豊富な楽器が織りなすサウンドと様々な言語が使われた歌による10曲は、ときを忘れて耳を傾け身を委ねられる、純粋な音楽そのもの。聴くたびに新たな発見がある味わい深さと、染み入るような感覚で癒しを得られる作品となっている。未来への希望を託したという今作について、話を訊いた。

―前作のピアノソロアルバム『SEASONS』から2年ぶりのアルバムですが、制作はいつどんな形で始まっていたのでしょうか。

小瀬村:企画自体は『SEASONS』と同時期に始まっていました。2020年の夏ぐらいにデッカのA&Rの方と話したときに、デッカとしては世界中にアーティストがいる中で、その土地に根付いた音楽の素晴らしさを紹介していくところに意義があるという話をもらっていて、僕もずっと日本に住んで活動しているアーティストとして、自分じゃないと作れない音楽について考えるようになったんです。『SEASONS』が、自分がこれまで生きて感じてきたことを、失われつつある日本の四季に対して思いを馳せるような気持ちで内向きに作った作品だったのに対して、それとは別に外向きな気持ちもあったんですけど、そちらのプロジェクトはすごく時間がかかりそうだなと思っていたんです。だから常に同時並行でやっていたんですけど、発端としては2020年の夏頃から始まっているので、その時期に出来ていた曲もあります。

―それがこういうアルバムになったのは何故なんでしょう。

小瀬村:2017年頃から、ゲームのお仕事を漫画家の石田スイ先生(『東京喰種トーキョーグール』の作者)とご一緒させてもらっていて、その時に石田先生から日本の和楽器を使ってみるのも面白いかもしれないという提案をいただいて、それでいろんな日本の楽器を録音したんです。そのときは和楽器の面白さ、特色に対してすごく興味が湧いていた時期でもあって。これもやっぱり失われつつある1つの日本文化というか、こういう音をこれからの世代に残していくっていう意味でもすごく興味があったんです。なのでそういう音も取り入れたい、アジアの音楽にフォーカスしてみようという気持ちがありました。かたや、アメリカの映画音楽のエージェントから、僕が以前作った「Someday」という、デヴェンドラ・バンハート(今作にも参加)に歌ってもらった曲が、アメリカではいろんな映画の予告編やCMに使われていてすごく評判がいいから、そういうボーカルのプロジェクトもやってみたら面白いんじゃないかっていう意見をもらっていたりもしたんです。

―アジアの楽器とボーカルプロジェクトという2つが、同時にアイデアとしてあったということですね。

小瀬村:そうです、それが作っていく中で交わっていったというか。2020年はコロナ禍で分断を強く感じていて、みんな悲観的になっていたし、あからさまな差別だったりとかがアメリカで起きたり、混乱していましたよね。あれだけの世界が変わる瞬間を経験したことで、自分は子どもがいるから、将来への不安だったり子どもの未来のことをすごく考えるようになったんです。だからこそ、僕がこれまで生きてきて経験してきたことを軸にして、音楽の世界でお互いをリスペクトし合うこと、いろんな言語だったり、国の文化だったり、そういうものを共存できるような世界観を持った音楽を作りたいという気持ちになっていったんです。

―ジャケットに写っているのは、お子さんですか。

『MIRAI』ジャケット写真

小瀬村:そうです。これは長崎の五島で撮影した写真を使っています。この写真を撮ってくれた写真家の阿部裕介さんは、世界中いろいろな場所を飛び回って写真を撮っている方なんですけど、阿部さんは五島を気に入って、現地で友だちと『范冰冰(ファンビンビン)』という一棟貸しの宿を経営しているんです。そこに誘ってくれたので家族と一緒に行って何日か過ごしていたときに、本当に何気ない瞬間を阿部さんが撮ってくれていた写真なんですよね。だから、このアルバム用に用意した写真ではないんです。

―今作のテーマを象徴している、すごく良い写真ですね。今回、7人のボーカリストが参加していますが、以前から交流があった人たちなんですか?

小瀬村:もともと、ほとんど全員と繋がっていました。実際に曲を作ったことはなかったりもするけど、長い人だと15年くらいの付き合いの方もいたり。今回、あくまでこのプロジェクトをやっていく中で、曲を作りながら「この曲だったら誰がいいかな」って考えたときに、思い浮かんだ人たちに声をかけて、曲をやり取りしながら作っていきました。

―畠山美由紀さんが歌う「Autumn Moon」が先行シングルとしてリリースされましたが、これは季節がモチーフになっているという意味で『SEASONS』と同時期に生まれたのかなと思って聴かせてもらいました。実際はどうなんでしょう?

小瀬村:「Autumn Moon」は割と早い時期に出来ていた曲ですね。この曲は、歌詞に百人一首の詩を引用させてもらっていて、そこにメロディをつけて曲にしていったんです。僕が百人一首の中でシンパシーを感じた詩で、もともと季節や自然からインスピレーションを受けて音楽を作っていることが多かったので、自然とこの詩を選んで曲を作っていきました。

―”さやけさ”っていう言葉がすごく耳に残っていたんですけど、百人一首からの引用なんですね。畠山さんとも以前から交流があったわけですか。

小瀬村:もともと、畠山さんがやっていたPort of Notesを僕も聴いていて、妻も畠山さんのファンだったんですよ。今回アルバムのエンジニアをしてくれた檜谷瞬六さんも、畠山さんと繋がりがあったので、提案していただいて。畠山さんに歌ってもらえたらすごくよくなるなと思ってお願いしました。畠山さんご自身も百人一首が好きな方だったので、やってみたいと思ってくれたようです。とても楽しいレコーディング現場でした。

―「Autumn Moon」はアルバムの中核をなしている曲だと思いますが、今作の方向性を決定づけるきっかけの曲を挙げるとしたらどの曲ですか?

小瀬村:1曲目の「SECAI」は一番最初にできた曲で、それこそ2020年9月、10月ぐらいにはできていました。この曲はインドのディルルバという民族楽器が使われているんですよ。それを演奏しているジャティンダー・シン・デュルハイレイというアーティストがいて、彼が僕の初期のアルバムを「ずっと毎晩ディナータイムに聴いてるよ。いつか一緒になにか作りたいな」と言ってくれていて。彼がディルルバをソロで演奏した素材をいっぱい送ってくれて、それをもとに僕が曲を作っていきました。

―バイオリンの音かと思いきや、ディルルバという弦楽器なんですね。この曲には歌も入っていますが、これはどんな国の言葉で歌われているんですか。

小瀬村:ナガ族という、ミャンマーの奥地の村に伝承されている音楽なんですけど、井口寛さんというレコーディングエンジニアの方が、そういったこれから段々と消えていってしまう音楽を、現地に行って録音してそれをCDにして残していくという活動をしているんです。その井口さんが、「すごく面白い音がいっぱいあるからよかったら聞いてみてください」といって送ってくれたんです。「もし、なにか使いたい音があったら相談してください」とも言われていたのですが、それをディルルバの音楽を聴いたときに思い出して。インスピレーションが湧いてきたので、和楽器と二胡にストリングス、東洋と西洋の楽器でハーモニーを作って完成させたんです。この曲ができたときに、このプロジェクトの方向性が見えたように感じました。

―それで「SECAI」というタイトルになったんですね。綴りを「SEKAI」ではなく「SECAI」にしている理由を教えてもらえますか。

小瀬村:僕にとってどの音楽もそうなんですけど、フレーズにしても音型にしても自然と出てくるものが、繰り返されるようなフレーズで循環していくというか。このアルバムもそうなんですけど、最初から最後まで行ってそこで終わるというよりは最初に戻って、ずっと円のように循環する作りになっているんです。そういう意味で「SECAI」は命が循環していく意味合いを込めて、「C」(循環=Cycle)にしているというか。地球の丸さというのもありますし。まあみんな気づかないかな、とは思いつつ変えているんですけど(笑)。

―いや絶対気づくと思います(笑)。「SECAI」から始まり、最後は先ほども名前の出たデヴェンドラ・バンハートとの「Ongaku (feat. Devendra Banhart)」で終わって循環していくわけですね。他の曲とはちょっと違うポップソングですが、これはきっとデヴェンドラ・バンハートの音楽志向もありますよね?

小瀬村:ありますね。デヴェンドラとはもう15年ぐらいの付き合いなんですけど、彼自身がすごく70年代80年代の日本の音楽に精通しているんです。彼はもともと一緒に「Someday」を作ってから、「次に一緒にやるときは日本語の歌を歌いたい」ってリクエストしてくれていたんです。それで今回日本語で歌ってもらおうと思っていたんです。ただ、デヴェンドラが思い描く日本の音楽を、僕は彼ほどは掘っていないというか(笑)。彼はディスクユニオンに行って昔のレコードをいっぱい買い漁ってきて、「晶、これ知ってる?」って聞いてくるんだけど、僕は全然知らなかったり(笑)。だから、彼の想像している「古き良き日本」のような世界観に対して、僕が逆に歩み寄った部分もありましたし、時代の流れのなかで受け継がれてきた日本の音楽から、知らず知らずのうちに受けた影響に自分なりのリスペクトを込める意味でも、1曲挑戦してみたいという気持ちがありました。

―この曲自体の構成が、まさに循環して戻ってくる親しみやすさを感じます。

小瀬村:曲の構成も比較的、ポップス的なアプローチをしています。ただ、所謂80年代の日本の音楽をそっくりそのままっていうよりは、和楽器や西洋楽器との融合というのも1つのコンセプトなので、上物のフレーズは尺八、三味線、箏、二胡が入っていて、リズムの方はフレットレスベースとドラムなんですけど、どちらもジャズ畑の人に演奏してもらいました。ドラムはECM(ヨーロッパのジャズ・レーベル)にあるような、ライドとかを多く鳴らす金物系のヨーロッパ的なドラムを能村亮平さんにたたいてもらって。フレットレスベースは、演奏してくれた織原(良次)さんがもともとジャコ・パストリアスのファンですごく精通しているので、織原さんらしいリズムを取り入れてもらったりして、すこしだけアメリカのフュージョンっぽい感じを出してもらったんです。だから欧米のリズム隊に上物は日本的で、曲自体は80年代の日本のポップスっぽさっていうところを上手く融合しようとして、二人とはレコーディングもああじゃない、こうじゃないってみんなで集まってやっていたんですけど、それが結果的になんかちょっとヘンテコな曲になって良かったなって(笑)。

―ははははは(笑)。ちょっとヘンテコで、すごく記憶には残りますよ。

小瀬村:こういうのはもう一回やってもできないよなっていう感じの面白い曲になったと思います。デヴェンドラがちょっと前のアルバムで、「Kantori Ongaku」という曲を自分で作って歌ってたんですよ。それもちょっと残っていて、〈Ongaku〉っていうフレーズを入れたくなったっていうのもありました。それこそデヴェンドラも敬愛する細野晴臣さんのソロ作品からの影響もあります。

―この曲を聴いて細野さんを連想する人は結構いるでしょうね。

小瀬村:〈終りの季節〉という言葉だったり、リスペクトを込めてあえて引用させていただいた部分もあります。

―この曲は最後に収録されていますが、その前は「MIRAI (feat. Benjamin Gustafsson)」というアルバムテーマの曲じゃないですか?「Ongaku」は敢えてアルバムの流れとは別の位置に置かれているようにも思えます。

小瀬村:確かに、「Ongaku」はアルバム全体の流れとしても、ちょっと浮いてますよね。「MIRAI」まではアジアの音楽や欧米の音楽とかを取り入れつつも、いわゆる日本ではない音楽っていうか。途中の「Autumn Moon」は日本のカルチャーを取り入れてますけど、サウンド的にはすごく変わっていて、笙という伝統楽器の高い音からシンセが鳴って、尺八と二胡、それからジャズギターが入ってきたり、結構類を見ない編成になっている中で、僕は欧米の音楽の影響を受けて作曲家になっているので、基本のルール上は洋楽的になっているんですよね。最後の曲に関しては、日本への思いを込めて作ったというところで少し毛色は違うんですけど、ただ終わりの音とかはすごくどこか遠くに飛ばしちゃうような、終わりのコードになっていないというか、結局1曲目に戻れるみたいな感じにしているんです。だから「MIRAI」までとはちょっと違いますね。それと、アルバム全体を通したときに、湿っぽくなりたくなかったんですよ。だから明るい日本のお祭りみたいな、楽しく終われるようにしたっていうのもありました。

―終盤の「Under The Starry Sky」「Underflow (feat. Saro)」「MIRAI (feat. Benjamin Gustafsson)」の流れは、星空から地上に降りて、最後は宇宙から地球を観ているようなストーリーを想像しながら聴きました。

小瀬村:ああ、それいいですね(笑)。そういういい意味で想像力の余地があるというか、歌詞にしてもそうですし、いろんな捉え方がある歌詞を書いてくれた人もいるので。曲順は全体ができてきてから、曲をどう並べたらアルバム全体の流れが伝わるかなっていうところで考えていきました。1曲目にインドの楽器から始まってミャンマーの部族の音楽が流れ、でも2曲目ではヨーロッパのポストロック的なアプローチの曲があって。3曲目にはアメリカのトラップやR&Bの要素とモダンクラシカルな要素を掛け合わせたような曲を経由しつつ、4曲目でまたアジアの音に戻ってきて、5曲目で日本をフィーチャーした曲があり、そこからまたエレクトロニカやモダンクラシカルを感じるような音楽に行ってまた日本に帰ってくるという、”音楽の旅”みたいなイメージもありました。

―「Always You (feat. Mr Hudson)」には、イギリス出身のシンガー・ソングライター、ミスター・ハドソンが参加しています。小瀬村さんにとってどんなアーティストなのか教えてもらえますか。

小瀬村:彼が数年前にジョン・レジェンドの曲を作っていたときに、スタジオに僕の曲を持っていってくれて、それをもとに1曲作ったことがあるんです(ジョン・レジェンド『The Other Ones feat. Rapsody』に小瀬村の「Asymptote」がサンプリングされている)。そのときにハドソンと直接やり取りをして、「今度自分の曲を作るから歌ってもらえないか」みたいな話をしたら二つ返事でOKしてくれて、曲を送ったら3日ぐらいで全部トップラインが完成された状態で送られてきて。そのことは、すごく僕的には大きな出来事でした。所謂映画音楽だったりモダンクラシカルの音楽家として認識されているミュージシャンの曲が、そういうメインストリームのアーティストの曲になるっていうのは想像していなかったことだけど、こういうこともあり得るんだなって。ということは、その逆もできるなっていうところで、今度は僕のフィールドの方にハドソンに来てもらって、彼が持っているものと僕が持っているものを組み合わせていったら、今までとはちょっと違う音楽ができるかもしれないと思って、声をかけさせてもらったんです。だから、僕なりにもちょっとハドソン側に寄せてるっていうか。

―それがトラップを取り入れたアレンジだったり?

小瀬村:そうです。そういうリズム感やビート、そっち側のニュアンスを取り入れてやってみたりしました。ただ、あのサウンド感も個人的にはトラップが全盛になる前からあった音なんですよ。エレクトロニカやダブステップが流行った頃にも似たようなはサウンドってあったから自然に取り入れられたというか。それが今はこういう風に使われていて、こういう風に言われているんだなっていう感じがあるんですけど(笑)。

―「Always You」は、カニエ・ウェスト、ジェイ・Zらとの制作で知られるハドソンが持っている要素もありつつ、中心にはピアノがありますね。

小瀬村:自分がもともと持っているハーモニーとかに対して、ビートを取り入れたりしていますね。トップラインの作りはハドソンの職人芸を提供してもらった感じです。

―4曲目「Lore」は”伝承”を意味するタイトルですが、どうやって生まれた曲ですか?

小瀬村:これはもともと、先ほど話に出た井口さんが録ってきてくれた音があって、その所謂 ”伝承されている音”を聴きながら、それに即興的にピアノを弾いていってできたものに対して、さらにハーモニーを加えました。尺八も効かせています。

―こういう曲と「Atlas (feat. Tom Adams)」のような壮大なポストロックが織り交ぜられているところが、このアルバムの面白いところです。

小瀬村:僕はクラシックピアノから始まってエイフェクス・ツインとかスクエアプッシャーのような一風変わった電子音楽を知って、そこからもともと好きだったサウンドトラックの世界にまた帰っていくみたいな流れがあったんですけど、そういう自分の音楽遍歴の中に、モグワイやMONOとかポストロック系の音楽インストもじつは結構あるんです。ポストロックからだんだんとエレクトロニカになっていったサウンドの系譜と、エイフェクス・ツインのような、ジャンルとしてはテクノとかに近いクラブ・ミュージックの方から出てきたものと大きく分けて2種類ぐらいあって。僕はそういうジャンルの過渡期の音楽をすごく聴いてきたんですけど、その辺の引き出しは、今まであんまり自分の作品では開けてこなかったんですよね。ただ、トム・アダムスが2017年に出したアルバム『Silence』の1曲目を聴いて一緒に曲を作りたいなと思っていて。彼の歌と一緒にやるんだったら、壮大なサウンドスケープみたいな曲がすごくハマるんじゃないかなっていう気持ちがあったので、そういうサウンドを送って、彼もそれにインスピレーションを受けてトップラインを送ってくれるっていう作り方でした。

―1人1人と曲をやり取りしながら作っていくのには、相当時間はかかっているでしょうし、小瀬村さんの中では、もう過去の曲ぐらいになっていた曲もあったのでは?

小瀬村:5年近くやってましたからね(笑)。「Underflow (feat. Saro)」に関しては、2018年ぐらいに作った曲なんです。今回のプロジェクトを進めていく中で、最後の方になってこの曲がじつはこのアルバムに入る余地があることに気づいたんですよ。歌詞はNIKIIE(REIS名義でDADARAYのボーカルを担当)さんに2018年に書いてもらっているんですけど、最近ようやく「できたよ」って曲を送って、7年越しにやっと完成しました(笑)。

―先日、6月6日に40歳の誕生日を迎えた際にXで、「まさか自分が40歳になる未来があるなんて思ってもみなかった」と綴っていたのが印象的でした。そう考えると、それこそ7年越しに完成した曲が入ったアルバムが40歳の節目に世に出ると思ってないですよね。

小瀬村:たぶんもう自分の中で、2周ぐらいしちゃったんですよ。「Underflow」は、ちょうど『In The Dark Woods(2017年)というアルバムを出した頃で、すごく気持ちが内に向いていた時期に作っていた曲なんですよね。あれはインストアルバムだったので収録しなかったんですけど、でも7年ぐらい経っていろんな音楽であっちに行ったりこっちに行ったり、紆余曲折をしながら戻ってきたみたいな(笑)。「あ、このサウンドも自分だな」みたいな感じで、すごくしっくりくるというか。そういう意味では、みなさんは初めて聴くけど、僕からしたら久しぶりぐらいの感じなんですよね。

―昔こんなことをやっていた、じゃなくてちゃんと今聴いても自分だなって思えるというのはいいですね。

小瀬村:もう、自分の曲が古くなるみたいな感覚はないんですよね。最初の頃は自分が作って良いものができたと思ってリリースして、でも2カ月ぐらいすると違うものを作りたくなっていたりとか、ちょっと前の作品が恥ずかしくて聴けないみたいなこともあったんです。でも今になって初期の作品を聴くと、そのときに考えていたことが蘇ってきて、自分の中では「あのときに作っておいてよかったな」って。ただもう20年近くやってると、7年前に作ったものも10年前に作ったものもそんなに大きく違いはないというか。まあ年齢のせいもあると思いますけど(笑)。

―映画やTVアニメの劇伴をたくさんやりつつ、自分のオリジナルアルバムも出してるってすごいですよ。リリース翌日の6月28日(土)には神奈川県の大磯で『MIRAI』リリース記念リスニング&トーク、お渡し会が行われますが、ライブ活動はこれまであまりやってこなかったですか?

小瀬村:20代前半の頃には年間20本ぐらいやっていた時期もあったりはするんですけど、子どもが生まれてしばらくした2017年ぐらいから、自分が本当にやりたいことを全部はできないなと思ったんですよ。やっぱり中途半端になっちゃうなって気持ちがあって。例えばライブをやるってなったら、フラフラっと来てパパッと弾いて帰るみたいなことはあんまり性格的にできなくて、1カ月ぐらい前から準備して「どういうプログラムにしよう」とか、いろいろ曲の流れや演出を考えたり人にお願いしたり、スタジオに入って練習してっていうところまで、ちゃんとやりたい方なんですね。そうするとやっぱり他の仕事にもすごく影響が出るし、自分の作品と劇伴のお仕事の両輪で、ライブ活動はちょっと無理かもなっていうところで、控えていたっていうのがあります。

―そんな中、今回はどうしてイベントをやることに?

小瀬村:今回の会場が井口さんが大磯でやっているスタジオとイベントスペースなんですよ。井口さんがこのアルバムをすごく気に入ってくれて、「うちでイベントやりませんか?」って言ってくれて。このアルバムへの多大な貢献を考えたら、井口さんの誘いは断れませんから(笑)。当日は遠方から来てくれる方も多いと思うので、アルバムのことを直接伝えたり、演奏して元気な姿を見せたいです。あとは井口さんがミャンマーで録ってきたフィールドレコーディングを流しながら、即興的にコラボレーションして演奏したりっていうこともやろうと思っています。

―これからもずっと音楽を作り続けていくことは、変わらないですか。

小瀬村:そうですね。まだまだ作りたい音楽があります。ただやっぱりコンサートをやってほしいという声もあるので、状況次第で、気持ちが向いたらやろうと思います(笑)。

<リリース情報>

小瀬村晶

『MIRAI』

2025年6月27日(金)リリース

UCJY-9003 アナログレコード ¥4950(tax in)

https://akirakosemura.lnk.to/miraiPR

=収録曲=

1. SECAI

2. Atlas (feat. Tom Adams)

3. Always You (feat. Mr Hudson)

4. Lore

5. Autumn Moon (feat. Miyuki Hatakeyama)

6. The Walking Man (feat. Baths)

7. Under The Starry Sky

8. Underflow (feat. Saro)

9. MIRAI (feat. Benjamin Gustafsson)

10. Ongaku (feat. Devendra Banhart)

参加ゲスト:デヴェンドラ・バンハート、畠山美由紀、トム・アダムス、ミスター・ハドソン、ベンジャミン・グスタフソン、サロ、バス

プロデュース:小瀬村晶

マスタリング: Zino Mikorey

小瀬村晶 公式HP https://akirakosemura.com/