
ロールス・ロイスがドバイ、上海、ニューヨークに続き、本拠地グッドウッド以外で4番目となるプライベート・オフィスを韓国・ソウルに昨年オープンした。これは、アジア太平洋地域のロールス・ロイスの顧客が個性あふれるビスポーク・モデルを創り上げるうえで、ビスポーク・デザイナーと直接連携ができる非常に重要な拠点となる。
【画像】ロールス・ロイスがソウルにオープンした「プライベート・オフィス」(写真9点)
このたび、千葉県のTHE MAGARIGAWA CLUBで開催されたブラック・バッジ・スペクター試乗会「INFINITY UNLEASHED 2025」に合わせて、ソウルより、プライベート・オフィスのチームが来日。ヴィラに設けられたプライベート・オフィスを模した空間で、ソウルのプライベート・オフィスとビスポークに対する考え方を伺う機会を得た。
唯一無二のモデルを提供するためには、当然ながら顧客の趣味嗜好を深く理解する必要がある。ロールス・ロイスのデザイナーは顧客との会話やリサーチといった丁寧なコミュニケーションを重ね、顧客の要望、願望、理想を丁寧に引き出し、細部の表現までを形にしていく。
たとえばこの日、ビスポークの一例として見たのは、プライベート・オフィス・ソウルが提案した、「孔雀」がテーマの「ファントム・ピーコック」である。ピーコック・ブルーを基調に、羽根のグラデーションを美しく再現した段階的な色調がボディに施されている。手描きの孔雀のイラストはそれだけでもひとつの作品と言えるほど。このようなイラストや、具体的なマテリアルのサンプルを用いながらイメージを具現化していくのだ。
このビスポーク・モデルは、アジアを中心に貴重な鳥の象徴である孔雀からインスピレーションを得たものであるという。ロールス・ロイスのビスポークにかかれば、神秘的な色彩をあしらう孔雀がここまで優美な作品に進化するのかと驚嘆した。
ひとつの疑問がここで沸いた。顧客の要望するものに対して、もしデザイナーとしての視点から見た場合に疑問が発生したらどうするのか? ストレートにそれを問うと、非常に明快な回答がすぐに返ってきた。
「お客様の希望を叶えることが我々の一番の喜びです。デザイナーといえども、我々の意見がベストであるとは限りません。実際にお客様の要望を形にしたときに、デザイナーとしての想像を超えた素晴らしい仕上がりになることもありますから。
もちろん、ロールス・ロイスとして譲れない部分についてはお客様にご説明します。たとえば『スピリット・オブ・エクスタシー』のマスコットや、サイドの『バッジ・オブ・オナー』のエンブレムなどです」
そう聞いて合点がいった。「ビスポーク」とは「be spoke」が語源だとされるように、会話を通じてひとつの作品を創り上げていくもの。ロールス・ロイスのビスポーク・デザイナーは、物質的なデザインを形にするだけではなく、顧客の胸中やスピリット、そしてライフスタイルまでをもデザインしていく存在なのだ。
文:オクタン日本版編集部 写真:ロールス・ロイス・モーター・カーズ
Words: Octane Japan Photography: Rolls-Royce Motor Cars