次々と重症患者が運ばれてくる“修羅場”のような救急科を舞台に、そのどんな命でも救うという使命に駆られるスーパー救命医が主人公のフジテレビ系ドラマ『Dr.アシュラ』(毎週水曜22:00~ ※FODで先行配信)。

今作を手掛けるのは、映画化もされ大ヒットを記録した『LIAR GAME』(07年・09年)や『ミステリと言う勿れ』(22年)、直近では『全領域異常解決室』(24年)を演出した松山博昭監督と、『366日』(同)や『嘘解きレトリック』(同)などドラマ作品のプロデュースはもちろん、『全力!脱力タイムズ』の企画も担当した狩野雄太プロデューサーだ。その両氏に、今作のこだわりや思いを聞いた――。

  • 『Dr.アシュラ』主演の松本若菜 (C)フジテレビ

    『Dr.アシュラ』主演の松本若菜 (C)フジテレビ

名作を真似ただけの“焼き直し”ではない

フジテレビは99年に放送された『救命病棟24時』を皮切りに、『白い巨塔』(03~04年)や『医龍』(06~14年)、『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』(08~18年)など、様々な医療ドラマのヒット作を送り出してきたが、今作はその“ベスト盤”と言っていいほど、それら全てのエンタテインメントが詰まっている。

『救命病棟24時』と同様に救命救急を舞台にしたスーパードクターが主人公で、『白い巨塔』にあった権力抗争のエッセンスもあり、『医龍』における術中の詳細な解説や、『コード・ブルー』のようなスペクタクルも展開させる…まさに“いいとこ取り”なのだ。

もっと細かく見ていくと、主人公がスーパードクターであるがゆえに周囲と不和を起こす様は、『救命病棟24時(4)』(09年)で描かれたテーマでもあり、第4話で登場した“カテーテル手術”の詳細な描写は『医龍3』(10年)で大きく取り上げられ、個性豊かな医師たちが集結していくRPG的醍醐味もまた『医龍(1)』(06年)を彷彿とさせる。

しかし、それらの名作医療ドラマをただ真似ただけの“焼き直し”にはなっていない。何度でも楽しく、ヒット作のエッセンスが詰まってワクワクできる“ベスト盤”だと感じるのは、当然このドラマでしか描くことのできない“核”が存在しているからだ。

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一般的な医療ドラマとテイストを変えた演出

その“核”とはやはり、今作の主人公・杏野朱羅というキャラクターと、演じる松本若菜だ。朱羅という救命医は、これまでの医療ドラマの常套であるスーパードクターではあるのだが、実はそこに至るまでの背景があり、どんなに難しい術式でも救ってしまう技術的な部分よりも、“必ず命を救ってみせる!”という執念の部分にスーパー性を感じさせる。それが、これまでいそうでいなかったスーパードクター像を作り上げている。

そんな朱羅を演じるのが松本なだけあって、背景にただのキャラクターショーに陥らない人間らしさが加わり、命を救うことができる天才性だけではない、喜怒哀楽の全てに深みが生まれているのだ。

この朱羅というキャラクターは、狩野Pが今作を映像化する上での動機にもなったという。

「この作品をやろうと思ったきっかけは、処置が成功しても感謝されない、失敗したら訴えられる可能性もある、こんな大変な思いをしてまでも“命を救いたい!”という気持ちが、本当にすごいなと思ったんです。だからそれをこのドラマを通じて見つけていきたい、探していきたいという思いがありました」(狩野P)

松本の人間味に関する部分について、松山監督は「第1話のクライマックスのシーン(※崩壊寸前のトンネル内で手術を敢行するスペクタクル)が本格的な撮影初日だったのですが、その最後に朱羅が心臓マッサージをして心動が戻ってきた瞬間、すごくホッとして泣きそうな顔をされたんです。実は自分の想定としては、感情を出さずに仕事をプロフェッショナルにこなしていくようなキャラだと思っていたのですが、その表情を見たときに、朱羅というキャラはそのほうが魅力的に見えるし、説得力があるなと思いました。だから最初に撮ったこのシーンから朱羅というキャラクターを逆算して演出できて良かったですね」と回想する。

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監督として、視覚的にはどのようなこだわりがあるのか。

「ビジュアル的にも若菜さん演じる朱羅をどうかっこよく、きれいに撮るかが、このドラマの大きなテーマだと思いました。明かりが差し込む、いわゆる西洋の教会みたいなイメージで、そんなところでオペができたら、きれいなのではないかと思ったんです。だから、リアルにとらわれないようにして、壁をレンガ調にしたり、明かりが目立つようにダークトーンのものをそろえたりしました。あとはオペ室や処置室は、実際には窓がたくさんあるところも多いようなので、そこを若干デフォルメして窓を大きくしたりして、強い光が差し込んで人物を浮かばせる…そんな画作りをしようと考えました。いわゆる一般的な医療ドラマとはテイストが変わるように、意識的にしました」(松山監督)