光は和美の帰国時の再会を待ち望みながらも、婚約者を連れて帰ったことに激怒。一方の和美も父譲りの頑固な性格だけに「危篤は嘘だったのか」と同じように激怒して大ゲンカがはじまり、第1話から武田と和久井の両方に「ハマリ役」という声があがっていた。
その後も光は娘の妊娠に激怒し、薫との結婚を断固として認めないという徹底ぶりで物語をけん引。しかも「和美の弟・卓(北原雅樹)の生後数年で妻を亡くし、男手ひとつで子どもたちを育てた」という悲しい背景が視聴者の共感を加速した。武田と言えば “金八先生”からの反動か、2000年代以降は「嫌な男」「厄介者」の役が増えたが、男の悲哀を演じられる俳優であり、当作ではそれが実感できる。
さらに物語が進むに連れて、和美も知らなかった親子の感動エピソードが明かされ、視聴者の涙を誘っていた。重要なネタバレになるため書かないが、光の和美への揺るぎない愛情が当作の肝と言っていいかもしれない。
特筆すべきは、光の見せ場が和美とのシーンだけではないこと。光と薫のシーンも家族ドラマとしての名シーンが目白押しだった。光から見た薫は娘の婚約者だが、薫から見た光は赤の他人にすぎない。しかし、徐々に2人の心の距離は縮まり、「光と薫が新たな親子になれるのか」が見どころの一つになっていく。また、終盤には思わぬ共通点が発覚し、ここでも感動を誘われる。
その意味で『バージンロード』は「人気絶頂の和久井映見と反町隆史の恋愛ドラマ」というより、「和久井映見、反町隆史、武田鉄矢の家族ドラマ」と言ったほうが正しいのではないか。
オープニングで見せた結末の共有
1980年代から90年代に放送されたラブストーリーは、その多くが「こうなるだろう」「こういう結末が見たい」という良い意味での予定調和を楽しむ作品が多かった。
その意味で注目したいのがオープニング映像。「ウエディングドレスドレスを着た和美が父・光にエスコートされてバージンロードを歩く」というシーンがあった。
これは「『最後に和美と薫が結婚し、反対していた光が祝福する』という流れを提示した上で楽しんでもらおう」という脚本・演出にほかならない。そんな予定調和を楽しむ作品が成立したのは、『夏子の酒』『妹よ』『ピュア』(フジ系)の主演3作を経た和久井映見と、『ビーチボーイズ』『GTO』(フジ系)で人気爆発目前だった反町隆史の強烈な輝きあったからだろう。
ただただ美しい和久井映見とカッコイイ反町隆史を見るだけでも視聴動機にはなるが、ラブストーリーとしての見どころも十分。恋のライバルである恩田季里(宝生舞)と有川俊(寺脇康文)、お腹の子の父親・東城亘(岩城滉一)らの存在も、「嘘の関係性が本当に変わるか」という和美と薫の恋を盛り上げた。未視聴の人も28年前のドラマとは思えないみずみずしい恋のドキドキを味わえるのではないか。
余談だが、和美の弟は当時人気絶頂のグレートチキンパワーズ・北原雅樹、和美の幼少期は大島優子が演じていたなどの楽しみもある。
日本では地上波だけで季節ごとに約40作、衛星波や配信を含めると年間200作前後のドラマが制作されている。それだけに「あまり見られていないけど面白い」という作品は多い。また、動画配信サービスの発達で増え続けるアーカイブを見るハードルは下がっている。「令和の今ならこんな見方ができる」「現在の季節や世相にフィットする」というおすすめの過去作をドラマ解説者・木村隆志が随時紹介していく。