伊丹十三監督全10作品の4Kデジタルリマスター版を上映する「日本映画専門チャンネル presents 伊丹十三4K映画祭」を開催中の東京・日比谷のTOHOシネマズ日比谷で30日、『マルタイの女』上映記念イベントが行われ、西村まさ彦、宮本信子が登場した。

  • 宮本信子(左)と西村まさ彦

撮影初日に「これまでの君じゃない君が見たいんだ」

1997年公開の『マルタイの女』で立花刑事役を演じた西村。伊丹監督との初めての出会いについて問われ、記憶が定かではないと前置きしつつも、「以前映画のロケ地を巡る番組に呼ばれ、『マルタイの女』のロケ地を巡って思い出を語ったんですが、まったくもって覚えていませんでした。ロケ地が調布か横浜あたりだと思っていたら違っていて、僕の記憶ってどんだけいい加減なことか(笑)」と苦笑いを浮かべた。

それでも、初めて伊丹監督に会ったのは衣装合わせで訪れた西麻布の事務所だったといい、「素敵にリフォームされていて、スペインの風を感じるようなお部屋でした。こんな大胆に部屋を変える人がいるのかと衝撃を受け、そこに飲み込まれてしまいました。そこから伊丹ワールドの虜になったようなものです」と振り返り、今でもその事務所の前を通る度に当時を思い出すという。

初めて出会った当時、西村は35歳、伊丹監督は62歳。西村はその当時の自身について、「勢いがあったと言いますか、テレビに出させていただいたり、三谷幸喜さんの作品に出させていただくことになっていろんな方に知っていただく存在になり、勢いがあったと感じていました」と手応えも。しかし、「周りが見えていたようで見えていませんでしたね。何をやっても俺は頑張ると思っていた時代でした。決して器用ではない自分があの頃の自分です」と、若かりし日を振り返った。

撮影現場で伊丹監督から言われた言葉として、「ドラマ『古畑任三郎』シリーズと同じことはやってほしくない、これまでの君じゃない君が見たいんだと、撮影初日に言われたことを覚えています」と明かしつつ、伊丹組初参加となった『マルタイの女』の撮影では「目の前のことに必死に向き合うだけでした。朝、興奮して目が覚め、気を抜かずに1日乗り切ろうという日々でした」と緊張感の連続だったという。

妻・宮本信子が明かす3つの創作哲学

イベントの途中から、サプライズゲストとして登壇した宮本は、当時と現在の西村を比べ、「寡黙な方だと思っていましたが、こんなにお話が好きな方だとは思いませんでした」と、饒舌になった西村の姿に目を丸くしていた。

最後に、伊丹映画に出演して改めて感じたことに触れた西村は「伊丹さんとご一緒できたことが、僕にとって一つの財産になっています。存在感というか、言葉一つとってもとても軽妙で知的。そうした中に自分もいられたことが、ある意味誇らしいです」と回顧。続けて、「映画には娯楽性の高いものや社会性のあるものもありますが、伊丹さんの作品は両方を兼ね備えていて、涙あり笑いありで社会性も盛り込んで10作も作られた、本当に稀有な監督だと思います。あんな知的な方はそうこの世の中にいないですよ」と、在りし日の伊丹監督を偲んだ。

伊丹監督の妻であり、『ゴムデッポウ』を除くすべての伊丹作品に出演した宮本は「伊丹さんはおっしゃっていました。1つはビックリした、2つは面白い、3つは誰でも分かる、これが伊丹さんの精神でした」と、監督が大切にしていた創作哲学を披露。続けて、「賞をもらうようなテーマは作りたくない。皆さんが観てくださって、エンタテインメントとして面白かった、楽しかった、励まされた、そういう映画を僕は作りたいんだと。それがこの10作に全部入っていると思います」と、とともに作り上げた全10作品に胸を張った。

TOHOシネマズ日比谷・梅田で3月から開催されてきた「日本映画専門チャンネルpresents 伊丹十三4K映画祭」は、全10作品を4K最高画質で1週間ずつ上映。5月1日に上映される『マルタイの女』がラストになるが、日本映画専門チャンネルでは、伊丹映画全10作品を4K最高画質で、5月17日(20:00~)に一挙放送する。