女性の苦悩を知ると、ゲイとしての自分の本質だけでなく、男性社会における人間の業にも心が向く。

本の要約サービス・フライヤーが展開する「Dig Talk」は、本をひとつのきっかけとして、その人の人生の奥底を「深掘る(ディグる)」動画コンテンツです。

今回は、金融・投資・マネー論の分野でもその慧眼が光る、ニューレディー肉乃小路ニクヨさんが登場。ゲイというセクシュアリティに悩んだ時期を乗り越え、女性の苦悩にまで寄り添うその姿に、人気急上昇中です。そんなニクヨさんの内面をちょっと覗いちゃいます。

中流の教育熱心な家庭に生まれ、ゲイであるからこそそのなかでの悩みも深かった肉乃小路ニクヨさん。学生時代から女装のパフォーマーとして活動しはじめますが、社会人になってからは「二足のわらじ」に苦労したことも数しれず。昼の顔と夜の顔の往来が、自身の心を追い込んでいたと振り返ります。動画の見どころを4つ、紹介します!

■なぜ彼女はモンスター化していったのか

途中で「おえっ」となるほどリアリティにあふれ、ニクヨさんの人生に影響を与えた一冊は『グロテスク』です。

3人の女性の物語を主軸に展開するこの作品では、男女雇用機会均等法の施行後、その第一期として生きた人たちに焦点が当てられています。背景としては恵まれていたはずの人が「なぜか娼婦の仕事をする」という「人生の転落」を描きながら、女性として、美醜へのこだわりと経済的な格差が根深い男性社会と、いかにして闘ったのか。そのなかで彼女たちがどう変化、進化、退化、モンスター化してしまうのか。

ニクヨさんは、特に「佐藤和恵」という登場人物に一番惹かれたそうです。実際にあった「東電OL殺人事件」の被害者をモチーフとした人物と思われますが、自らも中流の家庭で育ったというニクヨさんは、無視できない何かを感じ取りました。

吝嗇な家庭に育ち、一流企業に務めながら、男たちからは結局美醜で評価され、それに悩み苦しむ。そして、みずから「春をひさぐ」、売春するようになる佐藤和恵。そのどの部分にシンパシーを感じたのかには、身につまされる感覚になります。

■恋愛至上主義なゲイたち

ゲイのコミュニティには、春をひさぐ女性に対して共感を傾けやすい人が多いと語るニクヨさん。

ゲイの世界は「とても恋愛至上主義みたいな一面」もある。だから、いろんな人が美醜にこだわって生きつづけてしまう。ある程度年齢を重ねている人であっても、見た目を過剰なまでに気にしたり、必要以上に体を鍛えていたり。

そうした状況は、春をひさぐ女性が、見た目の美しさを保ってお客さんに買ってもらうことと通じているのではないか。そう思っているニクヨさんだからこそ、佐藤和恵という人物のことが気になったのかもしれません。

上等な人物が、自分のことを本当に切実に必要として指名する。そういう人がいるという経験は、たしかになかなかできることではありません。ニクヨさんはその点について、ゲイの「発展場」という文化から考察を展開します。

■ニクヨさんもモンスター化していた

女装としての夜の仕事をしていたニクヨさんは、昼間に働いていた会社の出勤時間に何度か寝過ごしたことがあるそうです。

社会人として無断欠勤はかなりの冷や汗もので、自分の評価に大きく響くことです。しかも一度や二度ではないなんて。もちろん本当に大きな失敗ですが、「そういうふうなある意味ライトなところで気づいた」からこそ立ち止まれたのかもしれない、とも語ります。 『グロテスク』の佐藤和恵は、たとえ夜に「春をひさぐ」仕事をして睡眠時間を削っていても、実家暮らしだから起こしてくれる人がいたのかもしれない。その結果、精神的な崩壊まで行き着いてしまう。

昼の仕事がつらすぎたニクヨさんが、夜の仕事に関係したショーの練習にまで寝過ごしてしまった話は、クスッと笑えつつ、どこか自分ごとにも思える不思議なエピソードです。

■暇をさせられないために

人間の深い部分の心理が書かれている『グロテスク』。表面的な部分だけではなく、なかなか口に出しづらい大きな本音に迫っています。

本書を読んでニクヨさんが「吐き気」を催したのは、あまりにも心の描写がリアルすぎたから。「こんなドロドロした自分のなかの醜い部分も文字化されるんだ」という驚きでした。そうした本だから、なかなか再読しようという気持ちになれないのだとか。それでも、細部の描写まで克明に覚えているということは、よほどの印象の強さです。

「自分の周りの誰かもこういうふうな気持ちをもっているかもしれない」、そう振り返らせる芯の強い文章の連続。そこに描かれているのは、人間の業です。

そして、女性の心理について詳しくなれる本だとも語ります。そのニクヨさんの視点には本当に納得です。

いかがでしたか? これらの内容を、肉乃小路ニクヨさんの声と表情付きで受け取れば、より強い納得感を得られるはずです。ご興味のある方はぜひ、本編動画をお楽しみいただけますと幸いです。