埼玉県戸田市では、ふるさと納税の返礼品として戸田ボートコースにおける「ローイング×チームビルディング研修」を3月18日より提供開始した。本研修プログラムを企画・提案したのはNTT東日本 埼玉南支店。納税者にはトップアスリートが多数在籍するNTT東日本の漕艇部がボートの漕ぎ方などを教える。戸田市役所では3月25日、戸田市とNTT東日本が意見交換会を行った。
■究極のチームスポーツを体験して
本研修プログラムは、企業の新入社員研修などの利用を想定したもの。戸田市が、戸田ボートコースを活用した「戸田市」と「ボート競技」の認知度向上施策についてNTT東日本に相談して実現に漕ぎつけた。
意見交換会には戸田市長の菅原文仁氏、NTT東日本 埼玉南支店 支店長の霜鳥正隆氏および関係者が出席した。その冒頭、菅原市長は「NTT東日本の漕艇部は日本一の強さを誇るドリームチーム。戸田市を拠点に毎日毎日、頑張っている姿を見ています。私たちも応援しています」と笑顔を見せる。
4人で漕ぐローイング(水上ボート)競技では、各個人の力量もさることながら仲間と息が合わないとタイムが伸びない。菅原市長はこれを「究極のチームスポーツ」と評するとともに「チームビルディング研修という形にして、ふるさと納税の返礼品で提供するのは全国的にみても珍しいケースと言えるでしょう。たくさんの人に、戸田市の取り組みについて注目してもらえたら」と期待を寄せる。
NTT東日本の霜鳥支店長は、研修プログラムの狙いについてあらためて説明した。コロナ禍でリモートが増えた弊害として、いま様々な企業で社員間のコミュニケーション不足が顕在化してきている、と霜鳥支店長。「そこで戸田市様のアセットであるボートコースを使い、我々の漕艇部が指導するチームビルディング研修を開発しました。東京からのアクセスも良いので、たとえば企業の経営者や社員などがご自身や仲間の課題解決のために活用する、といったことも可能です」と話す。
返礼品「ローイング×チームビルディング研修」は3つのコースを用意。寄付金額は、4名コースなら33万円、8名コースなら57万円、12名コースなら80万円となっている。なお寄付の受付は通年で、プログラムの実施期間は9月~11月(土日祝日を除く)。実施日は個別に日程を調整できる。返礼品の提供事業者はテルウェル東日本。
NTT東日本 漕艇部の今井裕介監督は「ローイングではクルー全員が同じタイミングで漕ぐ必要があります。各人にそれぞれの役割があり、お互いの声かけが大事です」としたうえで「ボートには1艇ありて1人なし、という言葉があります。強い“個”のいるチームより、1人ひとりは弱くても心を1つにして行動できるチームの方が強い、という意味です。これは企業においても重要な考え方になると思います」とした。
研修は、1.基本動作の指導、2.ローイング実践、3.ディスカッション、4.チーム対抗戦、5.振り返り、という流れで行う。霜鳥支店長は「どうすればタイムが伸びるのか。皆んなで計画して、やってみて、反省して、目標を立ててと、研修のなかでPDCAを回します。楽しさもありつつ、しっかりと論理的思考能力も高められる、そんなプログラムになっています」と説明する。
意見交換会では「ローイングはニッチではあるけれど、歴史のある、格式の高いスポーツ。ボート競技の盛んな学校のOBの方々にも響くのでは」「ボート専門誌に掲載する、競技大会でPRするなど、露出の方法も色々と検討していければ」といった意見が出た。
最後に菅原市長は「ふるさと納税の返礼品として、ボートに安全に乗れる、トップアスリートから教えてもらえる、そんなプログラムを用意できました。行ってもらえたら分かると思いますが、戸田ボートコースは非常に景色が良い場所。夕暮れ時も、最高に美しいんです。この価値を理解してもらえる人に利用してもらえたら嬉しいですね」と語った。
■戸田市の魅力を発信!
その後、戸田ボートコースも見学した。戸田公園の中にあるボート競技場で、東西に約2.5kmの真っ直ぐな水路が続いている。1964年の東京オリンピックでも使われたという。ボートをやる人の間では“ボートの聖地”とも言われているそうだ。
このあと、あらためて関係者に話を聞いた。本研修プログラムを企画したきっかけについて、NTT東日本の霜鳥支店長は「通信をはじめとする、ICTによるまちづくりをご提案する中で、戸田市様からボートを活用した施策のご相談がありました」と話す。また、漕艇部の今井監督は「ちょうど1年ほど前でした。チームスポーツの特性を活かした研修ができるのではないか、ということで検討が始まり、2024年10月末にトライアルを実施しました。その結果、やはりチームビルディングとしての効果が確認できました」。
NTT東日本 漕艇部 マネージャーの松尾昂太氏は、本研修プログラムならではの特徴について「まだ人間関係が深まる前の、コミュニケーションの盛んでないチームにも効果があります。素人ばかりの4人でボートを漕ぐと、どうしても動きがチグハグになってスピードも出ません。そこでディスカッションして、皆んなで思いをひとつにすることで上手く漕げるようになる。新入社員の研修として活用できると思います」と説明する。
実際、研修の場ではどんな指導をする考えだろう? 松尾氏は「競技目的ではないので、速く漕ぐことを教えるというよりは『どうやったら上手く漕げるようになるかを自分たちで考えてもらう』ことに重点を置きたいと思います。ヒントを出して、あとは技術的に分からないことがあればお伝えする、という感じですね」。
戸田市 経済戦略室 経済企画担当の高橋洸一氏は「我々のミッションとして、戸田市の魅力を発信していきたいという思いがありました。ふるさと納税の返礼品を通して戸田市の関係人口も増やしていける、地域活性化にもつながるということで、とても良いお話をいただいたと感じています」。同じく戸田市の荒生紗希氏は「“体験型”の返礼品ですので、モノをお送りして終わりにはなりません。その後も継続して寄付者様とのやり取りが発生するというところでも、NTT東日本さんにはご調整いただいております」と続ける。
“体験型”ということで、NTT東日本 営業推進本部の笠原麻衣氏も「一番大きなポイントは、現地に足を運んでもらえるということだと思います。研修の前後で、何か美味しいものを食べたり、その町の知らなかった魅力に触れてもらえる、そんなところも戸田市様にとってメリットになるのかな、と感じています」とする。
NTT東日本 営業推進本部の石松竜太氏は「日常生活の中で、競技用のボートを全力で漕ぐ機会ってないですよね(笑)。井の頭公園の池を貸し切りにして、というわけにもいきません。またボートに乗ったことのない人には、ボート=怖い、という感情もあると思います。こうした安全な場所で、ボートを教えてくれる人が付きっきりで、安心して非日常を体験できるというところも特長になるのかな、と思います」。
どうやったら上手く漕ぐことができるのだろう? 今井監督は「ボートが速く進む条件として、クルーの動きが揃っている、ということがあります。そのためには、仲間の動きをよく観察して、そこにアジャストする必要があります。でも動きを合わせると言っても、腕の使い方を同じにするのか? 息遣いを感じれば良いのか? とにかく簡単にはいきません。水上で漕いでいる最中にも『どうやって合わせようか』と思案を続けます。すると、やがてチームで心がひとつになる、シンクロする、そんな瞬間がやってきます」。
戸田市の高橋氏は「初めてのボート体験でしたが、経済戦略室の4名もトライアルで漕がせてもらいました。1回目、なんとなく動きも息づかいも合っている気がしたのですが、撮影した動画を確認したらもう全然バラバラでした(笑)。2回目、どうしようかとなったときに、オールを着水するタイミングを合わせよう、かけ声を統一しよう、などのアイデアが出たんです。すると2回目は、タイムがかなり改善できました」。
NTT東日本 ビジネス開発本部の柳田周造氏は「仕事では上下関係が大事ですが、ローイングでは役職の高い人が必ずしも良い漕ぎ方をしているとは限りません(笑)。こういった研修があれば、若い子たちも上司に『私はこう思うんですけれど』と自由に意見できるのでは、と期待しています。そんなことがきっかけで、チーム内の風通しが良くなったりしたら嬉しいですね」。
あらためて、どんな人たちの利用を想定しているのだろうか? そんな問いかけに石松氏は「お伝えしていたような新入社員研修のほか、たとえば成果を出さないといけないプロジェクトを控えているチームが一丸となるために利用することも考えられます。実業団のチームが新しいヒントを得るために別の競技として体験する、というのも面白いと思います。音楽活動をしている人たちにとっても、息を合わせることの大事さを再認識できるでしょう」。
今井監督は「ボート競技は、意外と対象年齢が広いんです。水上ボートでも70~80歳の方にもご体験いただけます。ですので取締役、あるいは社長自ら乗っていただくことも可能です。企業に勤めていると、なかなか世代の違う社員と一緒に何かに取り組むことがなくなります。一緒にボートを漕いで、その後で戸田市内で何か美味しいものを食べてもらえたら嬉しいですね」。
最後に霜鳥支店長は「今後も、ボートを活かしたまちづくりに貢献していけたら。戸田ボートコースにはチームごとの艇庫がありますが、今春、新しく建てる弊社の艇庫を市民の皆さんに開かれた形にする、といったことも考えています」、戸田市の高橋氏は「今回の取り組みを通じて、ボートのある戸田市の魅力をどんどん発信していけたらな、と思います」と結んだ。