JR東日本が今月発表した東北新幹線の新型車両「E10系」は斬新なデザインとなった。外観にダークグリーン、客室もグリーンとブルーを基調とした落ち着いた配色を採用。従来の新幹線車両に見られた「白を基調とした明るさ」「暖色系の室内配色」というデザインマナーから脱却している。

  • 東北新幹線の新型車両「E10系」イメージ。濃い色調は「現美新幹線」以来か

一方、性能面では最高速度320km/hにとどまった。「グランクラス」がなくなり、「TRAIN DESK」のシート配列が横4列(2列+2列)となり、荷物輸送用の扉が新設されている。性能はそのまま、サービスを改革する車両なのだろうか。YouTubeで公開されている社長会見と、JR東日本から聞いた情報も交えながら考察する。

扉の配置や窓の数にも変化が

報道資料の最後にE10系の編成図があり、E5系と比較した。先頭車両は少し異なり、E5系の先頭車先端は中央が左右から突き出していたが、E10系はなめらかにつながっている。運転席のドーム部分について、E5系は客室側の屋根が下降していたが、E10系は客室側の屋根が水平になっている。E5系はコクピットルームとして独立した感があり、E10系は少し拡大して客室と一体感を持たせたように見える。JR東日本によると、「環境性能も考慮して形状を決定しています」とのこと。

高速試験電車E954形「FASTECH 360 S」は先頭車の形状を「アローライン」「ストリームライン」と呼んでいた。E5系の先頭形状は「ダブルカスプ」と呼はれたが、E10系については「現時点でまだ決まっていません」とのことだった。SNSで「ヘッドライトが先端の連結器カバーにあるように見える」という声もあったが、「E5系と同じ運転席上部位置」を計画しているという。CGの光源処理で先端が光って見えるだけのようだ。

E10系の1号車を見ると、E5系にあった連結面側の乗降扉がない。その代わり、窓の数が6個から7個に増えている。10号車はE5系もE10系も連結面側の扉はなかった。E10系は窓の数を6個から9個に増やしており、「グランクラス」のようなゆったりとした座席配置ではないとわかる。2~4号車、6~9号車も、サイドビューの比較では同じに見える。

5号車は大きく変わった。E5系はバリアフリー設備があるため、新青森寄りの扉が大きい。E10系もそこは同じようだが、上野寄りの端に荷物輸送用の扉を設置したため、片側3扉となっている。E5系の窓の数は13、E10系は12となった。多目的室の窓がなくなったように見えるところが気になる。荷物用の扉は一般扉(687mm)と比べて200mm拡大され、887mmに。このサイズであれば、幅1,100mm・奥行き800mmのロールボックスパレット(カゴ台車)も搭載できそうだ。あらかじめ到着駅ごとに台車を仕分けておけば、途中停車駅でもすばやく積み降ろしできるだろう。

  • E10系の1~5号車。5号車の扉に注目

  • E10系の6~10号車。10号車の窓が増えている

既報の通り、デザインは英国ロンドンを拠点とする戦略デザインファーム「タンジェリン(tangerine limited)」が手がける。明るい緑の「津軽グリーン」、濃い緑の「イブニングエルム」を使い、サイドラインに桜の花びらをイメージした曲線を配している。E3系やE8系も先頭車付近に曲線を配置していたが、E10系は全車両の側面に曲線があるところが新しい。

室内もグリーン車は緑、普通車は少し明るい緑、「TRAIN DESK」は濃い青でまとめられている。従来の東北新幹線向け車両は「寒冷地に行くから暖色系で」という考え方があったように見受けられただけに、「クールに変身」と言えそうだ。

  • E10系は普通車の全席にコンセントを装備する

  • E10系のグリーン車。ヘッドレストのサイドウイングに読書灯がある

タンジェリン社の公式サイトを見ると、航空機の内装に実績が多く、日本航空(JAL)のA350-1000型機も手がけている。鉄道車両では中国中車長春軌道客車の戦略的デザインパートナーとなっている。他にもニコン製品のユーザーインターフェース開発に関わっており、取引先にアップルやトヨタもある。私たちも意識せずタンジェリン社のデザインに触れているかもしれない。

「ALFA-X」の技術安全性能を高めた

E10系の最高速度が320km/hであることを残念に思った人もいたかもしれない。筆者もその1人。なぜなら、JR東日本は2019年に新幹線の試験車両E956形「ALFA-X」を完成させ、最高速度360km/hに向けた走行試験を実施してきたからだ。それがなぜ、最高速度320km/hにとどまったか。おそらく北海道新幹線札幌延伸開業の延期が影響したと思われる。

北海道新幹線の札幌延伸開業は当初、2030年度末を予定していた。しかし2024年5月、建設主体の鉄道・運輸機構が工事の進捗を理由に、2030年度末開業は困難と国土交通省に報告した。国交省が有識者会議で開業時期を検討したところ、2038年度末という見通しも報じられている。トンネル工事の難航が報告されており、さらに延期するおそれもある。

一方、JR東日本のE5系は2009年から製造が始まり、2023年までに51編成が製造された。E2系の活躍が18年前後となっていることから、同様にE5系も2027年頃から廃車が始まるだろう。北海道新幹線の札幌延伸開業が2030年度末となるなら、それに合わせて最高速度360km/hに対応した新型車両を順次投入し、E5系を置き換えるスケジュールだったはず。しかし、札幌延伸が8年以上延びてしまうとなれば、最高速度360km/hに対応した車両の投入も延期となる。先に360km/hに対応した車両を導入しても、札幌延伸まで8年以上もその性能を発揮できないからだ。

E5系を予定通り製造後18年前後で引退させても、後継車両が8年後になってしまえば車両が足りない。そこで中継ぎの車両が必要になる。それが最高速度320km/hにとどまったE10系ということだろう。E10系の報道資料にも、「今後予定されている札幌開業に伴い運用する車両については、今回設計する車両をベースに別途検討いたします」と付記されている。

それが最高速度360km/hに対応した「E11系」だとすれば、札幌延伸開業が確実になった時点でE10系の製造を取りやめ、「E11系」の製造に切り替わるだろう。E5系は14年にわたって製造されたが、E10系の製造数はもっと少ないかもしれない。

  • E10系で採用される新機軸

ただし、E10系の走行性能はE5系と同じではない。安全面に「ALFA-X」の技術が導入されているからだ。「高減速度ブレーキ」によって、E10系の制動距離はE5系と比べて15%も短縮された。緊急時に停止する時間も短くなる。営業運転に用いることで、スピードを上げられる区間が長くなり、遅延を回復しやすくなるかもしれない。「地震対策左右動ダンパ」を搭載し、地震発生時の横揺れを吸収することで、車両の損傷や脱線を防止する。その他、走行中に軌道を監視する「軌道検測装置」や、大容量データに対応したメンテナンスシステムの導入、自動運転に向けた準備と検討も行われる。省エネルギー対策として、冷却ファンを使わない「ブロアレスモーター」や、SiC素子を使ったモーター制御装置を採用。見かけや数字で表れないところに最新技術が使われている。

「グランクラス」廃止? サービスはどうなる?

E10系に「グランクラス」を導入しなかったことも、E10系が中継ぎ役と考えれば納得がいく。札幌延伸に合わせて「E11系」が登場すると、E5系の古い車両から引退していく。しかし、E5系は51編成もあるから、しばらくE5系とE10系、「E11系」が混在するだろう。そのとき、札幌方面に行く編成はE5系と「E11系」の「グランクラス」付き編成となり、「グランクラス」なしのE10系は東北新幹線のみの運用(現行の「やまびこ」「なすの」など)が主になると思われる。

これは社長会見での「(E10系は)東北新幹線の営業エリアにおいて活用するということを前提に」という発言と符合する。これらの列車に「グランクラス」はあっても、飲食付きのフルサービスは行われていない。「グランクラス」より普通車を増やしたほうが得策かもしれない。E10系の「グランクラス」についてJR東日本に聞くと、「現在検討中であり、決まり次第お知らせします」とのことだった。

普通車のビジネスシートとして定着した「TRAIN DESK」について、E10系はかなりアップデートしている。E2系、E7系、E5系の「TRAIN DESK」は普通車指定席をビジネス利用者向けとし、通話・テレビ会議等で気兼ねなく使うための車両だった。E10系の「TRAIN DESK」は4列シートで、隣席との間に半透明の壁「ディバイダ」を設置。ヘッドレストの両側に設けたサイドウイングを拡大し、周囲から目線を遮る。コンセントとUSB電源、Wi-Fiルータを増設し、座席背面のテーブルは幅を5cm広げ、ノートPCとマウスを載せられるように配慮した。

  • E10系の「TRAIN DESK」はかなり贅沢な装備に

これだけの設備があって、他の普通車指定席と同じ料金とは考えにくい。もし料金が同じなら、単なるお得な普通車指定席として、ビジネス以外の利用者に先取りされてしまうだろう。新たに料金が設定されるか、「TRAIN DESK」がどの車両になるか、JR東日本に聞いたが、「詳細な価格については現在検討中であり、決まり次第お知らせする」とのこと。社長会見によると、「『TRAIN DESK』は学生の利用も多い」という。追加料金があるとしても、学生ユーザーに配慮した額にしてほしい。

ちなみに、報道資料を見ると、E10系は「E2系とE5系の後継車両」と紹介されている。E2系の引退時期によっては、E10系を投入する前にE5系の新造投入もありそうだ。JR東日本によると、「新車の投入計画はまだ決まっていません」とのこと。たしかに、今回の発表は「開発します」であって、具体的な製造計画には至っていない。

E10系の発表は「開発に着手」であり、具体的な製造計画や運用までは決まっていない。外観や座席デザインを複数案から絞り込み、その時点で搭載できる技術が判明したという段階である。とはいえ、この発表によって「グランクラス」や「TRAIN DESK」などサービス面の関心が高まった。「はこビュン」対応も運送業界にインパクトを与えたことだろう。続報を楽しみに待ちたい。