テレビ画面を注視していたかどうかが分かる視聴データを独自に取得・分析するREVISIOでは、2日に放送されたNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(総合 毎週日曜20:00~ほか)の第9話「玉菊燈籠恋の地獄」の視聴者分析をまとめた。

  • 横浜流星=『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第9話より (C)NHK

    横浜流星=『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第9話より (C)NHK

うつせみが責め続けられる姿を見て心を決めた瀬川

最も注目されたのは20時33分で、注目度74.0%。小田新之助(井之脇海)がうつせみ(小野花梨)と駆け落ちするシーンだ。

新之助は同じ長屋に住むひさ(東雲うみ)の協力を得て通行切手を入手した。この通行手形があれば、うつせみを連れて吉原から逃げ出すことができる。最後の客の相手を終えたうつせみは松葉屋をこっそりと出て新之助と合流し、明け方になると2人は件の通行切手を使って大門を抜け出すと手を取り合って駆けだした。

さらに日が昇ったころ、松葉屋では蔦重(横浜流星)が女郎たちに貸本を見繕っていた。起き上がってきた瀬川(小芝風花)に、蔦重が『天網島』を渡すと、表紙をめくった瀬川は目を見開いた。そこには偽造した通行切手が挟まれていたのだ。くしくも新之助に通行切手を手配した蔦重は、新之助とまったく同じことを考えていた。

「うつせみ!」いね(水野美紀)が大きな声を上げて2階から下りてくる。「誰かあの子を見なかったかい」いねの慌てようはただごとではなかった。うつせみの行方を知る者はおらず、いねはうつせみが足抜けを図ったと悟った。

一方、懸命に走り続ける新之助とうつせみだったが、一休みしていたところを追っ手に捕まり、うつせみはあえなく松葉屋へ連れ戻される。いねのはげしい仕置きを受け、「ただ、幸せになりたくて…」と漏らすうつせみに、他の女郎たちの視線は冷たい。「ろくな暮らしなんてできないよ。あんた養おうとあいつは博打。あいつ養おうとあんたは夜鷹。成れの果てなんて、そんなもんさ。それが幸せか?ああ?幸せか?それのどこが幸せなんだって聞いてんだよ!」いねはひたすらにうつせみを責め続けた。その様子を見て瀬川は心を決めた。

  • 『べらぼう』第9話の毎分注視データ

2組の悲恋に同情するコメントが続出

注目された理由は、新之助とうつせみの道ならぬ恋の行方に、視聴者の注目が集まったと考えられる。

うつせみが客の1人から異常な求めをされていると知った新之助は、うつせみを身請けしたいと考え蔦重に相談します。しかし、身請けに必要な身代金は300両という途方もない大金だった。貧乏浪人である新之助にとても用意できる額ではない。結局、新之助が思いついたのは、「玉菊灯籠」のけん騒にまぎれて足抜けするというリスクの高い方法だった。そして、瀬川への想いに気づいた蔦重もまた、足抜けを考えていた。

SNSでは、「蔦重と瀬川、新之助とうつせみどっちも切ない」「今回のべらぼう、しんどすぎてまだまだひきずりそう」「あのままだと蔦重と新之助は指をくわえて眺めるしかできないから、仕方ないのかな」と、2組の悲恋に同情するコメントが多く集まった。いつの世も身分ちがいの恋愛は困難だ。昨年のまひろと道長(こちらは2人とも貴族だが)を彷彿とさせる。

今回のタイトルとなった「玉菊灯籠」は吉原の年中行事の1つ。才色兼備だった女郎「玉菊」を追悼するために引手茶屋の軒ごとに灯籠を連ねた。吉原から女郎が脱走することを足抜けと呼ぶ。足抜けには今回使われた通行切手の偽造のほかに、吉原を囲う壁を越えようとしたり、お歯黒溝に橋をかけるなどがある。中には放火して火に紛れ、その隙に脱走しようとした女郎もいたそうだ。しかしほとんどの場合は3日と経たずに連れ戻され、苛烈な仕置きを受けたようだ。

通行切手は引手茶屋が発行する切手で、女郎以外の女性が大門を出るときに必要になる身分証明書。蔦重と次郎兵衛の蔦屋も大門の側の五十間道にあり、通行切手の発行を行っていた。大門には四郎兵衛会所という小屋があり、番人が常に女郎の逃亡を監視してたのだ。蔦重が瀬川に渡した通行切手には、「しお」という名が記されていた。かつて蔦重が幼いころ、瀬川に贈った「塩売文太物語」の登場人物の1人が「小しお」。蔦重が瀬川に渡した「天網島」は近松門左衛門作の人形浄瑠璃『心中天網島』のセリフなどが書かれた貸本。『心中天網島』は大坂・天満の紙屋の若主人・治兵衛と、曽根崎新地の遊女・小春の悲恋を描いた心中物だ。実際にあった心中事件を題材にしており、近松の作品でも特に傑作として評価されている。「しお」と「天網島」という2つのチョイスからも、蔦重のただならぬ覚悟が伝わってくる。

いねのセリフにあった「夜鷹」とは江戸でも最下級の女郎のこと。夜間に一枚のござをもちいたりして、野外で性的サービスを提供していた。1回の相場は24文といわれている。江戸時代のかけそば1杯が16文であるから、16文を500円とすると夜鷹は1,000円に満たない額で客の相手をしたことになる。夫はギャンブルから抜け出せず、妻は夜鷹となれば、いねの言う通り幸せになるのは難しいかも知れない。

新之助が連れてきた同じ長屋に住むひさを演じたのは、東雲うみ。作中ではかなり地味な装いだったが、実はグラビアアイドルだ。ガンプラの高い制作スキルを持っていて、制作動画などを配信しているYouTube公式チャンネルは登録者数が100万人を超えている。ひさは手先が器用という設定はこれが理由かも知れない。