3番目に注目されたシーンは20時30分で、注目度69.9%。蔦重が瀬川の生業をまざまざと見せつけられたシーンだ。

松葉屋で貸本を行っていた蔦重は、松葉屋の主人である半左衛門から瀬川も交えて3人で話がしたいから、昼過ぎにもう一度来るように言われた。再び松葉屋を訪れた蔦重は、昼見世が行われている部屋の前に通された。部屋の中では女郎の誰かが客の相手をしているはずだ。蔦重にはなぜ半左衛門が自分をこの場に連れてきたのか、その意図が見えてこなかった。

「花魁は…ちょいと長引いてるみたいだな」半左衛門は冷たい声でそうつぶやくと、蔦重に部屋の様子が見えるようにおもむろに障子を開けた。狼狽(ろうばい)する蔦重の目に飛び込んできたのは、客の相手をしている瀬川の姿だった。瀬川は蔦重の視線に気づくと、おどろいて顔をそむける。動揺する蔦重に半左衛門は女郎の務めを語り始めた。女郎は年に2日の休み以外、毎日客の相手をし、客をとるほど命がすり減る。そして、年季明けの前に死ぬこともザラにある。「重三、今お前にできんのはな、何もしねえってことだけだ」蔦重の瀬川への想いは半左衛門には見抜かれている。蔦重は何も言い返すことができなかった。

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松葉屋のえげつないやり口が話題に

ここは、松葉屋の鬼畜な別れさせ方に視聴者が驚かされたと考えられる。

瀬川が鳥山検校の身請け話を断ろうとすると、いねは瀬川に間夫(まぶ)ができたと見抜いた。そしてその相手が蔦重であることも看破する。そこでいねは過酷なスケジュールを瀬川に課し、その現場を蔦重に見せつけることで2人の関係を引き裂こうと画策し、見事に成功した。

SNSでは、「松葉屋さん、一度も蔦重と目を合わせないのが逆に怖い」「松葉屋さんのやり方、蔦重には駿河屋の親父さまにボコボコにされるよりはるかに効くよね」「松葉屋が蔦重を諭すシーンは残酷だけど秀逸だったな」と、松葉屋のえげつないやり口が話題となる一方、「松葉屋夫妻はもちろん金が1番なんだろうけど、身請けが瀬川にとって1番幸せになれると思っての言動なんだろうな」「松葉屋のおかみさん、心から女郎たちを心配しているのがよくわかる」などと、松葉屋の複雑な心境にも共感が寄せられている。

設定では、いねは元花魁であり、四代目瀬川とは同年代。2人はかつて松葉屋で同僚の女郎だったと思われる。そして、松葉屋の主人であった半左衛門はいねを見初め、いねの年季明けを待って夫婦となったと考えられる。今回の半左衛門といねの言動は、自らの経験を踏まえたものだとすると、とても深みがある。吉原は夜見世が主役で、昼見世は客が少なく暇なことも多かったようだ。しかし五代目を襲名して以来、瀬川を求める客は多く負担が増えることになった。

間夫とは金を払わずに、秘密裏に逢瀬を重ねる女郎の恋人のこと。女郎としての勤めがおろそかになる可能性があるので、女郎屋では禁じられていた。女郎はおよそ17歳でデビューして、10年勤め上げると年季明けを迎えることができた。しかし、現代ほど医療技術の発達していない江戸時代では、大半の女郎は性病や堕胎の影響で亡くなったそうだ。まさに吉原は苦界と呼ぶにふさわしい場所だ。