女優の趣里が、フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)のナレーション収録に臨んだ。担当したのは、9日・16日の2週にわたり放送される『われら旅芸人の大家族~僕とわたしの生きる道~』。令和の時代、大家族のようにして共に巡業生活を送り、大衆演劇の世界に人生を懸ける旅一座「劇団暁」の人々を見つめていく。

座長を務める兄・三咲夏樹さん(44)と弟・春樹さん(41)、そして彼らの子どもたち。巡業に出る役者12人のうち10人が血縁だ。そんな“大家族”が、時代の流れとともに直面する存続の危機や、一座初の女性「花形」(看板役者)襲名公演に挑む様子が描かれる。収録を終えた趣里は「感じるものがたくさんありました」と、彼らから受け取ったものを振り返った――。

  • 『ザ・ノンフィクション』のナレーションを担当した趣里 (C)富取正明

    『ザ・ノンフィクション』のナレーションを担当した趣里 (C)富取正明

考えさせられた「続けることの意味」

人口1万人に満たない栃木県塩谷町の山すそに建つ、小さな芝居小屋「船生かぶき村」。旅一座の「劇団暁」は、この“家”から日本各地へ巡業に出ていく。子どもの頃に一座に入った夏樹さんと春樹さんは、初代座長のてつやさんに中学まで出してもらった。彼らの子どもたちは、10代・20代になった今、8人全員が「劇団暁」の役者として劇団を支えている。みな、幼少の頃から舞台に上がってきた。

そんな彼らを見守った趣里も、4歳からバレエを習ってきた。ケガによりバレエから芝居へと道は変わったが、2011年の女優デビュー以来、映像に、舞台にとキャリアを踏んでいる。

「バレエと今の世界は全く違うものなので、長く続けている感じはありませんが、子どもの頃から“芸事”をやっているという感覚は、通じるところがあるかもしれません。“好きで仕方がない感じ”とか。好きだからこそ、やっぱり辞められないとなったり。それは苦しくもあるんですけど。でもそうした“続けることの意味”も、考えさせられました」

男性中心の大衆演劇の世界…「女の子だっておまけじゃない」

現在、一座の演出は、夏樹さんの長男・暁人さん(26)も担っている。まだ一人で立てない頃から舞台に上がり、中学卒業後、この道一筋で生きてきた暁人さんは、実は子どもの頃は舞台があまり好きではなかったという。それが、かつて夏樹座長・春樹座長の襲名公演の際、大衆演劇のジャンルを超えて活躍するあるゲストの姿を見て、「俺もこういうふうになりたい」と大きく感化された。

春樹さんの長女で、3歳から舞台に立ち、今は「女の子だっておまけじゃない。添え物じゃない」と力強く語る愛羅さん(22)も「舞台に出ることがしんどくなってしまったことがある」と振り返る。転校に次ぐ転校で感じたストレスや、男性中心の大衆演劇の世界で、多くの女性客に認めてもらうための苦労があった。

こうしてさまざまな苦難を乗り越えてきた愛羅さんが、「劇団暁」で女性初となる「花形」襲名公演に挑んでいく姿も見どころだ。趣里も、そんな愛羅さんの姿に「ひたむきさを感じました。まっすぐ一つのものにガムシャラに向かうことへのひたむきさ。改めてすてきだと感じました」と心を打たれた。

  • 愛羅さん (C)フジテレビ

朝ドラで感じたメディアの力

歌舞伎や唐十郎のテント芝居などは観てきた趣里だが、大衆演劇の公演自体はまだ観たことがなかったという。しかし「今回、観てみたいと思いました。踊りや群舞もいいなと」と、大いに興味を持ったようだ。

さらに、「大衆演劇というものがあることは知っていても、どういう形で経営をしていて、どんな気持ちで臨んでいるのかといった裏側を知る機会はありません。今回、そこを見ることができました。みなさんの生き様も芸もすごくすてきだったので、いろんな人の舞台を観に行くきっかけになったらいいなと思います」と続けた。

朝ドラ『ブギウギ』(NHK)では、笠置シヅ子をモデルとしたキャラクター・福来スズ子を演じ、ショーの場面も幾度となく演じた。その放送時にも、メディアで取り上げられることで、伝統的な文化に人の関心が向かう様を実感した。

「『ブギウギ』にも梅丸少女歌劇団(笠置が所属していた大阪松竹少女歌劇団:現OSK日本歌劇団がモデル)が出てきましたが、それで随分OSKに人が増えたと聞きました。メディアの力はやっぱりありますから。劇団はたくさんあると思いますが、『劇団暁』も大衆演劇も活気づけばいいなと思います」

●趣里
1990年生まれ、東京都出身。11年に女優デビュー。NHK連続テレビ小説『ブギウギ』でヒロイン・福来スズ子を演じて高い評価を得た。近年の主な作品に映画『生きてるだけで、愛。』(日本アカデミー賞新人俳優賞ほか受賞)、『空白』『ほかげ』、ドラマ『ブラックペアン』シリーズ、『東京貧困女子。-貧困なんて他人事だと思ってた-』『モンスター』など。舞台に映像にと幅広く活躍する人気実力派。25年エランドール賞「新人賞」受賞。