「気胸」になると、息を吸っても呼吸がうまくできなくなります。そのため息苦しくなるのはもちろん、胸の痛みも感じます。

若い男性によく見られるこの「気胸」はなぜ起こり、どんな症状が出るのでしょうか? また、あらかじめ防ぐことはできるのでしょうか? 気胸の原因や種類、注意点、予防方法などをお伝えします。

■気胸とは

肺は、臓側胸膜と壁側胸膜に覆われています。この膜と膜の間を「胸膜腔」といいます。「気胸」は、この胸膜腔に肺の空気が入り込み、その空気がたまった状態のことです。

<気胸の仕組み>

胸膜腔は、正常な状態では少量の液体で満たされています。息を吸うと胸部の骨格(胸郭)が広がって、胸膜腔内の圧力は気圧よりも低くなります。そのため気圧の低い方に空気が吸い込まれることになり、呼吸ができるのです。

気胸になると、この呼吸の仕組みがうまく働かなくなるとともに肺は小さいままとなるため、息苦しくなったり呼吸ができなくなったりします。

■気胸の原因

気胸はその原因によって、いくつかの種類に分けられます。

<自然気胸>

「自然気胸」は、明らかな要因がないまま起こります。10歳代後半~30歳代の、痩せて胸の薄い男性に多く見られるため、「イケメン気胸」と呼ばれることもあります。自然気胸は次の2つに分けられます。

・原発性自然気胸

肺の基礎疾患がないのに関わらず、肺の上の方にできた空気のたまった袋(ブラ)が破れて起こります。喫煙や気圧低下によって起こりやすくなると言われています。なお、5年以内の再発率は10~30%で、特に1年以内に再発することが多いです。

・続発性自然気胸

肺の基礎疾患をもつ患者さんに起こる自然気胸を指します。続発性自然気胸は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や間質性肺炎に続いて起こることがもっとも多いです。そのため高齢者に比較的多く見られます。原発性自然気胸に比べると、全身状態がよくないことなどから治療が難しい傾向があります。

<外傷性気胸>

肋骨が折れて肺に刺さるなど、ケガによって起こる気胸です。胸腔穿刺、中心静脈カテーテル留置、機械的人工換気、心肺蘇生などのように、治療や検査を受けることで気胸になることもあります。この場合は「医原性気胸」と呼びます。

<月経随伴性気胸>

月経の前後に起こる気胸です。子宮内膜症が広がって横隔膜に達し、月経とともに横隔膜に穴が開いて、胸腔に空気が入り込んで起こります。肺に子宮内膜症を起こし、月経とともに肺に穴が開いて起こることもあります。

気胸そのものは女性には少ない病気のため、女性が気胸になった際には月経随伴性気胸を考える必要があります。

■具体的な症状

気胸の代表的な症状は、「突然の胸の痛み」「呼吸困難(息苦しさ)」の2つです。症状が進むにつれてこの痛みや息苦しさは増していきます。ただし、まれに症状がないまま、胸部レントゲン検査で気胸が見つかることもあります。

症状が進み、肺から空気が大量にもれるようになると、胸膜腔の空気が増え、肺や心臓を圧迫してショックを起こしたり、ひどい呼吸困難になったり、チアノーゼを起こすようになります。生命に関わるこの段階の気胸を「緊張性気胸」といいます。

<進行状況と治療方法>

気胸の治療方法は、状態によって異なります。

・軽度

肺の頂上が「鎖骨よりも上」にあって、正常時に比べて少し肺がしぼんでいる状態です。入院せずに安静にして過ごすことで、1~3週間ほどで治ることがほとんどです。

・中等度

肺の頂上が「鎖骨より下」にある状態です。入院し、胸腔にたまった空気を外に排出させる「胸腔ドレナージ」を受けることになります。「胸腔ドレナージ」が終わった後で肺がほどよくふくらむようになったら退院となります。

・高度

正常時に比べて肺が半分以下にしぼんだ状態です。中等度と同じように入院して「胸腔ドレナージ」を受けることになります。退院のタイミングも中等度と同じです。

・緊張性気胸

高度気胸が悪化してさらに肺から空気がもれ続け、心臓や肺を強く圧迫した状態です。胸膜腔の圧力は外気圧より高くなっています。早急に「胸腔ドレナージ」を受けるとともに、状況によっては胸に注射針を刺して胸膜腔の圧力を下げます。「胸腔ドレナージ」の後、肺が良好にふくらむようになったら退院です。

<気胸の時や改善直後の注意点>

気胸になったまま飛行機に乗ることはやめましょう。搭乗中は気圧が変化するため、気胸が悪化しやすくなるからです。

飛行機に乗れるようになる期間は気胸の状況によって異なりますが、気胸が改善して1カ月ほどは飛行機の搭乗は避けた方が安心です。

■気胸の予防方法

ケガによって起こる「外傷性気胸」、月経の前後に起こる「月経随伴性気胸」は防げますが、自然気胸は明らかな原因がないため予防は難しいです。 息苦しさや胸の痛みを感じたら、早めに医療機関の診断を受けることで軽度のうちに治療に進むことができます。

なお、高齢の方の場合は喫煙習慣があって栄養状態が悪いと気胸になりやすいため、禁煙を続け、栄養バランスのいい食事を摂ることが予防につながります。 また、「月経随伴性気胸」の場合は外科治療やホルモン療法によって、月経に伴う発症を抑えることができます。

最後に気胸の予防方法に関して、呼吸器内科の専門医に聞いてみました。

気胸とは、何らかの原因で肺に穴があいて肺がしぼんでしまい、突然の息苦しさや胸の痛みなどが生じる病気のことです。痛みの性状は鋭く、片側の胸部に感じることが多く、深呼吸や咳をすると悪化することがあります。また呼吸が苦しくなるため、患者さん自身が安静を求めることが多いです。程度の軽い気胸ならば、安静にしていれば自然軽快しますが、重症の場合は緊急に医療的処置が必要なこともあります。最初の気胸の発症や再発を生活習慣で予防するには禁煙が大切です。

また自然気胸は、10代後半から30代の男性が起こすことの多い病気で、受験や就職後などのストレスが多い時期に発症しやすいとも言われていますので、ストレスをためないように基本的な生活習慣を整えることなどが大切です。また、知っておいてほしいこととして、飛行機に乗ると気圧の変化が生じるため、気胸が悪化する可能性が指摘されており、気胸の治癒後数週間は飛行機の搭乗を避けて下さい。スキューバダイビングも水圧の変化によって気胸を再発する可能性もあり、気胸になったことがある人は避けたほうが安全と考えられています。

竹下 正文(たけした まさふみ)先生

一宮西病院 呼吸器内科/副院長、呼吸器内科部長
資格:日本呼吸器学会 呼吸器専門医、日本内科学会 総合内科専門医、日本呼吸器内視鏡学会 気管支鏡専門医