股関節は骨盤と大腿骨(太ももの骨)の間にあって、さまざまな方向に柔軟に動く部位です。上半身の重みを支え、足を前後左右に動かす・体を曲げるなど、スムーズに体を動かすのに役立ちます。さらに歩いたり走ったりするときの衝撃を吸収するのも股関節の役割です。

快適で健康な毎日を送れるように、股関節の痛みや違和感の原因、関係する病気、改善方法を知っておきましょう。

■股関節が痛いときの原因は?

股関節の痛みは、関節の骨や軟骨にトラブルが起きたり、すり減ったり変形したり、炎症が起こることなどによって引き起こされます。加齢による変形や、肥満などで負担がかかって起こるケースのほか、先天的な病気によっても痛むことがあります。

■股関節の痛みがあるときに考えられる病気の種類

股関節の痛みはさまざまな病気によって起こります。代表的なものは次の通りです。

<変形性股関節症>

股関節の代表的な病気です。発症する年齢層は40~50歳が中心で、特に女性が多くかかります。かつては子どもの頃の病気や発育障害の後遺症としてよく起こりましたが、最近では加齢で股関節の軟骨が傷み、発症する人が増えています。

初期段階では、立ち上がったり歩き始めたりすると足のつけ根が痛み、歩くうちに痛みは落ち着きます。進行すると歩いたり動くたびに強く痛みます。靴下を履く、足爪を切る、正座する、和式トイレを使うといった動作も難しくなります。最終的には足のつけ根が伸びなくなって膝が外側を向き、進行とともに足(下肢)が短くなっていきます。

<特発性大腿骨頭壊死症>

何らかの原因から、股関節にある大腿骨頭の中で骨の細胞が死んでしまう病気です。男性では大量の飲酒、女性ではステロイドの薬剤の使い過ぎによって起こりやすいと言われています。壊死した骨頭がつぶれると強い股関節痛が急に起こり、足を引きずるなど普通の歩き方ができなくなります。痛んだときには大腿骨頭がつぶれているので予防が難しいのも特徴です。

<大腿骨頚部骨折>

大腿骨は頸部(骨頭と骨幹部の移行部)で曲がっています。転んだり倒れたりすると、この曲がった箇所に力がかかって骨折しやすいのです。

骨折した箇所は動かすと痛みます。さらに回旋動脈が傷を負うと、血流が悪くなり骨頭が壊死してつぶれ、ひどい痛みが起こることがあります。特に骨粗鬆症の高齢の方は大腿骨頚部骨折を起こしやすく、軽く足をひねっただけで骨折するケースも見られます。

<骨盤骨折>

交通事故や墜落などで骨盤を骨折した状態です。高齢の方の場合、転んだだけで起こることもあります。激痛が起こり、体を動かしたり座ることができなくなります。大量出血も伴った場合、ショック状態も起こることがあります。まずは器具を使って、骨折した箇所を支えます。骨折の状態によっては手術が必要になることもあります。

<関節リウマチ>

免疫異常によって関節に炎症が起こり、関節の痛み・腫れ、朝こわばることもある病気です。股関節のほか指や手首、肘、肩、膝、足首など全身の関節に症状が出ます。原因はまだわかっていませんが遺伝、喫煙、歯周病などが関わっているようです。

40~60歳での発症が多く、女性の患者は男性の4倍もいます。また高齢になってから発症するケースもあります。

■股関節の違和感、痛みを改善する方法

股関節の痛みや違和感はさまざまな原因から起こります。そのため、まずは医療機関で適切な治療を受けることが大切です。それとともに、普段の生活でできることを取り入れて痛みや違和感を和らげたいですね。基本的な改善方法をご紹介します。

<杖を使う>

股関節に痛みが出たら、股関節への負担を減らすために積極的に杖を使いましょう。 まっすぐ立ったときに、握り手が手首の高さに来る長さの杖が、力を入れやすくおすすめです。

<体重に気をつける>

肥満になると股関節への負担が増えてしまいます。BMIが25未満になるように体重を増やさず、すでにBMI25以上の場合は緩やかに減量をするのも一つの手です。ただし急激な減量を行うと筋力が落ちてしまうため注意しましょう。
BMI=体重(kg)/身長(m)2

<洋式家具を取り入れる>

和室で布団を敷き、床に直接座る和式の生活は関節に負担がかかります。 ベッドや洋式トイレを使うなど、様式の生活様式に変えていきましょう。

<優しく運動する>

痛みやつらさ、疲労感が出ない程度に股関節を大きく動かしましょう。

水中ウォーキングや水泳など衝撃の少ない運動は、関節への負担を抑えて筋力を維持できます。股関節が柔軟になるようにストレッチも取り入れましょう。

<食事を見直す>

股関節の健康のため、野菜、果物、魚、大豆製品なども食べてバランスの取れた食事を心がけましょう。骨や軟骨におすすめの栄養素は、カルシウムやビタミンD、コラーゲンなどです。

<姿勢を正す>

立っているときや座っているときに姿勢が崩れていると、股関節に負担がかかりやすくなります。背筋を伸ばして骨盤の位置を意識しましょう。

最後に股関節の痛みや違和感を改善する方法に関して、整形外科の専門医に聞いてみました。

股関節に痛みや違和感が生じる疾患のうち本邦で多いのは、股関節の不安定さが問題となる寛骨臼形成不全症が先天的にあり、それが原因で中年以降に変形性股関節症になるパターンです。

初期であれば体幹のインナーマッスル(腸腰筋)の機能を高めることで股関節が安定し症状の改善が期待できます。肥満傾向の方は減量することも大切です。変形性股関節症が進行し保存療法で効果が得られない場合は人工股関節置換術が必要になります。「20世紀もっとも成功した手術」とされており満足度の高い手術ですが、近年はその手術方法やインプラントがさらに進化しています。

手術は誰しも避けたいと考えるのが当然ですが、痛みなく自由に歩けるということは何物にも代えがたい幸せですから、必要な方には適切なタイミングでご検討いただきたいと思います。まずは股関節専門外来でご相談ください。ご自身の股関節の現状と今後の見通しについて正しく理解することが治療の第一歩となります。

中北 吉厚(なかきた よしあつ)先生

一宮西病院 整形外科/股関節センター長
資格:日本専門医機構認定 整形外科専門医