藤井聡太名人への挑戦権を争う第83期順位戦A級(主催:朝日新聞社・毎日新聞社・日本将棋連盟)は「将棋界の一番長い日」と呼ばれる最終9回戦全5局の一斉対局が静岡県静岡市の「浮月楼」で行われました。このうち佐藤天彦九段―佐々木勇気八段の一戦は127手で佐々木八段が勝利。他局の結果、挑戦権のゆくえは佐藤九段と永瀬拓矢九段の二者によるプレーオフに持ち越しとなっています。
温故知新の戦型
6勝で単独首位を走る佐藤九段はこの日勝てば文句なく挑戦決定、敗れてもプレーオフを戦う権利を残します。後手番で迎えた本局で佐藤九段は三間飛車の作戦を採用。対する先手の佐々木八段が急戦で応じたのは直近の傾向から予想された進行となりました。古くから指される古典的な構図ながら、近年はソフト研究も相まって復興の兆しを見せる形です。
「振り飛車には角交換」の格言に従った佐々木八段がこの角を使って香得の戦果を挙げれば、負けじと佐藤九段も猛攻を開始。4筋の拠点にガツンと角を打ち込んだのは「貴族」の愛称に相応しくないほどの力技ですが、本局はここから佐々木八段の自由奔放な指し回しが光ることに。飛車取りを手抜いて金取りに歩を叩いたのが読みの入った切り返しです。
決着は持ち越しに
首尾よく敵陣に竜を作った佐々木八段は次第に指し手のペースを上げます。嫌味に迫る後手の反撃をいなしつつ、機を見て端攻めに転じたのが美濃崩しの好着想でした。終局時刻は23時8分、端で築いた拠点をきっかけに王手ラッシュがスタートし、最後は自玉の詰みを認めた佐藤九段が投了。模範的な三間飛車破りを見せた佐々木八段の快勝譜となりました。
勝った佐々木八段は今期順位戦を5勝4敗でフィニッシュ、A級2年目で初の勝ち越しとなりました。敗れた佐藤九段はプレーオフに向けて「切り替えて臨みたい」と前向きに語りました。また5勝同士の大一番となった永瀬九段―増田康宏八段の一戦は現代矢倉らしい力戦調から抜け出した永瀬九段が勝利し、6勝3敗で佐藤九段と並んでプレーオフ進出を決めています。
名人挑戦者が決まる注目のプレーオフは3月4日(火)に東京・将棋会館で行われます。また今期の結果、菅井竜也八段と稲葉陽八段のB級1組降級が決まっています。
水留啓(将棋情報局)