かつては、新卒入社から定年退職まで1つの会社で働くことが当たり前とされ、転職することに対してネガティブな印象を持たれていました。

しかし、現在では、キャリアアップを目的とした転職がポジティブに捉えられる時代へと変化。終身雇用・年功序列といった従来の働き方から、多様なキャリア形成が重視される時代になりました。

転職を考える人々は、働き方の多様化によってキャリアプランの選択肢が増え、「働くこと」に対する価値観も変化しています。

年功序列の仕組みに慣れている年配のベテラン社員を高い給与で雇うよりも、現代のニーズに適応できるスキルやマインドを持つ優秀な即戦力人材の採用が、企業の成長・発展に不可欠だと企業側も考えるようになりました。

その結果、転職サービスを活用した採用を積極的に行うようになっています。

どんな人でも転職すれば成功できるの?

令和の大転職時代では「転職すれば必ず成功する」のでしょうか?

もちろんそんな甘い話ではありません。すべての人が転職すれば成功できるわけではなく、うまくいくかどうかは個々の行動や考え方に大きく左右されます。

それでは転職の成功とは一体何を指すのでしょうか? 一般的には、以下のような目的を達成することが転職成功と考えられています。

・年収など待遇面の向上
・志望する職種や業務への従事
・転職先での活躍と高い評価を得ること

多くの人が、こうした仕事の充実度を高めることを転職の目的としています。しかし、転職の目的は必ずしも仕事における自己実現や達成感を味わうことだけとは限りません。

例えば、プライベートを充実させたいと考える人にとっては、自身のライフスタイルに合わせた働き方が重要になります。

この場合、仕事におけるやりがいや年収・待遇面の向上を最優先とするわけではなく、私生活の時間を十分に確保できることやワークライフバランスを実現することが転職の目的となります。

そのような人にとっては、たとえ高待遇で、仕事での活躍が評価されていたとしても仕事中心の生活でプライベートな時間がまったく確保できなければ、転職が成功したとは言えないでしょう。

転職の成功の定義は、人それぞれの目的や価値観、ライフステージによって異なります。そのため、転職を成功させるためには、まず自分にとっての転職後の目的を明確にすることが重要です。

そのうえで自分自身の強みや価値をしっかりと見極め、それを適切にアピールすることが不可欠です。

石の上にも三年文化は消えたが、スキルが重要視される時代に

一昔前は「仕事は石の上にも3年」という精神論が根付いていました。「3年続ければ会社に慣れて、自然と仕事のスキルも上がるから」と言われていた時代がありましたが、いま現在ではその文化は薄れつつあります。

かつては「勤続年数や労働時間の長さ」が企業への貢献度を測る物差しでしたが、現在では、会社に成果や利益をもたらすことができる「個人のスキルや能力」が重視されるように変化してきたからです。

そのため、採用する企業側も3年間育て上げて離職されるよりは、多少コストをかけてでも即戦力となる人材を外部から採用したいと考えるケースが増えているのです。

ではどんなスキルがあれば採用に有利となるのでしょうか?

業界ごとに求められる専門スキルは異なります。例えば、IT業界ではプログラミングやデータベース管理のスキルが必須とされ、近年ではAIやデータ分析の知識も重要視されています。

また、コンサルティング業界では、論理的思考、分析力、問題提起・課題解決力などのスキルが求められます。

また、どの業界においても共通して必要とされるスキルもあります。その代表例が「コミュニケーション能力」です。

IT業界では、チームでの開発やクライアントとの調整に欠かせませんし、コンサルティング業界では、信頼関係を築き、適切に課題を伝えるために必須のスキルです。

業界に関する専門スキルよりも、異業種のスキルが求められるケースもあります。

例えば、製造業ではDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するために、IT業界での経験やデジタル技術の知識を持つ人材が優先的に採用されることがあります。

このように、企業によっては業界特有の知識よりも専門スキルを重視し、これまで異業種で培ってきた経験に注目して採用するケースも増えてきています。

時代の変化とともに求められるスキルも多様化しています。

転職活動においては、業界特有の専門スキルはもちろんのこと、業界・業種・企業の枠を超えて活かせるスキルを磨き、それを適切にアピールすることができれば、転職の選択肢はかなり広がるでしょう。

転職理由が自分勝手な理由になっていないか?

転職理由は、求職者と企業の重要なマッチングポイントです。しかし、その理由があまりに自己中心的であった場合には、採用側から敬遠される可能性があります。

転職に失敗する人の典型的な事例として、いま現在の職場環境から脱却したい一心で、やみくもに待遇や条件面だけを優先して転職先を決めることがあります。

このような場合、明確なキャリアプランを持っていないため、その企業の理念や大切にしている価値観と自身のキャリアビジョンをうまく接続することができません。

その結果、企業側に響かない自己PRをしてしまい、「求めている人材ではない」と判断されてしまうのです。

また、仮に採用された場合でも、転職先が求める人材と自身のキャリアが合わず、ミスマッチが生じやすくなります。

特に、求めるスキルや能力があわない場合、転職先で即戦力としての期待に応えられず、長続きしない結果になってしまいます。

同じ企業で長年働いてきた人が転職する場合にも注意が必要です。

たとえ、大企業で役職者や専門性の高い仕事を任され、1社で長年働き続けてきたという輝かしい職務経歴であったとしても、採用側が、「果たしてこの人は自社になじむことができるのだろうか?」と不安を抱くことがあります。

そのため、自身の長年のキャリアが現在の転職市場でどのように評価されるのかをしっかりと理解しておくことが重要でしょう。

一方、複数の企業を渡り歩いてきた人が、「さまざまな環境に素早く適応できる」「カルチャーフィットが得意」といった柔軟さを自信満々にアピールすることがあります。

しかし、短期間で転職を繰り返している場合は、それが逆効果となることもあります。職務経歴に疑問を持たれ、採用側にリファレンスチェックを実施されてしまうこともあるのです。

転職成功者が実践している3つの成功戦略を紹介します。

まず1つ目は、自己分析がしっかりとできていることです。

自分の能力やスキル、これまでの実績を正確に把握し、それを新しい環境でどう活かし、どんな活躍や貢献ができるかを具体的にアピールできる人は、転職活動において優位に立つことができるでしょう。

また自分のキャリアに自信を持っていることも重要になります。

自信はこれまでの経験や成果をもとに築かれるものであり、自己肯定感が高く、自分の価値を明確に伝えることができる人は、採用側から積極的に評価されます。

2つ目は、転職後のキャリアプランが明確であることです。

短期的な目標が具体的であることはもちろん、その先数年後までしっかりとプランニングされており、中長期的に自分のキャリアをどう築いていきたいかが言語化されている自己ビジョンあれば、企業ウケは良いでしょう。

3つ目は、転職先の企業情報を徹底的にリサーチしていることです。

その企業の事業内容や企業理念を理解することはもちろんのこと、企業が大切にしている価値観やそのビジネスを通して社会へどんな価値を提供しているのかを把握することです。それにより、企業アイデンティティと自分のキャリアにおける目的と道筋をしっかりと接続させることができます。

自己成長が企業への貢献となることをアピールできれば、企業側にとって、「ぜひきてほしい人財」となるでしょう。

転職先が上場企業の場合は、IR情報も確認して経営ビジョン等を分析しておくとさらに効果的なアピールができます。

最近では、スタートアップやベンチャー企業への転職希望者が増えています。

創業して間もないベンチャー企業では、少人数の限られた人員で多岐にわたる業務をこなさなければならず、「先輩や上司が手取り足取り業務を教えてくれる」といった環境ではありません。そのため、自ら考え、判断し、主体的に行動できる「自走力」が求められます。

さらに、業務を同時進行で進める必要があるうえ、会社の意思決定スピードも速いため、そのスピード感についていけないと、あっという間に取り残されてしまいます。

そのため、採用側は「主体性」「スピード感」「柔軟性」を重視しており、これらを自己PRでしっかりアピールすることが特に重要とされるでしょう。

以上、これらの要素を自己PRに組み込むことをお奨めします。

転職市場が売り手市場となり、競争が激化しているものの、転職すれば必ず成功するとは限らないのです。

成功する人と失敗する人の間には、はっきりとした「差」が存在します。そして、その差が生まれる最大の要因は、転職の目的が明確かどうかになります。

転職の目的を具体的にしたうえで、自己分析を徹底し、自身のスキルや経験を市場価値として適切にアピールすることが重要なのです。

さらに、企業理念やビジョンを深く理解し、自身のキャリアと接続して、「どのような貢献ができるのか」を明確に伝えられるかどうか、これが転職成功のカギとなるでしょう。

著者プロフィール:薄井崇仁

社会保険労務士法人 大槻経営労務管理事務所 
特定社会保険労務士
2007年1月入所後、人事・労務アドバイザリー業務およびアウトソーシング業務を担当。その後、従業員からの問い合わせに直接対応する「社労士ダイレクト」事業部に配属。アウトソーシングスペシャリストとして様々な業種の大手企業を150社以上支援。17年3月には執行役員に就任。クライアントに対し総合的なHRコンサルディングサービスを提供しており、近年はIPO、M&A支援にも数多く取り組んでいる。働き方の多様化が進む現在、企業にとってベストは何かを常に考えて課題解決へと導き、クライアントの働きやすさと働きがいの向上を全力で支援している。