日本人の死因第1位である「がん」。がんにはさまざまな種類がありますが、その中でも「膵臓がん」とはどのようながんなのでしょうか。今回は、比較的なじみのない臓器である膵臓の仕組みや、膵臓がんの原因や症状、予防・早期発見のためにできることをご紹介します。
■膵臓がんとは
膵臓は胃の後ろにある臓器で、長さ20cmほどの細長い形をしています。膵臓のうち、体の右側の膨らんでいるあたりを「膵頭部(頭部)」といい、十二指腸に接しています。体の左側の幅が狭くなっているあたりは「膵尾部(尾部)」といい、そのすぐ近くには脾臓があります。そして、膵臓の真ん中は「体部」といい、膵臓全体には「膵管」という管が通っています。
膵臓の役割は、主に2つあります。1つめは食べ物を消化する「膵液」を作って十二指腸に送り出す働き(外分泌機能)。もう1つは、血液中の糖分の量を調整するホルモンを作り、血液の中に送り出す働き(内分泌機能)です。
膵臓がんの多くは膵管に発生し、そのほとんどは「腺がん」という組織型(がんの種類)です。膵臓がんは小さいうちから膵臓の周りのリンパ節や肝臓などに転移しやすい傾向にあり、お腹の中にがん細胞が散らばって広がる「腹膜播種」が起こることもあります。
また、膵臓がんは診断と治療の難しい病気で、診断された段階で手術できる患者はわずか約20%に過ぎません。がんを切除できても術後の再発率が高く、術後の5年生存率は20〜40%です。膵臓がんは高齢者に多く、高齢化社会の進行とともに増加傾向にあります。
■膵臓がんの原因
膵臓がんを引き起こす特定の原因は明らかになっていませんが、遺伝子変異が膵臓がんの発生に大きく関与していると言われています。また、膵管にできる他の病気として「膵管内乳頭粘液性腫瘍」があり、ここから膵臓がんが発生したり、別の部位に膵臓がんが発生したりすることもあります。
その他、慢性膵炎、糖尿病、膵嚢胞、膵臓がんの家族歴、喫煙、肥満などは膵臓がんの発生リスクが高くなります。
特に、両親、兄弟姉妹、子どものいずれかで膵臓がんになった人が2人以上いる場合の膵臓がんを「家族性膵臓がん」と言います。家族性膵臓がんの家系の人は、そうでない人よりも膵臓がんを発生するリスクが高いことがわかっています。
家族性膵臓がんが心配な場合、がん相談支援センターや医療機関などに相談してみましょう。遺伝を専門とする医師の診察や、遺伝カウンセリングが受けられることもあります。
■膵臓がんの症状
膵臓がんは発生してもがんが小さいうちは症状が出にくいため、早期に発見することは簡単ではありません。がんが進行してくると、腹痛や食欲不振、体重減少、お腹が張る感じがする腹部膨満感、黄疸、背中や腰の痛みなどが起こり、それらの症状によって膵臓がんであることに気づくケースがほとんどです。そのため、膵臓がんと診断された時点では、がんが進行した状態であることが多いのです。
また、膵臓がんの場合、腹痛や体重減少、黄疸には以下のような特徴があります。
・腹痛
膵臓がんは膵管で発生することが多く、膵臓の中の「主膵管」という膵液の集まる管が詰まってしまうことがあります。主膵管が詰まると膵液の逃げ場がなくなり、内部の圧力が高まって膵管が拡張します。また、膵臓に炎症が起こり(随伴性膵炎)、腹痛のほか発熱を伴うこともあります。
・体重減少
膵臓は胃や大腸、十二指腸などに接していますが、膵臓がんになり腫瘍ができるとそれらの臓器を圧迫して食事がとれなくなり、体重減少という形で症状が現れることがあります。また、膵臓は食べ物を消化する膵液を作りますが、膵臓がんにより膵液の流れが滞ると食べ物を消化吸収する力が弱くなり、栄養を取り込めなくなることで体重減少につながる場合もあります。
・黄疸
黄疸とは、体の皮膚が黄色くなることです。最初は尿の色が濃くなったり目の白目の部分が黄色くなったりしますが、黄疸が進行すると皮膚が黄色くなり、かゆみが出ることもあります。特に、膵頭部にできたがんは、他の部位にできた膵臓がんよりも黄疸症状が出やすくなります。
ただし、黄疸ができたからといって必ずしも膵臓がんとは限らず、胆石症や急性肝炎、他のがんなど別の病気が原因のこともあります。また、膵臓がんを発症しても必ず黄疸が出るわけではありません。
このほか、急に糖尿病を発症したり悪化したりすることもあり、それが膵臓がん発見につながるケースもあります。糖尿病の人で血糖値が急に不安定になった時は、膵臓がんを発症している場合があるため要注意です。
■予防方法や早期発見のためにできること
日本人を対象にしたがんの研究では、膵臓がんに限らず、がん全般の予防には禁煙や節度のある飲酒、バランスの取れた食事、適度な運動、適切な体形の維持、感染予防などが有効とされています。
特に男性の場合、膵臓がんを予防するには禁煙が効果的と言われています。
また、こちらもがん全般に言えることですが、がん検診の受診も大切です。がん検診の目的は、がんを早期に発見し、適切な治療を行うことでがんによる死亡を減少させることだからです。膵臓がんについては、現在指針として定められている検診はありませんが、気になる症状がある場合は早めに医療機関に相談しましょう。
特に、膵管拡張や膵嚢胞は、膵臓がん発覚のきっかけになりやすい膵臓の異常です。これらは腹部超音波(エコー)検査などの画像検査で見つかることがあります。明らかな自覚症状はないものの膵臓がんや膵臓の病気が心配な場合、検査を検討してみましょう。
最後に膵臓がんの予防法に関して、消化器内科の専門医に聞いてみました。
近年、医療の進歩や健康診断の普及により「治る」癌が増えていますが、未だに膵臓がんは「ほとんど治らない」癌の代表格です。それは癌の進行が早い上に早期発見のための方法が確立されていないため、大半の方が手遅れの段階で発見されるからです。症状がないから大丈夫、ではなく無症状のうちに検査を受けて早期発見することが必要です。 腹部エコー検査は健康診断の際やクリニックでも気軽に受けられることが多く、おすすめです。膵臓癌のリスク因子(膵臓癌の家族歴、慢性膵炎、糖尿病、膵のう胞)がある人はさらに詳しい検査を受けた方がよいかどうか一度かかりつけ医や専門医に相談してみましょう。
また、膵臓癌を予防することは難しいですが、リスクを下げることはできます。喫煙しないこと、お酒を飲みすぎないこと(缶ビールなら1日1本まで)、太らない食生活と運動習慣、これらは膵臓癌のリスクを下げるだけでなく、様々な病気の予防にもなります。