――『晩餐ブルース』はオリジナル作品ですが、企画のアイデアは何から生まれたのでしょうか。
私自身、心のバランスを常に健やかに保てるタイプではなく、そんな自分が嫌いでした。でも、弱い部分、暗い部分を拒否して、否定して……の繰り返しに疲れてしまって。そんなことをしたって、弱い部分・暗い部分はなくならない。「このまま弱さや暗さと一緒に生きていけたらいいな」と思ったことが、企画の出発点でした。
そんな中で、学生の貧困や女性への性暴力を描いたドラマ『SHUT UP』を作っているとき、ホモソーシャルについて考える時間があって。ホモソーシャルを解体できるような、男性同士がケアし合う作品ができたらいいなと、なんとなく思っていました。登場人物の性別をどうするか考えたとき、その思いを掛け合わせたら、ホモソーシャルに抗える作品にできるのでは、と思って『晩餐ブルース』が出来上がりました。
――これまで他のインタビューなどでも語られていた「男性同士がケアする話を手掛けたい」という思いが実現したのですね。
『SHUT UP』は作品の性質上、女性にとっては当事者性の高い作品で、見る負担の大きい作品だったと思うんです。なので、『晩餐ブルース』は女性視聴者の方に負担を感じずに見ていただける作品を目指しました。
――主人公・優太の職業をドラマディレクターにしたのは自身に当てはめてのことだったのですか?
物語を作るにあたり仕事のディティール描写が大切な作品ですが、準備期間が短い作品でした。他業種を取材することを考えると、時間が足りないなと。そこで、自分が見えている世界から話を広げられることもあって、身近な職業を選択しました。あとは最近、使い捨ての消費物のようにコンテンツが量産されている風潮にも思うところがあった、というのもあります。
――SNSの反応を見ても、どの職業の人にも「こういうことあるな」と感じられる作品になっていると思いましたが、何か工夫された点はありますか。
「日常の一部として、淡々と描写すること」です。悲劇的、同情的に捉えず、“ただの日常の一部”の温度感で描いていこうというのは、脚本の段階から心がけていました。何か大きな出来事をチョイスするのではなく、日々私たちが「大丈夫だ」と乗りこなせてしまう程度のもの、だからこそ気づかないうちに蓄積してしまう痛みや、些細なすり減りを意識して作っていきました。
――その認識は、キャストの皆さんにも共有されたのでしょうか。
私が直接キャストさんたちにディレクションすることはないので、監督と共有していました。つらいときにつらい顔をしない、しんどくても笑えるし全然大丈夫。自分の痛みや感情に無自覚であってほしい、だけど、本当はこれってちょっと痛いやつだよね、ということが伝わるようにしたいよね、と話していました。
プロデューサーから見た井之脇海・金子大地・草川拓弥の魅力
――本間さんから見て、キャスト陣の印象はいかがでしたか?
井之脇さんは、とても真面目な方。金子さんはムードメーカーで、現場を盛り上げてくれました。一時期カリカリ梅にハマっていたみたいで、大量に差し入れてくれて、スタッフ間でもカリカリ梅ブームが巻き起こったことがありました(笑)。草川さんは『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』でもご一緒させてもらいましたが、周りを見つつも、自分のペースを大事にする方だという印象です。
――そんな素敵な3人のお芝居の魅力についてはいかがでしょうか。
他作品を見ていて、井之脇さんはチャーミングなお芝居をされる方だなと。表情を動かしてお芝居のアプローチをするのが達者で、そこが彼のすこやかさ、ほがらかさのイメージに繋がっていると思いました。その一方で、優太のような役柄でフラットなお芝居をされたときにも、伝わってくる情報量がとても豊かなんです。別に言葉を発さなくても、ただ立っているだけでこちらに訴えかけてくるものがあると感じました。
金子さんは、感情がふれる瞬間のお芝居がとても魅力的。心が動く音が聞こえるような、ハッとさせられる瞬間がありました。耕助は内省することの多い難しい役どころだったと思うのですが、相手の言葉に細かく繊細に反応してくれて、その絶妙な表現が本当にお上手なんですよ。ドラマは作り物ですが、金子さんを通すと嘘がない、本当になるというか。誰が相手でもどんな場面でも、シーンのトーンのダイヤルは金子さんが握っていたように思います。
草川さんの演じる葵も、難しい役だったと思います。優太と耕助とは違って自己開示があまり得意ではない性格で、だからこそ周りには明るく振舞うキャラクターなのですが、周囲の雰囲気に引っ張られることなく、役としての軸をぶらさずに葵の足で立ち続けてくれる。先ほどお話しした『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』と『SHUT UP』でもご一緒させていただきましたが、今作で初めて見る表情もたくさんあって、改めて素敵な役者さんだと思いました。