クランクイン前に最終話までの台本が手元にある。そのために、どれだけのエネルギーを費やしてくれたんだろう。言葉はいらない。制作陣の意気込みと愛情を確かに受け取った。撮影現場もエネルギーに満ちあふれている。
「キャスト同士もそうですし、プロデューサー、監督、技術スタッフの方にも意見を出していただいたり。とにかく対話が多くて、本当に楽しいです。楽しいには、わいわいするような楽しいだけじゃなくて、いろんな種類があると常々思うんですけど、クリエイティブをすることの楽しさ、一つのゴールに向かってみんなで駆け抜ける楽しさ、いろんな楽しいがぎゅっと詰まった撮影の日々です」
草なぎ剛の主演としての在り方に感銘「いつか自分も…」
彼女にとって、今作が初の単独主演ドラマ。主演として、明るく楽しい撮影現場にしていきたい。そのために何ができるかを考えながら、撮影に臨んでいる。
「自分も含めてですが、撮影が終わって数年経ったときに、現場に関わった人全員に、あの作品、楽しかったなと思ってほしい。いろんな楽しいがあるので、どの楽しいでもいいんです。一生懸命やったほうが楽しいし、風通しがいい現場のほうが楽しいに決まってます。もしかしたら、みんなが楽しいは難しいかもしれないけど、一人でも多くの人が、楽しかったなって振り返ることができたら、最高ですよね」
「幼い頃から、いろんな作品に出演させていただいて、作品の色は、主演の方が司っている部分が多いなと感じていました。主演の方が楽しそうに現場にいらっしゃると、こちらもすごく楽しい。でも、主演の方の元気がないと、それに周りも引っ張られてしまう気がしていて……」
明るく楽しい現場のほうが、良い作品ができる。そして、主演の在り方が大きく影響する。そのことを身をもって知った現場を一つ挙げるなら? 返ってきたのは、ドラマ『罠の戦争』(カンテレ・フジテレビ系)で共演した草なぎ剛の名前だった。
「草なぎさんが本当に素敵で。何年かかってもあんなふうにはなれないんだろうなという敗北感を抱いてしまうくらい、本当に楽しそうに現場にいらっしゃって。草なぎさんはみんなのことが大好きで、そんな草なぎさんのことをみんなも大好きで、本当に楽しかったんですよね」
「私、クランクアップの日も朝からうるうるしちゃって。もうこの日々が二度と来ないんだと思うと、それが悲しすぎて涙が出てしまうくらい、草なぎさんがいらっしゃる現場が本当に楽しかった。いつか自分も、草なぎさんのように周りにいい影響を与えられるような人間になれたらいいなと、すごく感じました」
今回の取材前、彼女が自分のことについて話しているインタビュー記事を読むと、現状を俯瞰する、冷静な人だという印象を受けた。けれど、今、目の前で、主演として自分にできることを語る彼女は、大局的な視点はそのままに、とても熱っぽい。
「意識的には、特に何も変わってないと自分では思っていますけど、単独初主演というものを任せていただいて、ここに立たせていただけないと見えない景色はやっぱり明確にあるなと感じています。無自覚ですけど、何かを背負ってるのかもしれません(笑)」
理想は、楽しいがいっぱいの撮影現場。そこに参加するキャストやスタッフも、『罠の戦争』のときに彼女自身が感じたのと同じように、朗らかでありながら頼もしい小野花梨のことが大好きなのではないだろうか。
小野花梨
東京都出身。2006年にTBS系ドラマ『嫌われ松子の一生』で女優デビュー。2021年にはNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』で朝ドラ初出演。2022年に出演した映画『ハケンアニメ!』で、「第46回日本アカデミー賞」新人俳優賞を受賞した。2025年、 NHK『べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~』で大河ドラマ初出演、読売テレビ・日本テレビ系ドラマ『私の知らない私』でドラマ単独初主演を果たした。