2番目に注目されたのは20時39分で、注目度77.9%。『一目千本』の宣伝効果によって、吉原に活気が戻ったシーンだ。
夕暮れの吉原が男たちであふれている。『一目千本』が発行されて半月、その反響はすさまじかった。蔦重と唐丸(渡邉斗翔)、信じられないほどにぎやかになった吉原の姿に目を輝かせ喜びあった。男たちは『一目千本』を求めて、もしくは『一目千本』で描かれた女郎を目当てに吉原をかっ歩している。女郎を花に見立てた『一目千本』で客を呼び戻すという蔦重の狙いは見事に的中した。
歓喜の声を上げ、有頂天となっている蔦重だったが、突然後ろから殴りつけられる。養父である駿河屋市右衛門(高橋克実)だった。市右衛門は茶屋の仕事の傍らで本にうつつを抜かす蔦重を好ましく思っておらず、このところの関係性は最悪だ。
蔦重はまた折檻を受けるのかと身構えたが、市右衛門は意外にも、増えた来客をさばけず手が回っていない次郎兵衛(中村蒼)を手伝えと言った。戸惑う蔦重に市右衛門は「志津山のくず、最高だった」と笑った。蔦重は義父に自分の仕事が認められたことを知って頭を下げる。喜びのあまり浮かんだ涙をぬぐい、唐丸を連れ意気揚々と蔦屋の中へ入った。
ビジネスドラマとして視聴している層が多い?
このシーンは、吉原に活気を取り戻した蔦重に、多くの視聴者の喝采が送られたと考えられる。
蔦重の思惑が見事に当たり、吉原に客が戻ってきた。その光景は正に蔦重が思い描いたものだった。苦しい環境にありながら、斬新な発想と際立った行動力でイノベーションを起こした蔦重だが、このシーンが注目されているということは、ビジネスドラマとして視聴している層が多い証左ではないだろうか。
SNSには、「『一目千本』、女郎たち1人1人の見立ても面白いし、蔦重の吉原愛も表していていいね」「蔦重、打たれてもめげずに柔軟に人と関わっていくし、誰に教わるでもなく敏腕編集者として立ちまわっているのが頼もしい」「江戸時代って、世襲制がほとんどだから、大変だけど楽しい仕事に出会えた蔦重は幸運だな」といった投稿が集まっている。また、「レアグッズ欲しさに現地へ遠征するなんて、日本人のオタク気質は変わってないんだね」というコメントもあった。
いわゆる「地域限定」「ご当地商品」に需要があると見抜いた蔦重は、相当なマーケティング力の持ち主。また、「入銀本」のシステムは現代でいうクラウドファンディングに近い方法だ。当時すでにこのような仕組みがあったことにも驚かされる。
今回、蔦重は『一目千本』を制作するため、長谷川平蔵宣以(中村隼人)から50両という大金を調達(詐欺?)したが、その価値は現代においてどのくらいのものなのだろうか。江戸時代と現代では、人々の生活も使われている品物も貨幣価値も違うので一概には比べられないが、お米1石(約150kg)が1両だったそう。現在の米価が5kgで3,000円ほどなので、そこから計算すると1両は約9万円となる。また当時、かけそばは1杯およそ16文だった。1両=4,000文なので、250杯分になる。
現在かけそばは、およそ400~450円なので、10万円から11万2,500円になる。よって1両はおよそ10万円という計算が成り立つので、50両だと500万円ほどだろうか。平蔵はこれまでにも花の井(小芝風花)にはかなりの額を注ぎ込んでいると推察できるが、その大胆な散財っぷりも、今後の彼の飛躍につながっていくのかもしれない。
昨年の大河ドラマ『光る君へ』でも、中宮・藤原彰子が一条天皇へ『源氏物語』を豪華な装丁をほどこすシーンがあり、奇しくも(わざと?)2年連続で製本シーンが描かれた。平安時代には非常に貴重だった紙だが、江戸時代には市民にも手の届くものとなっている。当時多く流通した杉原紙が1帖で約20文だったので約600円となる。