札幌在住の筆者の自転車歴は9年目を迎える。普段はグラベルロードとマウンテンバイクを愛用し、通勤にはシングルギアのクロスバイクを使用している。
旅と冒険をテーマに活動を続け、昨年は「ニセコグラベル」にも参戦した。
春から秋にかけてサイクリングで得た体力(脚力)を、冬の間の自堕落な生活で失うのはもったいないと、グラベルロードにスパイクタイヤを装着し雪道を走り始めた。
それがきっかけとなり、4年前の大晦日には稚内市街地から宗谷岬までの約30kmを吹雪の中で走破することができた。
雪の降らない地域で生活している方は、「そんなことが本当に可能なのか」と思うかもしれないが、実際に可能である。
今回は、雪道自転車の経験を積んできた筆者の実力がレースでどのくらい通用するのかを試すべく、「第4回びえいスノーサイクルフェスティバル120分耐久レース」に参戦した。その模様をお伝えしたい。
第4回びえいスノーサイクルフェスティバル120分耐久レース
レースは、ソロ部門(男子、女子)、チーム部門(男子、女子、男女混合、ファミリー)、e-bike部門と分けられており、今回はチーム部門(男子)に2人でエントリーした。チームの相方はニセコグラベルでも一緒に走った仲間のM田君である。
今回、M田君を誘った理由は単純である。「このレースで勝ちたい!」という欲が芽生えたためだ。
M田君の脚の強さはニセコグラベルで目の当たりにして確認済みであり、なんとも他力本願ではあるが、彼となら表彰台を狙えると考えた。
また、彼が走っている間に取材に集中することができるという、一石二鳥の狙いもあった(都合の良いことを考えている筆者)。
今回使用する自転車はコレ!
本来は上の写真にある筆者所有のMTBで出場するつもりだったが、大会2日前のまとまった積雪でコース状況にやや不安を感じ、札幌の自転車店「SLOG BIKE SHACK」の熊谷君の協力を得てファットバイクをレンタルすることとなった。
雪で路面が柔らかくなればなるほど太いタイヤのほうが有利である。
ちなみに私のMTBのタイヤの太さは3.0インチ、ファットタイヤは4.3インチとなりエアボリュームもたっぷりと稼げるので悪路での衝撃吸収性も断然高くなる。
相方のM田君も自身が所有するファットバイクを持ち込む予定だったのだが……。
想定外のトラブル発生!?
まだ日が上らない午前4時30分、札幌の自宅を出発し、レース会場である美瑛町を目指した。気温はマイナス9℃と厳しい冷え込みで、市街地を離れるにつれてさらに冷え込むことが予想された。
札幌市から美瑛町までは車で約2時間半。岩見沢市を抜けて山間部を走り、美瑛町に入るころになって、やっと夜が明けてきた。
時刻は午前6時30分。ふと目を上げると、目の前には美しい朝焼けが広がっていた。眠気が一気に覚めるような壮麗な景色であり、早朝から長時間車を走らせてきた甲斐があった。
景色を眺め感動していたその時、電話が鳴った。相手は相方のM田くんであった。
家族旅行を兼ねて美瑛町に前泊していたM田君だったが、宿泊先で娘さんが高熱を出してしまい、急遽札幌に戻らなければばらなくなったという。なかなかこちらの都合良くはいかないものである。
一方で、状況を受け入れるほかないと考え、会場に向け運転を再開した。
120分のレースを一人で走るべきか、出場を辞退するべきかと悩みながら、約30分で会場に到着。悩んだ末に出した結論は、「走り出したらなんとかなるか!」という楽観的な判断であった。
準備を終えて、いよいよ120分耐久レーススタート!
ルールはシンプルである。120分の間に一周850mのコースをどれだけ多く周回できるかを競う形式だ。直前になってもソロ部門へのエントリー変更は認められず、結局チーム部門に一人チームとして参加することとなった。
美瑛町長、実行委員会からの挨拶が終わり、いよいよスタートラインに立つ時が来た。
スタートはソロ部門、チーム部門、e-bike部門の順に午前9時から30秒間隔でのスタートが切られる形式となる。
筆者もまずはソロ部門のスタートシーンを写真に収めた後、自らのスタートの準備を整えた。
一人チームで走る私の心に火がつく瞬間
M田君の欠場が決まり、「まぁ、のんびり撮影取材をしながら走ればいいや」と早々に表彰台を諦めてスタートした。しかし2、3週走ると予想以上に楽しくて、ややテンションが上がる。
20分ほど走ったころ、自分のペースが意外と速いことに気づいた。「けっこう速くね? 自分。」
気がつけば後方を走っていた選手が数メートル前にいる。追い越された記憶はないから、多くの選手を周回遅れにしていたのだ。
カーブでバイクコントロールにてこずっている選手、転倒している選手をどんどんかわしていく。札幌の荒れた雪道での自転車通勤の経験が大きな力を発揮していることを実感した。
「ワンチャン入賞狙えるかも! 取材しながら表彰台ってカッコイイかも!」 という見栄っ張りの根性に火がついた。
あと2週走ったら、一度ピットインしてタイヤのエアを抜くことにした。これは、周回を重ねるごとに荒れる路面にタイヤを順応させるための対策であった。
スタートから1時間が経過すると、コースの路面は荒れ放題の状態になった。低温で湿度のない雪は固まることがなく、まるで水分を含まない小麦粉のような状態となる。
タイヤのグリップ力は失われ、わずかな窪みを越えるのもままならない。強くペダルを踏むと簡単にスリップし、ハンドルを切っても思い通りに曲がらず直進することをやめない。
このような状況では、他の選手が走ったタイヤ跡をたどり、慎重に走ることが必要だ。一度でも止って足を地面に着けてしまうと、元のラインに戻ることは非常に難しくなる。
また、オーバースピードで転倒すれば大きなタイムロスを招く。ここはスピードにこだわらず、丁寧に走り抜けるのが最善だ。
スタートから60分を少し回ったところで少し写真を撮ることにした。ここまでは転倒もなく順調に走ることができたので写真を撮る時間を稼げただろうと考えた。
写真には納められなかったが、多くの選手たちが荒れた区間では自転車を押しながら駆け足で進んでいた。雪で埋まらないラインを選んで走ることが理想だが、現実はなかなか思うようにはいかない。
筆者自身も数回、自転車から降りて、雪の深い区間を押して歩く場面があった。
その中で、ゼッケン108番の選手は会場で偶然再会した友人であった。彼は経験豊富なサイクリストであり、その走りには安定感があった。写真撮影を終えたラスト20分間は、彼の後を追う形で走り続けた。
いよいよゴール! 120分の戦いが終わる
最後には筆者もコースアウトして転倒してしまった。
気温が低いため喉の渇きを感じにくかったが、気がつくと気温はマイナス3℃まで上昇しており、全身から湯気がたつほど汗をかいている。
過去にも同じような状況を経験しているが、水分補給を怠ると筋肉が攣ったり痙攣を引き起こしたりすることがある。
案の定、残り時間が少なくなったラスト二周のところで足に異変を感じた。
バランスを取ろうと右足のペダルを強く踏ん張った瞬間、足が完全に攣ってしまったのだ。
すぐに自転車からおりてストレッチを行い、その後の残り一周は再発させないよう慎重にペダルを回す。ラストスパートのダッシュはかけられなかったが、なんとかゴールすることができた。
途中自転車から降りて写真をとっていたため自分が何位を走っているのか、何周しているのか全くわからなくなってしまったが、完走できた時の充実感は何物にも変えがたい。
表彰結果発表
最後の10分間は疲労でほぼ思考停止状態だったので自分が後半どのくらい走れていたのかわからないまま表彰式へ。
結果、3位のチームとは一周差で筆者は表彰台に登ることはできなかった。
しかし、M田君の力を借りず一人で走り切ったこと、レース中にしっかり写真を撮れたことなどを考えればこの結果には十分満足している。
筆者は普段、競技に参加する機会が多くないが、このようなレースに出ることによって自分の実力を再認識できる良い機会となった。
また、自転車旅やグラベルライドで得た経験を活かして、次の何かにつなげていければと思っている。
ただし、この大会は、第4回の本大会をもって最後となる。その点は非常に残念である。
冬の貴重な自転車イベントが一つ減ってしまうのは惜しいことだ。また別の機会を見つけ、雪景色の美瑛を自転車で走ってみたいと思うのだった。
雪道の自転車走行について
最後に筆者が日頃から感じている雪道を自転車で走る際の注意事項をまとめる。
・雪道、凍結路面は非常に滑りやすいのでできるだけスパイクタイヤの装着をお勧めする
・冬は天候が変わりやすく急に気温が下がったりするので、フリースやインナーダウン、厚手の手袋などをリュックに入れておくと良い
・雪道は約3倍体力を消費する。水分補給、栄養補給はしっかりと
・道幅が狭くなっているので自動車、歩行者に迷惑がかからぬよう細心の注意を
・転倒リスクが高くなるのでヘルメット着用は必須
積雪のない地域にお住まいの方には、ちょっと信じられないような内容だったかもしれない。しかし、興味を持った方は、まずは最寄りの自転車店に相談してみることを強くおすすめする。