「仕事で結果を出すにはどうすればいいか」「出世するにはなにが必要か」という悩みは、多くのビジネスパーソンに見られるものだ。しかし実際は、組織の力学や他人の思惑にからみ取られて、状況を打開できないのが実情だろう。

そこで、「個」として生きる必要性を説いた書籍『異端であれ!』(KADOKAWA)を上梓した、きぬた歯科院長のきぬた泰和氏に、元日本マイクロソフト業務執行役員で、現在は圓窓の代表取締役を務める澤円氏が、自分の目標を達成し、自分のための人生を生きる方法を聞いた。

己が信じる道を行く「個」の時代がはじまる

【澤円】
著書『異端であれ!』の冒頭で、「本当の個の時代が始まる」と書かれているのが印象的でした。このお考えについてお聞かせください。

【きぬた泰和】
「個」として生きるというのは、著書の主題である「異端」という生き方に通じています。それは、「自分が信じた道を本気で生きる」という生き方です。

わたしは、なにごとも本気で取り組まない人が世の中の大半を占めていると考えています。そんな世の中において、ビジネスであれ、スポーツであれ、芸術分野であれ、いわば命を懸けるように取り組む者は、圧倒的な結果を残すことができます。これが結果を出す者に共通する事実なのです。

かたや日本社会で広く推奨されるのは、いわゆる「レールに乗って生きる人生」ですよね? 実際に、そうした教育や慣習が根強く続いていることは間違いありません。いい大学に行って、いい企業に就職するといった道筋は、いまだ日本社会で強固であることは事実なのです。

ですが、ビジネスパーソンはいい加減に気づかなければならないと思います。「いい大学を出ればいい会社に入れて、人生がある程度保証される」と考えて、義務教育を通過し、受験勉強にまい進してきたかもしれない。でも、そんな道を通過していない連中が、ふつうに大儲けしている現実があるではないですか。

【澤円】
たとえ大企業に就職したとしても、今後は、年功序列はもとより、安定した雇用が保証されているわけでもありません。

【きぬた泰和】
もちろん解雇規制はあるものの、40代、50代の仕事ができない大半の社員は、ふつうに異動や肩たたきでレールから外されます。企業内での競争は、ほんの数パーセントを占める、「より儲けた者(=会社を儲けさせた者)」が勝つという現実があります。

仮に、リストラに合わずうまくやっている人でも、会社自体があっさり買収されるかもしれません。つまり、今後は様々な環境の変化にともない、個人が追い込まれていくと同時に、日本社会全体も追い込まれていくと見ています。

終身雇用が崩壊し、かつてないレベルの少子高齢化が進む時代においては、たかが学歴の価値などどんどん減損していくでしょう。そうして、より「個」の力が問われる時代へ向かっていくと考えているのです。

【澤円】
それは、たとえ組織にいたとしても、「個」として生きることができるという考えでしょうか?

【きぬた泰和】
そう思います。組織にいながら、「個」の力を発揮することができれば、むしろ大きな強みになるはずです。いずれにせよ、安全な道を歩き、誰にでもいい顔をして波風立てないように振る舞い、どんなことも「ほどほど」に取り組んでいては、圧倒的な成果など出せるはずがありません。

わたしがいいたいのは、結果を出したいのなら、群れるのではなく、いい意味での「激情」を持てということなのです。

「所詮、他人は他人」と思い、自分と向き合って生きる

【澤円】
「個」としての生き方をもう少し掘り下げます。いまの時代に「個」として生きることで、どのような結果が得られるのでしょうか?

【きぬた泰和】
まず、一番いいのは、他人に余計な気を遣わなくなることです。会社や組織に属していると、「これをしてはいけない」「あれをすべきだ」などと、いろいろな決まりごとやしがらみに絡み取られてしまいます。

ただし、集団に属していても「個」の力を発揮できる人はできますから、それによって結果を出せると、なにより自信がつきますよね。仕事や人生に充実感を感じることもできるでしょう。

わたし自身は、他人の顔色を伺わず、忖度せず、自分の頭で考えることに集中した結果、成果を上げて収入も増えました。最初からできたわけではなく、「個」として生きるというマインドを少しずつ磨いていった結果、生きやすくなったということです。

【澤円】
著書では、「所詮、他人は他人」だと言い切っておられます。この言葉もまた、きぬた先生の「個」の概念をよく表していると感じました。

【きぬた泰和】
ちょっと思考実験をしてみましょう。あなたが突然、末期がんを宣告されたとします。当然ショックを受けるでしょうし、慌てふためき、パニックに陥るかもしれません。そのとき、そんなあなたを本気で心配し、眠れない夜をともに過ごしてくれるのは誰でしょうか?

親や家族、パートナーならきっとともに過ごしてくれるはず。では、あなたの親友はどうでしょうか? もちろん心配してくれるとは思いますが、その親友はその夜、いつも通りに寝るはずだとわたしは想像します。本気で心配し、眠れない夜をともに過ごしてくれる人など、ほとんどいないのが現実だという認識です。

逆の立場でも同じです。親友から余命3ケ月と言われたとき、あなたは心から心配するでしょう。しかし、その夜、あなたはいつものように眠りにつくはずです。なぜなら、自分の生活があるからです。そして、ほとんどの人は、翌日いつも通りに出勤するのではないでしょうか。

なにが言いたいのかというと、結局、親友といってもその程度の「他人」だということです。そして、あなたもまた誰かにとっての「他人」なのです。

【澤円】
だから先生は、「所詮、他人は他人」という考えに至ったわけですね。では、この認識を持つことで、人はどのように変化していけますか?

【きぬた泰和】
自分が「これは」と思うものがあるとき、他人の反応などを気にせず、いますぐ本気で取り組めるようになります。自分と真剣に向き合うほど、あなたはそれを実行できるようになります。

あなたがいまどんな仕事をしていても、どんな業界にいても、自分と本気で向き合えば、必ずなんらかの手がかりやチャンスを見出せると思います。逆に、他人の目をうかがってばかりいると、自分だけの人生を送ることなど決してできません。

自分と向き合い、自分の声に正直に生きると決意すること。それこそが、充実して生きるために欠かせない姿勢だと考えています。

組織に属しながら「個」として生きる方法

【澤円】
先に、組織のなかでも「個」の力を発揮できると述べられました。ただ、組織の力学にとらわれて、なかなか「個」としての力を発揮できないと感じているビジネスパーソンも多いと思います。

【きぬた泰和】
アドバイスとしては、まず「なにをしたいのか」という自分のテーマを明確にするといいでしょう。「社長になる」でも「出世する」でもいいのです。本当にやりたいことという、自分のテーマを定めてください。

次は、それをつねに自分のなかで温めて、チャンスを伺うしかありません。そして、いつもアンテナを張っていると、必ずチャンスは訪れます。精神論のように聞こえるかもしれませんが、チャンスはいつも目の前を通過していると捉えてみてください。

つまり、他人に言われたことをこなすことに時間を使うのではなく、つねになにかを掴み取ってやろうと考え、アンテナを立てておくのです。四六時中観察するくらいの勢いでなければ、目の前にチャンスが現れても気づくことはできません。

【澤円】
目の前にやってくるチャンスを掴むには、しっかり観察することが必要であることは理解できました。その次のアクションとしては、実際に行動を起こすことも重要ですよね?

【きぬた泰和】
ただ、いきなり「個」として行動しようと思っても、組織にいる人はもとより、自営業者であっても、実際に行動に移すことはなかなか難しいものです。

そこで、自分のいまの仕事の延長線上で、新しい仕事を展開させることがポイントになります。

ときどき脱サラをして、急にから揚げ屋や蕎麦屋などをはじめる人がいますが、突拍子もないことをするのはいい手とはいえません。そうではなく、いま自分が属する業界や仕事に関連することからヒントを得て、そこから仕事の領域を広げていくことが、もっとも簡単でリスクヘッジもできます。

いま取り組んでいる仕事内容のまま、独立するのもいいでしょう。自分がこれまでやってきた仕事こそが、自分がもっとも理解している領域だからです。あなたにとってのチャンスは、つまり「飯のタネ」は、そこに必ず存在するはずです。

そのためには、どんなときでも自分を磨いておくことが欠かせません。会社や組織に勤めるビジネスパーソンであれば、組織における自分の仕事を、圧倒的なレベルまで極めておくことです。業績でもスキルでもいいので、他人と差別化できる特長をつくることに注力してください。

他人を恐れずに行動する「異端」という生き方

【澤円】
先に述べられた「自分が信じた道を本気で生きる」という、「異端」の生き方の真意が掴めてきました。他人を気にするのではなく、あくまで自分の人生に集中するということですね。

【きぬた泰和】
その通りです。かつて『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』(ダイヤモンド社)という本が大ヒットしましたよね? 当時わたしは、「こんなに多くの人が他人を気にして生きているのだな」と再認識しました。

でも、自分と向き合い、自分の気持ちに正直に生きていけば、別に他人に嫌われるか、嫌われないかなんて問題にもなりません。

もちろん、他人に嫌われることで命が危険にさらされたり、収入が極端に減ったりする可能性自体はあります。ですが、そんなことは現在の日本社会でふつうに生きている人にはまず起こりません。

にもかかわらず、なぜ他人のことが気になってしまうのか? それは、恐怖があるからです。みんなと同じレールの上で生きてきたために、そこから外れると、「他人から嫌われるのではないか、生きていけないのではないか」と恐れてしまうからです。

【澤円】
自分が信じた道を生きようとしても、ふと恐れを感じるようになってしまっている……。

【きぬた泰和】
行動するときに恐れを感じるのは、人間の本能でもあり、ある意味では自然なことともいえます。だから、いきなり人生のすべてを賭けてはじめる必要はなく、まずはできるところから行動していけばいいのです。

わたしだって、いまのように自分の顔を使った看板広告を首都圏に270箇所も出せるなんて思いもしませんでした。独立したての頃などは、とても怖くて無理でしたよね。そのため、最初はタウン誌のような小さな媒体から、少しずつ自分の顔を出していったのです。自分ができるところから、徐々に成功体験を広げていった結果であるということです。

自分と向き合い、かつマーケットも冷静に観察しながら、できることからやっていくこと。それこそが、成功への王道だと思います。

自分で自分を応援し、自分の人生にこそ感動せよ

【澤円】
著書では、「自分で自分を応援する」という印象深い言葉もありました。これも「個」として生きるために、とても大事なポイントになると思います。

【きぬた泰和】
そうですね。いまは「人生100年時代」といわれますが、実際は、人生は思ったほど長くないのが現実です。なぜなら、健康寿命は、男性72・68歳で、女性は75・38歳(厚生労働省「第16回健康日本21(第二次)推進専門委員会資料」令和元年値)だからです。個人差があるため、人によっては健康寿命が60代後半かもしれません。そう捉えると、人生はさほど長くないことがおわかりになると思います。

そんな短い人生なのに、わたしは、「自分が自分を応援しないで、いったい誰が応援するのか」とむかしから考えて生きてきました。

例えば、いい年齢になっても、スポーツイベントや歌手のコンサートなどで盛り上がる人たちがたくさんいます。人の趣味は自由であり、それが悪いという意味ではありません。でも、もし自分の夢を本気で叶えたいのなら、他人が活躍するさまを見て盛り上がったり、感動したりしている場合ではないと思います。

そんな暇があるなら、1円でも多く稼ぎ、自分が生き残る方法を考えたほうがいい。極端に聞こえるかもしれませんが、わたしはずっと周囲の人にそうアドバイスしてきました

【澤円】
自分の人生を直接的に変えていくためには、まず自分で自分を応援し、自分の行動を変え、昨日よりもいい人生を目指していくという意味ですね。

【きぬた泰和】 はい。イベント事として楽しむ程度ならいいですが、なにより大事なのは自分の人生のはずです。わたしは、あまりに多くの人が、他人の人生に感動し過ぎだと感じています「自分は自分であり、他人は他人」だという事実を、もっと肝に銘じたほうがいいのではないでしょうか。

ちなみに、わたしは今年で58歳になり、あと十数年で健康寿命に到達します。はっきりいって、もうそろそろなんですよ……(苦笑)。

【澤円】
わかります。わたしも今年で55歳なので、それは実感します。「あと何年残されているのだろう?」と、切実に意識することがあります。

【きぬた泰和】
なにも若いうちから、「とにかく焦りまくれ」とはいいません。でも、いま何歳であっても、他人に使っているパワーがあるなら、それを自分自身に向け、自分に時間やお金を投資したほうがいいと思います。

実は、きぬた歯科に訪れる高齢の患者さんは、みんな口をそろえたかのように、「あっという間に老後がきた」と話されます。ある日突然、膝を痛めて杖が必要になったり、配偶者が脳卒中になって寝たきりになったりして、急に介護生活がはじまるのです。

【澤円】
先週までふつうに過ごしていたのに、今週いきなり老後が訪れてしまうのですね。そのときがきてからではもう遅いということですか。

【きぬた泰和】
そうなんです。だから、やっぱり焦ったほうがいいのですよ。他人の言動に振り回されず、他人の人生に感動するのもほどほどにする。そのうえで、自分で自分を応援し、むしろ自分の人生に感動できるように頑張ってほしいと思います。

きぬた泰和(きぬた・やすかず)
1966年、栃木県足利市生まれ。日本歯科大学新潟生命歯学部卒。江戸川区葛西の歯科医院に勤務したのち、1996年、東京・八王子市に「きぬた歯科」を開業。「ストローマン・インプラント」を取り入れるなど、スウェーデンのインプラント専門誌『INside』において、日本でもっとも多くインプラント治療を手がける医師として紹介された。「看板広告」を使ったその独特な広告活動で知られ、現在、看板の数は日本全国に約250を数えるなど、「伝説の看板王」の異名をとる。2023年より「足利みらい応援大使」を務めている。

澤円(さわ・まどか)
1969年生まれ、千葉県出身。株式会社圓窓代表取締役。立教大学経済学部卒業後、生命保険会社のIT子会社を経て、1997年にマイクロソフト(現・日本マイクロソフト)に入社。情報コンサルタント、プリセールスSE、競合対策専門営業チームマネージャー、クラウドプラットフォーム営業本部長などを歴任し、2011年にマイクロソフトテクノロジーセンターセンター長に就任。業務執行役員を経て、2020年に退社。2006年には、世界中のマイクロソフト社員のなかで卓越した社員にのみビル・ゲイツ氏が授与する「Chairman's Award」を受賞した。現在は、自身の法人の代表を務めながら、琉球大学客員教授、武蔵野大学専任教員の他にも、スタートアップ企業の顧問やNPOのメンター、またはセミナー・講演活動を行うなど幅広く活躍中。2020年3月より、日立製作所の「Lumada Innovation Evangelist」としての活動も開始。主な著書に『メタ思考』(大和書房)、『「やめる」という選択』(日経BP)、『「疑う」からはじめる。』(アスコム)、『個人力』(プレジデント社)、『メタ思考 「頭のいい人」の思考法を身につける』(大和書房)などがある。

※本稿は、マイナビ健康経営が運営するYouTubeチャンネル『Bring.』の動画「時代は、本当の『個』の時代へ――。自分をどこまでも応援して、自分の人生に感動する生き方」で配信された動画の内容を抜粋し、再編集したものです