札幌市電を運行する札幌市交通事業振興公社は、1月7日から新型低床車両「ポラリス II」(A1210形)の営業運転を開始した。既存の「ポラリス」(A1200形)と比べて通路幅が広くなり、車内の移動が容易になっている。デビューを記念し、1月11日に一般向けの貸切ツアーも開催された。

  • 札幌市電の新型低床車両「ポラリス II」がデビュー。1月11日に記念の貸切ツアーが行われた(筆者撮影)

近年、札幌市電で継続的に超低床車両の導入が進められており、2013年に3車体連接タイプの「ポラリス」(A1200形)、2018年に単車タイプの「シリウス」(1100形)が登場。車両の更新が少しずつ進む一方で、一部の停留場で乗客の積残しが発生するなど、車両設備の改善(大型化)が課題となっていた。札幌市電の課題を解決するため、製造された新型車両が「ポラリス II」である。

「ポラリス II」の形式名称はA1210形であり、「ポラリス」(A1200形)の改良型という位置づけになっている。3両分の車体を連接構造でつなげ、先頭車をA・B、中間車をCと割り振っている。

「ポラリス」との違いは? より利用しやすい車両に

「ポラリス II」のデザインは、これまでの「ポラリス」や「シリウス」を踏襲したものであり、外観において大きな違いはないように見える。しかし、乗客がより利用しやすくなるように、いくつか改善された点があるという。

  • 「ポラリス II」の内観(札幌市交通局提供)

最大の違いは車内の通路幅。新型車両の「ポラリス II」は、既存の「ポラリス」と比べて通路幅が最大14cm広くなっている。通路幅の拡張にともない、定員は「ポラリス」の71名に対し、「ポラリス II」では75名に増加。先頭部の行先案内表示器を日本語・英語の2か国語表記とするなど、外国人観光客らへのサービスも向上させた。通常は設定されない行先であっても、日本語と英語が併記される。

「ポラリス II」の座席は、「ポラリス」と同じくセミクロスシートの配置に。両先頭車(A・B車)は1人掛けのクロスシート、中間車(C車)はロングシートを採用した。車両を保有する札幌市交通局の担当者によると、停留場との距離の兼ね合いもあって車両の幅を変えることができないため、通路の拡幅は座席幅を狭めることで実現したとのことだった。

  • 先頭車両のLED行先表示器。通常ではめったに見られない静修学園前行の表示も(筆者撮影)

  • 「ポラリス」の横を通過しようとする「ポラリス II」(筆者撮影)

「ポラリス II」は当初、12月下旬から1月上旬までの間に営業運転を開始する予定と発表されたが、実際には1月7日から営業運転を開始した。今回は1編成のみの導入だが、札幌市の計画によると、「ポラリス II」は今後5年間にわたり、1年につき1編成、合計5編成を導入する予定だという。旧型車両を置き換え、車両の大型化を図るが、置換え対象の車両は現時点で未定とされた。

ファンも家族も大満足! 「ポラリス II」デビュー記念貸切ツアー

デビュー後の1月11日、「ポラリス II」のデビューを記念した貸切ツアーが開催された。参加費用は1名あたり5,000円。事前に応募した小学生以上の合計約40名が参加した。午前・午後の2回開催され、親子連れや鉄道ファンらが新型車両を体感した。

  • 電車事業所を出発する「ポラリス II」。その隣で8510形が停車していた(筆者撮影)

今回、筆者は2回目となる14時からの回を取材した。電車事業所の3階にある会議室が会場となっており、13時30分に受付が始まると、ツアーの参加者が続々と会場に入ってきた。

会場のスクリーンに札幌市電の仕事を紹介する映像が再生され、市電にまつわる部品の展示やグッズ販売も行われた。販売されているグッズを見ると、「ポラリス II」の靴下(大人・こども用)が新商品として並んでおり、品定めしている参加者もいるようだった。

  • グッズ販売会場(筆者撮影)

  • 札幌市電の車両で使用された部品等の展示も(筆者撮影)

開始時刻の14時になると、司会を務めた札幌市交通事業振興公社の担当者による紹介とともに、2019年の「LRTサミット」で上映された映像や、「ポラリス II」を紹介する映像が上映された。「ポラリス II」の映像は、同車両が北海道の地を踏む瞬間から始まり、陸送の様子や、電車事業所に入線するまでの様子が1本の動画にまとめられていた。今後、YouTube等でダイジェスト版を公開するかもしれないが、フルバージョンの視聴はこの日のみとのことだった。

休憩を挟み、参加者たちはいよいよ「ポラリス II」と対面。札幌市交通事業振興公社の担当者らに案内され、説明に耳を傾けつつ、新型車両をじっくり見学していた。普段は見られないような行先表示が登場したり、「ササラ電車」雪形との並びで撮影できたりと、鉄道ファンらが喜ぶようなサプライズも用意された。その後、15時となり、「ポラリス II」の貸切列車は電車事業所を出発。内回りで1周し、1時間ほどで電車事業所に戻ってきた。

  • 雪の降る中、参加者たちは「ポラリス II」との初対面を楽しんだ。「ポラリス II」と「ササラ電車」雪形が並ぶ場面も(筆者撮影)

  • 「ポラリス II」の貸切列車は内回りで1周した(筆者撮影)

札幌市電において、2018年の「シリウス」導入以来、7年ぶりの新型車両デビューとなった「ポラリス II」。課題となっていた「車両設備の改善(大型化)」を解決するとともに、札幌市電の利便性向上にも期待が寄せられている。