第83期順位戦B級1組(主催:朝日新聞社・毎日新聞社・日本将棋連盟)は、11回戦計6局の一斉対局が1月16日(木)に各地の対局場で行われました。このうち名古屋将棋対局場で行われた澤田真吾七段―近藤誠也七段の一戦は187手で澤田七段が勝利。敗れた近藤七段ですが他局の結果を受け自身初となるA級昇級を決めています。

ハイライトは深夜に

2つの昇級枠を争うB級1組はここまで近藤七段と糸谷哲郎八段が8勝で首位グループを形成。3番手以下が5勝にとどまる状況ではこの二人が昇級の最有力候補です。澤田七段の先手番で始まった対局は角換わり腰掛け銀の定跡形に進展、後手の近藤七段は5筋の歩を突いて自玉を中住まいに構える構想で自身の前例をもとに指し進めていきます。

中盤の勝負所では互いに長考の末、盤上は先手ペースで推移します。対局開始から半日が経った22時ごろ、澤田七段が眠っていた飛車を大きく左に転回したのが混戦を抜け出す好手。こうなると飛車の侵入を見せられた後手は暴れるよりなく、これに伴い局面の焦点は近藤七段がいかに先手玉に食いつけるかに絞られました。両者一分将棋の死闘が幕を開けた瞬間です。

絶望からの吉報

飛車を見捨てて猛攻を続ける近藤七段にやがて一筋の希望が差し込みます。端に追い込んだ先手玉は絶体絶命で、寄せありと見るのが大方の第一感。「端玉には端歩」の格言通りに歩を突いたのはひと目の手筋ですが、本局に限ってはここに落とし穴がありました。結果的にここは歩頭に桂をねじ込む異筋の犠打が唯一の正解で後手優勢と結論付けられました。

九死に一生を得た澤田七段は手にした豊富な持ち駒を生かして反撃に出ます。終局時刻は翌17日0時32分、最後は自玉の即詰みを認めた近藤七段が投了。一瞬のピンチをしのいだ澤田七段は5勝5敗の五分で中位をキープしました。敗れて8勝2敗となった近藤七段ですが、ライバルが敗れたため2局を残してA級昇級と八段昇段が決まっています。近藤七段は局後「(20代でのA級について)目標にしていたので達成できて良かった」と喜びを語りました。

同日別会場で行われていた対局で勝利し、9勝2敗とした糸谷八段もA級昇級を決めています。

水留啓(将棋情報局)

  • 日付を超える熱戦を制した澤田七段(写真は第58期王位戦挑戦者決定戦のもの 提供:池田将之)

    日付を超える熱戦を制した澤田七段(写真は第58期王位戦挑戦者決定戦のもの 提供:池田将之)