ハーレーダビッドソンはバイクをデザインする際、世界的なトレンドをどのくらい気にしている? ハーレーがなかなかバイクのモデルチェンジを実施せず、時間をかけて熟成を進める理由は? 米国本社でデザイン部門のトップを務めるブラッド・リチャーズさんに気になることをいろいろと聞いてみた。

  • 「YOKOHAMA HOT ROD CUSTOM SHOW 2024」のハーレーブース

    「YOKOHAMA HOT ROD CUSTOM SHOW 2024」(12月1日にパシフィコ横浜で開催)に来場したリチャーズさんを直撃!

「パンアメリカ」誕生の背景とは

――現在、バイクをデザインする際にどんなことを考えていますか?

リチャーズさん:いつも考えているのは、世界中のどんな体型の人にも適用できるデザインです。特に、エルゴノミクス(人間工学)の観点から乗りやすさを重視した形のモデルをいろいろと作っていますね。例えば、「ソフテイル」はハーレーの中でシート高を最も低くすることができるカテゴリーで、世界中の方に乗っていただけることを目指しています。

  • 「YOKOHAMA HOT ROD CUSTOM SHOW 2024」のハーレーブース

    「ソフテイル」の誕生40周年を記念してJoyrideが製作した日本発の「ローライダー ST」パフォーマンスカスタム。今後は実際にサーキット走行も行う予定とのこと

――バイクの世界では今、何がトレンドになっていますか?

リチャーズさん:大きく2つのことが言えると思います。1つはパフォーマンスです。軽量化などにより、バイクの性能を上げていくことが以前よりもどんどん進んでいますね。もうひとつはオフロードとオンロードの両方を走れる走行性能の高いデュアルスポーツモデルの開発が業界全体で進んでいることです。ハーレーダビッドソンの「パンアメリカ」は、まさにその流れを汲むモデルです。

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    2021年にハーレーダビッドソン初のアドベンチャーツーリングモデルとして登場した 「パンアメリカ」(写真はパンアメリカ1250スペシャル)。実は、このバイクも世界のトレンドから誕生した1台だった

――「アドベンチャー」はハーレーが進出していなかった領域ですが、パンアメリカの登場によってどんな変化がありましたか?

リチャーズさん:それまでのハーレーオーナーは基本的に、舗装された道路を走ることを楽しんでいました。しかし、パンアメリカが出たことで、荒れた路面も走れるようになりました。ハーレーをより楽しんでいただくきっかけになったと思います。

時間をかけてバイクを熟成させる理由

――ハーレーは日本メーカーと比べてモデルチェンジが少ない一方で、長い時間をかけてどんどんバイクを熟成させていく印象です。これにはどんなブランド哲学があるんですか?

リチャーズさん:ハーレーはルックス、サウンド、フィールという感覚的な部分をすごく大切にしていて、機能性においてもエモーショナルな部分をとても重視しています。そういった土台をすでに作り上げてきているので、あえてそれを崩して新しいものを作っていく必要はないと思っています。パンアメリカも完全に新しいモデルではありますが、ベースには感覚的な部分を取り入れて、新しいプラットフォームの中でもハーレーらしさを失わずに楽しむことができるかを考慮して開発しています。

  • 「YOKOHAMA HOT ROD CUSTOM SHOW 2024」のハーレーブース

    2024年モデルの「エンスージアストコレクション」。「タバコフェード」という特別なペイントとグラフィックは、1960年代にアメリカで発祥したガレージロックにインスパイアを受けて開発したそうだ

――すでに土台があるということですが、バイクをデザインする上では、逆にその土台が縛りになったり、制限になったりして難しい側面もあるのでは?

リチャーズさん:もちろん、良い面と難しい面の両方があります。難しい面として、新しいテクノロジーが入ってくることによって、モーターサイクルのソウル的な部分が失われてしまう感覚があります。良い面としては、すでに皆さんが愛してくださっている土台があるので、そこから開発することができます。私自身は、こうしたデザインの仕方ができることは、すごくやりやすいと感じています。

ハーレーのデザイントップが注目する年代は?

――ハーレーの歴史の中でも象徴的なモデルを選び、現代の技術で復活させる「アイコンコレクション」というシリーズがありますが、車種はどういう基準で選定しているんですか?

リチャーズさん:世代によってノスタルジックや懐かしさ、カッコよさを感じるポイントは違うと思います。その年代が被らないということは意識しながら、みんながカッコいいと思えるものが作れるモデルを選んでいます。

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    2024年モデルのアイコンコレクション「ハイドラグライド リバイバル」。「FLH」(1956年モデル)のスラッシュペイントを再現し、カスタムシーンからインスパイアされたソロシート、サドルバッグなどを採用している

――アイコンコレクションではこれまで、かつてのアメリカのカスタムシーンにインスパイアされたモデルが登場してきました。今後、注目している年代はありますか?

リチャーズさん:これまでは1940年代~1950年代に影響を受けたモデルが中心でしたが、1970年代~1980年代にもすばらしいバイクがあります。個人的には、こうした少し新しい世代に興味を持っています。

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    イベントもインスピレーションが得られる場のひとつだとブラッドさん。「会場でお客様がどういうバイクに注目しているのかなどを見て、デザインの参考にしています」

――最後に、日本のカスタムシーンにはどんな印象をお持ちか教えてください。

リチャーズさん:日本に来て、いつも面白いと思うのが、いろいろな違ったジャンルのものを合体させて作るカスタムがすごく強いということです。例えば、パフォーマンスとチョッパーの組み合わせは日本独特で、アメリカの場合だとチョッパーはチョッパー、パフォーマンスはパフォーマンスになります。新しいものを集めて作り上げる日本のカスタムには、私自身すごく刺激を受けています。