埴輪が初めて国宝に指定されてから今年でちょうど50年。東京・上野の東京国立博物館 平成館で、挂甲の武人 国宝指定50周年記念 特別展「はにわ」が開催されています。“埴輪の最高傑作”と評される国宝「埴輪 挂甲の武人(けいこうのぶじん)」と、独特のゆるい造形で愛される同館の人気者「埴輪 踊る人々」を筆頭に、東北から九州まで約50箇所から、約120件の選りすぐりの至宝が集結。タイトルの冠につけられた「挂甲の武人」「国宝」「50」の3つのキーワードが、空前規模のスケールを象徴しています。

  • 東京国立博物館で挂甲の武人 国宝指定50周年記念 特別展「はにわ」が開催

同展を象徴する3つのキーワード「挂甲の武人」「国宝」「50」

埴輪の造形美の極致とされ、郵便切手のモチーフにもなった同館所蔵の国宝「埴輪 挂甲の武人」。この埴輪には、実は同一工房で製作されたと考えられる、兄弟のようによく似た埴輪が4体います。同展は、アメリカ・シアトル美術館から約60年ぶりの里帰りとなる1体をはじめ、ふだんは国内外の別々の博物館や美術館に所蔵されている「挂甲の武人」たち5体が、史上初めて一堂に会するという超貴重な機会なのです。

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「国宝」というキーワードは、「第1章 王の登場」の展示品が“国宝オンリー”の非常に贅沢な構成だということ。「金象嵌銘太刀」「金製耳飾」「金銅製沓」など、ここで登場するのはすべて国宝。王の役割の変化と連動するように移り変わる副葬品から古墳時代を概説し、埴輪が作られた時代と背景を、すべて国宝で振り返っています。

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また「50」という数字は、全国各地の約50箇所の所蔵・保管先から作品が集結したこと、1973年(昭和48年)、東洋館で特別展観「はにわ」が開催されてから約50年ぶりに、満を持して開催される「はにわ展」だということ。現在にいたる“埴輪の50年間”を振り返りながらも「単なる名品展にはしたくなかった」と、同館 学芸研究部 考古室主任研究員の河野正訓さん。そこで、この50年間で格段に進んだ埴輪に関する調査の最新の研究成果をできるだけわかりやすく伝える構成とし、それに合う最高の作品を選んだと自信をのぞかせます。

  • 展示風景

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埴輪といえばコレ! 「埴輪 踊る人々」が修理後初のお披露目

古墳時代の3世紀から6世紀にかけて作られた埴輪。日本列島で独自に出現し発達した埴輪は、服や顔、しぐさなどを簡略化し、丸みを持った特徴で、世界的にも珍しい造形。展示は同館の代表的な所蔵品のひとつ「埴輪 踊る人々」から始まります。

  • 「埴輪 踊る人々」埼玉県熊谷市 野原古墳出土 古墳時代・6世紀/東京国立博物館蔵

「埴輪といえば、この2体を思い浮かべる人がほとんどだと思います。埴輪のアイコンとして認知されている最も有名なこの埴輪は、2022年10月に修理のために東博を離れ、今年3月に戻ってきました。久しぶりで表情が硬いですかね? いつも通りだと思うんですけど」と、担当学芸員の山本亮さん。

「最近の埴輪研究で、同じ古墳に立てらえた埴輪は、円筒部の高さを揃えていることがわかり、今回の修理では平均的なサイズに合わせて2体の高さを揃えました。また、久しぶりで恥ずかしいのか、顔が赤くなっているように見えますが、これはもともとの色。古い出土品は来歴を示すために土汚れを落とさないことがよくありますが、土汚れを落としたところ赤みの強い色が表れて、修理後はずいぶん赤ら顔になりました」(山本さん)

  • 同館 学芸研究部 調査研究課 考古室研究員の山本亮さんが頭に着けているのは、古代男性の髪型「みづら」を再現したカチューシャ

長らく“踊っている”と理解されていたこの埴輪ですが、実は最近の調査研究によって、“馬を引いている埴輪”説が有力となっています。埴輪は異なる種類を組み合わせてストーリーを表現するもので、たとえば狩人と鹿やイノシシの埴輪の組み合わせは、“狩り”を表現。そのため、組み合わせによっては踊っている場面を表現している可能性も捨てきれないそう。この「踊る埴輪」が来場者を出迎え、埴輪の世界へと誘います。

史上初! 国宝「埴輪 挂甲の武人」と兄弟ハニワ5体が勢揃い

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一番の目玉が第4章、史上初めて5体の「埴輪 挂甲の武人」が揃う大空間。同館が所蔵する国宝の「挂甲の武人」は、その勇壮な姿や気高い表情から“埴輪の造形美の極致”とされ、40年以上も切手のモチーフとして活躍。教科書に出てくる埴輪であり、映画『大魔神』のモデルにもなっています。頭から足先まで、これほど鎧を身に着けている埴輪は例がなく、非常によく似た5体の中で表現がより精緻なのが、この挂甲の武人。

  • 「埴輪 挂甲の武人」群馬県太田市飯塚町出土 古墳時代・6世紀/東京国立博物館蔵

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4体は群馬県太田市から、1体は伊勢崎市から出土した5体の挂甲の武人は、同じ工房で作られた可能性が高いそうですが、矢入れ具など持っているアイテムが少しずつ異なっています。同館の挂甲の武人は足が鎧ですが、ほか4体は布製の着物。文様があしらわれているものもいれば、省略可されたものもいて、そうした違いを探していくのも楽しいですね。

  • 調査により白・赤・灰の3色が全体に塗り分けられていたと判明した「埴輪 挂甲の武人」。彩色復元で製作当時の鮮やかな姿に

「同館では約50年周期で『はにわ展』を開催しています。今回は準備に5年をかけ、120件以上の作品が揃いました。各博物館のエース級を惜しげもなくご出品いただき、奇跡的に開幕を迎えることができました。これだけの作品が揃うのは本当に大変なことで、おそらく私が生きているうちにもう一度これだけのものが揃うのは難しい。ありえるとしたら50年後、未来の研究員が国宝指定100周年記念の企画をたちあげて、これ以上の展覧会を開催してくれると期待しています」(河野さん)

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“ハニワ界のスター”がこの規模で集結する次の機会は50年後……と思うと、これは見逃せない! 至高の埴輪たちが集結した特別展「はにわ」は、12月8日まで開催です。

■information
挂甲の武人 国宝指定50周年記念 特別展「はにわ」
会場:東京国立博物館 平成館
期間:10月16日~12月8日(9:30~17:00 ※毎週金・土、11/3は20時まで)/月曜休、ただし11/4は開館、11/5は本展のみ開館
料金:2,100円/大学生1,300円・高校生900円/中学生以下、および障がい者手帳提示の方および付添者1名まで無料