夏から秋にかけ急増する「マイコプラズマ肺炎」。今年は特に多く、過去10年で感染が最多に。対面・オンライン診療を展開する医療法人社団エムズ クリニックフォアグループ会長・Chief Medical Officerで医師の村丘寛和氏が、症状や治療法について解説している。

  • マイコプラズマ肺炎(写真はイメージ)

「マイコプラズマ肺炎」の症状は? 子どもだけでなく大人も罹患

マイコプラズマ肺炎は、「肺炎マイコプラズマ」という少し変わった細菌によって引き起こされる感染症で、子どもが罹る病気と思っている人もいるが、大人も罹患する。

症状に関しても大人と子どもに差はなく、空咳、発熱、喉の痛み、さらに嘔吐、下痢などの消化器症状が挙げられる。また特徴的なのは、全体の約25%に現れる胸痛で、これは肺の炎症が胸の内側まで広がって起きるものであり、助骨や筋肉の痛みとは異なる。肺炎というが、痰が少なく、風邪のような症状や、お腹などの肺以外の症状を伴うのが特徴。

一般的には軽症で経過することが多いが、乳幼児、高齢者、基礎疾患のある方などは重症化のリスクが高まる。また、適切な治療が遅れた場合や、他の感染症を合併した場合にも重症化することがあり、肺炎が進行することによる呼吸困難、39度以上の高熱が続く、脳炎、心筋炎、溶血性貧血、ギラン・バレー症候群などの合併症を引き起こすことがあり、重症な症状や合併症のサインを認めた際には、早期に診察を受けることが重要となる。

風邪との見分け方、ポイントは?

マイコプラズマ肺炎の症状のなかでも、痰を伴わない咳、通常「空咳」と呼ばれるものが最も多く、重症感がなく、咳が続くため「ただの風邪」と自己判断してしまうケースが多いという。また感染経路は、咳やくしゃみなどの飛沫感染が主で、発症前から菌の排出があるため感染に気づかずに多くの人にうつしてしまう可能性も。

見分け方のポイントとしては、特徴的な痰を伴わない乾いた咳と、消化器症状などの追加の症状。咳以外の症状としては、発熱は微熱~38度程度、咽頭痛、下痢といった消化器症状、胸痛などがある。感染経路としては、飛沫感染・接触感染するため、感染力が高く、家庭内で子どもがかかった後に大人がかかるというケースも多くみられるため、周囲に感染している人がいるかどうかもポイントになる。

特に今年の夏は猛暑ということもあり、エアコンの使用頻度が高いせいで、喉の不調や咳を訴える患者もいるという。エアコンによる乾燥や風邪と思ってしまう人も多く、よりマイコプラズマ肺炎の罹患に気づかない要因に。

東京都では今年8月から流行、9月末から再度感染者数が急増

東京都感染症情報センターの「マイコプラズマ肺炎の流行状況」をみると、7月から前週比が大幅に増え、8月中旬に頭打ちかと思いきや、お盆休みの影響か、8月下旬にかけて再度増加傾向にあることがわかる。また9月に入り流行が下火になったかと思いきや、月末から10月頭にかけて再び感染者数が増加している。この流行数値は、前回大流行した2016年水準となっている。

  • マイコプラズマ肺炎の流行状況(出典: 東京都感染症情報センター)

また、都内流行マップ(保健所別)をみると、足立区・葛飾区・荒川区・墨田区・江戸川区・江東区の6区で最大値を記録している。この6区は8月末から高い感染数がみられていたが、杉並区・中央区・新宿区でも感染が拡大していることがわかる。

  • 都内流行マップ

「オリンピック病」とも呼ばれる理由、パリ五輪との関連は?

マイコプラズマ肺炎は、日本を含め各国で周期的に流行を繰り返しており、日本において顕著な流行が見られたのは過去10年では「2015年」と「2016年」。これらの年は、患者数が例年よりも大幅に増加し、社会的な問題となった。コロナ禍以降は流行がなかったが、2024年春ごろから増加し始めた。また、マイコプラズマ肺炎は数年ごとに流行しており、よくオリンピックイヤーに流行を認めていたことから、「オリンピック病」とも呼ばれるきっかけにもなっている。

今年の流行に関しても、パリオリンピックが開催された年。ただし、オリンピック開催年だからといって必ずマイコプラズマ肺炎が流行するわけではない。あくまで過去の流行傾向から、オリンピック病と呼ばれるようになっただけだが、夏から秋にかけて流行する病気であり、これからの季節も油断は禁物だという。

検査と治療の方法は

マイコプラズマ肺炎は自然に治癒することが多い疾患ではあるが、検査と抗生物質による治療も可能。検査に関しては、即時で判明する抗原検査、抗体を調べる血液検査、LAMP法というPCR検査のように核酸を検査する方法などがある。医療資源や患者さんの状態に応じて、適切な検査が選択されるという。

子どもに関しては抗生剤の内服の判断や、感染に対して出席停止措置などもあることから、検査する機会が多いと考えられる。大人に関しては、比較的症状が軽症なことが多く、自然に治癒する病気でもあること、検査結果が出るまでに2-3日かかることもあり、処方薬で対応する場合が多い。マイコプラズマ肺炎と思われる症状が重たい場合や、家族や職場などで感染者がいる場合、他に合併症がある場合には、レントゲン検査やマイコプラズマ検査が検討される。

マイコプラズマ肺炎の治療は、抗生物質の服薬治療がメインとなる。通常の細菌とは異なり細胞壁を持たないため、ペニシリン系やセフェム系の抗生物質は効果がなく、マクロライド系、テトラサイクリン系、ニューキノロン系の抗生物質が有効とされている。近年、これらの抗生物質が効きにくい耐性菌の出現も報告されているが、適切な抗生物質を服用することで、症状の改善や重症化の予防が期待できるという。