現在、数多くの企業が直面している慢性的な人手不足。どの業界も少しでも多くの応募者を集めようと採用担当者は必死になっています。どこの企業でも念入りな採用計画と採用戦略を立て、採用活動にかなりのリソースと費用を投入しているのです。

しかし、多額のお金と時間を投資して採用活動をしているにもかかわらず、内定辞退が相次ぎせっかくの努力が水の泡になってしまう企業も数多くあります。

今まで、内定辞退が立て続けに起こって悩んでいる企業がこれほどまでに多くあったでしょうか? この問題にはいくつかの原因があり、その原因を抑えておくことが重要なのです。本記事では、内定辞退の原因とその対策について解説。企業にとって将来有望な「人財」を逃さないためにぜひお役立てください。

今は売り手市場でどこの会社も慢性的な人手不足

少子高齢化や人材のミスマッチにより、人手不足が顕著化しています。業種によっては景気に左右されず常時買い手市場になっているところもありますが、売り手市場の業種が多く、どの企業も人手不足に陥っています。

若者の仕事に関する価値観の変化というのも売り手市場を誘発している要因の一つであると考えられます。

現代の若者が仕事に対して求めていることは、「残業がない」「給与が安定している」といった「働きやすい職場環境」だけでなく、仕事に対する「やりがい」や「自己成長」「成長実感できる」といった「働きがい」まで求めるようになりました。

そのためいくら「働きやすい職場環境」が整っていたとしても働きがいのない会社は、若者から嫌遠され、いわゆる「ゆるブラック」や「ホワイト離職企業」などと皮肉られることになるのです。

慢性的な人手不足で売り手市場の現代社会では、「会社が人を選ぶ」採用から「選ばれる会社」の採用へと変わらなければならないのです。

応募者に選ばれる会社と選ばれない会社の違い

選ばれない会社の失敗例とは?

インターネットの口コミサイトやSNSの普及により、情報収集力が昔と比べて格段に上がっています。今どきの求職者は、より詳細でかつマニアックな会社の裏事情まで調べ上げているのです。

そのため求人広告やHPの採用ページ、SNS等で好待遇や映え写真を載せて素敵な職場環境をアピールしたとしても、「ブラックなうわさ」がネット評判でひそかに広まっていると採用市場での人材の確保は間違いなく難しいと言えるでしょう。

また、あの手この手を使ってようやく少数の採用ができ、ほっとひと安心する企業があります。しかし、そこで気を抜いてしまい、そのまま放置した結果、内定辞退が連発し、気付けば今年の新卒採用ゼロなんてこともよくある話です。

「内定をもらっているのはうちだけじゃない」という自覚が圧倒的に足りない企業が陥る典型的な失敗例です。就活中の学生はいくつも企業から内定をもらって、将来自分が「旅する船(働く会社)」の品定めをしているのです。

では、数多くの内定を得ている就活生や求職者に「選ばれる会社」になるためにはどんな手を打っていけばよいのでしょうか?

採用するにあたっては、労働条件や待遇面、福利厚生など同業他社に負けない水準にするといった施策はもちろんですが、それ以外にも「選ばれる会社」はありとあらゆる採用戦略をとっているのです。

優良企業ランキングの活用がおすすめ

採用戦略において、多くの企業から注目されているのが「企業ランキング」を活用した手法です。ランキングは、企業の魅力を客観的に評価し、求職者が会社を選ぶ際の判断材料となるため、企業の採用活動において重要な指標となります。

ランキングに登場する企業は、注目されている人気の高い「魅力的な職場」として認識されます。このような客観的な評価を得ることで、求職者の注目を集めるだけでなく、企業イメージの向上やビジネスにも好影響を与えるなど副次的な効果をもたらすことも期待できるのです。

とくに、求職者が重視する「働きやすさ」や「成長できる職場環境」をアピールするためには、ランキングを活用する際に自社の強みを組み込むことが重要です。

例えば、新卒・若者をターゲットにしているランキングを活用し、「人材育成に力を入れている」ということをアピールポイントにできれば、成長意欲の高い若者たちから「働きがい=自己成長ができる環境」がある企業と認知され、同様のニーズがある求職者が集まりやすくなり、結果として採用後のミスマッチも減少します。

「企業ランキング」と聞くと、大企業ばかり対象になると思われがちですが、実際には中小企業をターゲットしたものや企業規模ごとのランキングもあります。

また、「若手に人気」「女性が働きやすい」など、支持層別のランキングなど様々なカテゴリーのランキングが存在するのです。

自社の強みやターゲットに合った企業ランキングを選ぶことで、求職者からの多数の応募獲得と採用ミスマッチの防止、この両面の実現が期待できると言えるでしょう。

インスタグラムで採用ブランディングを訴求

ある企業では、採用ブランディングの一環としてSNSを効果的に活用し、意図的に「選ばれる会社」を作り上げています。その仕組みが非常に面白いのです。

発信者である新卒に近い年齢の社員たちが、趣味やプライベートなど日常の様子をインスタグラムで投稿することから始まります。

まずは個人の魅力にフォーカスし、親しみやすい人柄や憧れのプライベートライフを前面に出し、ターゲット層である学生・若者などのフォロワーを増やしていくのです。

その後、徐々に職場の風景や仕事の様子を投稿に加え、会社との結びつきを強めていきます。これにより、フォロワーは「こんな素敵な人たちが働いている会社ならば、きっと魅力的な職場に違いない!」と思い込むのです。

若手社員への憧れを通じて、その会社にも自然と好感を持たせるという採用戦略です。

この採用ブランディングは、内定者へのアプローチとしても非常に効果的です。採用プロセスの段階から「この会社に入りたい」「この人と働きたい」という気持ちを抱かせることで、求職者にとって第一志望の企業として選ばれる可能性が高まります。

このように、個々の社員の魅力をSNSから発信することで、採用におけるブランド力を高め、会社全体への憧れを抱かせる方法が注目されています。

内定辞退が多い会社がとるべき対策

せっかく苦労して内定者を獲得しても、内定辞退により他社へ流出してしまっては、元も子もありません。無駄な採用費用を垂れ流すことになるのです。内定辞退を防止する対策を確実に実行していくことが求められます。

内定辞退防止の大定番「内定者フォロー」

内定者フォローとは、内定後も内定者と積極的に接点を持ち、関係を深めていくことを意図的に作り出す機会のことを言います。

とくに新卒採用においては、いくつも内定を獲得している就活生からの内定辞退を防ぎ「選ばれる会社」としての地位を確立するための最重要戦略といえるでしょう。それでは内定者フォローの代表的な事例を紹介していきます。

ランチ会

内定者同士や若手社員との交流の機会として、一緒にランチを取りながら気軽なコミュニケーションの場を提供します。働く社員の人柄やチームワークという点をアピールするのにはとても有効です。

カジュアル面談

社員と直接会う機会を設け、企業文化や働き方、キャリアプランについての理解を深めてもらいます。また内定者自身の将来思い描いているキャリアイメージを聞き出すことにより、採用のミスマッチ防止にも効果的です。

一度限りではなく、様々な社員たちと複数回面談を組むことがポイントです。内定者にいろんなキャリアプランがあることを認識してもらえます。

内定者インターンシップ

実際の業務を体験し、企業の雰囲気をじかに感じてもらうことで、より実務レベルで働くイメージを膨らませることができます。インターンシップで重要なことは「この業務がどんな価値を提供しているのか?」といった1つひとつの業務に対する意義付けを丁寧におこなうことです。

社内イベントへの参加

内定者が社内のイベントに参加することで、会社全体で働く社員にはどんな人たちがいるのか?先輩や上司はどんな人なのか?人柄を知ることができ、より具体的な職場のイメージを持たせることができます。

内定者フォローのメリットは、これから働く職場はどんな企業で、どんな人がいて、どんな仕事があるのかということを入社前するから理解してもらうことで、入社後のキャリアイメージを広げ、内定企業への入社意向を醸成させることができるということです。

最後に

戦略的な採用活動を確実に実行し、人材獲得のシステムを構築していくことこそが、慢性的な人手不足に陥っている現代社会で、企業として「勝ち組」になるなによりの近道だと言えるのではないでしょうか。

著者プロフィール:薄井崇仁

社会保険労務士法人 大槻経営労務管理事務所
執行役員 特定社会保険労務士
2007年1月入所後、大小様々な規模のクライアントの労務相談およびアウトソーシング業務を担当。その後従業員からの問い合わせに直接対応する「社労士ダイレクト」事業部に配属。2017年3月執行役員に就任。クライアントに対し総合的なアウトソーシングサービスを提供しており、新サービスの開発にも積極的に取り組んでいる。
労働環境に様々な変化が起きている現在、企業にとってベストは何かを考えて課題解決へと導き、クライアントの働きやすさと働きがいの向上を全力で支援している。